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八十三話 発掘作業

 キシたちは、地下に伸びる建築物の発掘作業現場に到着した。ここで別れていたビルギたちとも合流を果たす。


「『後ろ足を上げる糞虫スカラベ』から、キシは犠牲になったって連絡がきて、心配していたんですよ。でも、無事そうで安心しました」


 ビルギの安堵の笑顔に、キシは意地悪そうに口の端を歪める笑い方をする。


「俺は無事だったけど、ファウンダー・エクスリッチは廃棄処分になるほどボロボロにされて、戦いにも負けたんだけどな」

「機械なんて、壊れるものですよ。大事なのは、人間の命です。こればっかりは、一度壊れたら修復ができませんからね」


 キシとビルギが話し込んでいる横では、ティシリアとアンリズが発掘状況の確認を行っていた。


「それで、崩落した瓦礫の撤去作業は上手く言っているのかしら?」

「やはり道中に落ちている人型機械の残骸が、作業の邪魔になってるわ。放置していた他に取られたらと思ったら、基地の瓦礫を撤去するのは後回しにしないと、気が気じゃなくて作業に手を付けられないんだそうよ」

「目の前の利益に執着してどうするんだか。瓦礫の先にこそ、人型機械の残骸より価値の高い情報があるはずだっていうのに」


 ティシリアは軽く嘆いてみせてから、ふと疑問を覚えた顔つきに変わる。


「それと『基地』って、ここのことを呼んでいるのね。それって、詳しく調べてみたら人型機械の基地だって分かったってことかしら?」

「作業をしている人たちが『基地』と呼んでいるだけよ。けど、適当な呼称が他になかったから、いつの間にか共通認識として全員が使っていたわね」

「ふーん。通称で『基地』ってことね。わかったわ。報告の続きを聞くわ」


 アンリズの報告によると、残骸と化した人型機械を集めるために、各階の補強は十分すぎるほどに行われていたそうだ。そして、人型機械の残骸を入手した人たちは、がれきの撤去作業を行わないで持ち逃げしないように契約をしてあるらしい。


「もし逃げたら、我々の情報網で『信用できない人物ないしは組織』と公表すると脅してあるわ。これで逃げるようなら、本当の馬鹿だから、相手にする価値もないわね」

「アンリズってば、相変わらず辛辣よね。でも、やり方は任せるわ。アンリズのやり方は確実だと思うしね」

「はい。期待に応えてみせるわ」


 報告を終えたアンリズは、頭に安全ヘルメットを被り、現場監督のために『基地』と呼称されることになった地下施設へ向かって行った。

 そうした業務連絡を尻目に、キャサリンは自分の分身ともいえるキャシーと会話をしている。


「こっちにメカニック二人を連れていっちゃったことで、食料と水が足りなくなっていると思ったから、弾薬箱に詰めるだけ詰めて持ってきたわん。これでしばらくは安泰よん」

「水が足りなくなっていたところだったからぁ、ありがとう~。あと二、三日したらぁ、フルフリッツの水の生成器を動かすかってぇ話していたのよ」


 喜んでいるキャシーに、キャサリンは欲情を隠さない目つきで問いかける。


「それで、作業員の中に良い感じの『お・と・こ』はいたかしらん?」

「女日照りで飢えている男性ばかりだからぁ、より取り見取りよ。けど、目つきが嫌らしいからぁ、ワタシは遠慮しているわ」

「あらん、意外ね。あなたもワタシなんだから、一人二人、パックンしていると思ったのに」

少女この体になってからぁ、どうも肉欲的な欲求は低くなっちゃって、その代わりに青春ピュアな恋愛が欲しいのよぉ。きっと、肉体年齢に精神年齢が引っ張られてるのよ、物語にありがちなね」

「ワタシは、地球の頃と変わらずに肉欲派だけどねん。ここ最近は大人しくしていたから、身を持て余しちゃって辛いわん」

「なに言っているのよぉ、休憩所で暮らしていたときも、ソロ活動ばっかりだったくせにぃ」

「ふんっ。ワタシの目に敵う男がいなかっただけよん。でも、これだけの大人数、作業員がいるなら、一人二人ぐらいは見つけられそうじゃないかしらん?」

「ご自由にすればいいわぁ。ワタシは遠慮しておくし、粉をかけたいならキシにするもん」

「あー、ズルいわん。ワタシだって、キシとアバンチュールできるなら、それにこしたことはないのにぃん」


 盛り上がる二人に巻き込まれてはたまらないと、キシは近場から離脱して、『知恵の月』のトラックの荷台にある居住施設に身を潜めることにしたのだった。



 キシたちが戻ってきてから、三日経って、崩落した現場の撤去作業が行われる運びとなった。

 作業員たちが人型機械の残骸を粗方持ち出したことも理由の一つだが、ティシリアに良いところを見せようとアンリズが現場監督として張り切ったからという理由が一番大きい。

 ともあれ、発掘作業は始まった。

 崩落して建物内に入り込んだ砂や岩石を、ハンディーやその他の工作機械で運び出していく。

 少し掘り進めたら、露出した崩落した天井部分に樹脂を詰め、固まってからまた掘り進めるということを繰り返す。

 しかしその作業が止まることがある。崩落した砂と岩石の下から、人型機械の残骸が現れるためだ。


「こいつはオレが先に見つけたんだ! だからこっちのもんだ!」

「馬鹿言うな! ここはオレらの作業班の仕切る場所だ! 横からしゃしゃり出てきて、勝手なことを抜かしてんじゃねえ!」


 ギャーギャー騒ぐ作業員へ、アンリズが笛を吹きながら現れた。


「ピッィーーーピッィーーー! なにを言い争っているの! 残骸の所有権なんて、後でやりなさい!」


 注意されて、言い争っていた連中は怒り顔を向けたが、アンリズの絶対零度の瞳と体から滲み出ている怒気に、意気消沈してしまう。


「で、でもよ。こういうことは、先に決着をつけとかねえとよ」

「そ、そうだぜ。後になればなるほど、権利を主張するやつらが出てくるってもんだ」

「……わかったわ。そうやっていがみ合って作業を中断する原因になるのなら、これから先、崩落現場から出てきた人型機械の残骸は『知恵の月』が全て引き取るわ。これで問題なく、作業ができるわね?」

「そ、そんなぁ。そいつは横暴ってやつですよ」

「発掘したのはオレたちなのに、奪い取るってんですかい」


 なおも言い募ろうとする作業員に、アンリズは見下したような目をする。


「あなたたちは勘違いしているわ。こちらは発掘作業の手伝いをしてくれる人に、人型機械の残骸を与えるという約束をしたの。作業の邪魔をする人は、その対象外よ。その対応に不満があるっていうのなら、あなたたちは集めた残骸をこちらに返却してから、帰ってくれていいわ」

「んな!? オレらが集めた残骸まで、奪い取ろうっていうのか!?」

「当然でしょう。だって、あなたちは発掘作業してくれていないんだもの。人型機械の残骸を渡す理由がないわ。だから、回収させてもらうのよ」

「そんな道理、納得する連中がいるはずがねえ!」


 憤る作業員だが、アンリズは自分が優位という姿勢を崩さない。


「あら、他の連中は喜ぶと思うわよ。だって、あなたたちから回収した残骸は、他のちゃんと作業をしてくれる人たちに配り直すもの。労を経ずに報酬だけ増額するんだから、あなたたちのような邪魔をする人を擁護する人は少ないと思うわよ?」


 アンリズは悪魔のようなことを言っているのだが、この言葉が引き金となり、他の作業員たちが責められている人への同情は消え失せて、『俺たちは真面目にやっています』と働きで示すように発掘作業に戻っていく。

 その作業音によって、どちらが支持されているかを理解することになり、喧嘩していた作業員たちは懇願する顔をアンリズに向けた。


「わるかった。これからは作業は遅らせねえ。だから、オレたちをここから追い出すのだけはやめてくれ」

「いままで以上に働くよ。発掘で出た人型機械は、休憩中に話し合って、どっちが持って行くか決めるからよ」


 大の大人が情けない顔を晒す姿を見て、アンリズはため息交じりに肩を落とす。


「理解してくれたようで助かったわ。じゃあ、さっさと作業に戻って。以後は、同じ警告はせずに、強制的に追い出すわよ」

「「はい、わかりました!」」


 返事をしてから、作業員たちは発掘作業に戻っていく。

 アンリズは精力的に働く彼らの姿をしばらく見てから、他の作業員の様子を見に去っていった。

 その姿が見えなくなったところで、怒られていた作業員たちは愚痴をこぼし始める。


「あの姉ちゃん、恐ろしいったらないぜ。ああも脅されたんじゃ、作業の手も震えちまうってもんだ」

「まったくだ。十人ほどしかいない弱小組織のクセして、ここは身の程を弁えさせてやらなきゃいけねえんじゃねえか?」

「なにしようってんだかは聞かねえが、お前個人でやれよ。こっちに迷惑をかけるんじゃねえ。オレはまだ死にたくねえよ」

「はぁ? 死ぬってどうしてだよ。あの姉ちゃんが格闘技の達人で、作業員が束になっても負けるってのか?」

「……てめぇ、やっぱり馬鹿だな。あの姉ちゃんが強きに出ているのは、護衛がついているからだよ。しかも、作業員の視界に極力入らないようにって、少し離れたところで銃を構えてやがるんだ」


 忠告しながら視線で示した先には、『知恵の月』の戦闘部隊がいて、アンリズから一定距離を保ちながら付き従う様子があった。


「あの連中。さっきの言い争いのとき、オレらに銃口を向けっぱなしだったんだぞ。もし誰かが、あの姉ちゃんの襟首でも掴んでいたら、今頃そいつは穴だらけになっていたぞ」

「うげっ、マジか。で、でもよ、いきなりこっちを殺したら、あいつらだってまずい状況になるだろ?」

「やっぱり底抜けの馬鹿だな。連中は情報系の抵抗組織レジスタンスだぞ。向こうが悪くても、こっちが悪くなるように情報操作はお手の物だろうよ。ましてや、こっちに殺される理由があったら、その情報操作はどんなものになるんだか」


 そんな恐ろしい事実は体験したくないと、忠告していた作業員は発掘に戻る。

 不満を持っていた人たちも、危険な橋を自分たちだけで渡るのは嫌なようで、言い分を押し殺して作業に入っていった。

 しかしその用心は、少し遅かった。

 アンリズは彼らが作業を遅らせた理由を他の作業班に伝てまわり、同時に崩落場所から型機械の残骸を見つけても所有権を主張できないこと、所有権を得るには作業が進んでその残骸を掘り起こした後の休憩で作業に関係した者が話し合うことを告げていく。

 余計な条件が付けられてしまったことに、他の作業班たちは作業を遅らせた作業員たちの所為だと、恨みに思うようになった。

 そして大多数の作業員たちは、『知恵の月』の指示に大人しく従った方が、結局は最大利益を得られると判断して、大人しく発掘作業にまい進することにしたのだった。

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[一言] アンリズは彼らが作業を遅らせた理由を他の作業班に伝てまわり、 伝て>伝えて
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