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七十一話 二つの仕事

 砂の中に作られた人型機械が大量にいた建物に、『知恵の月』の呼びかけで、続々と抵抗組織の人たちが集まってきた。

 その多くは、人型機械を持ってないが、ハンディーなら数機持っているぐらいの、中小の組織たちだった。


「教えてくれてありがとうよ、『知恵の月』の嬢ちゃん」

「地下の崩落の撤去を手伝えば、壊れた人型機械をどれだけ持って行ってもいいんだよな?」


 そんな彼らの言葉に、ティシリアは笑顔を返す。


「もちろんよ。人型機械の残骸が、およそ百機分くらいあるけど、私たちじゃそんなに持っていても使い道がないもの」

「とかなんとかいって、必要分はもう確保してあるんだろ?」

「そりゃそうよ。自分たちの利益を度外視してまで、人に与えるほど、抵抗組織をやっている人間は聖人君子じゃないわ」

「ははっ、違いねえ。よしっ、それじゃあ作業始めるとするか」


 抵抗組織の人たちは、自分たちのハンディーに持ってきた資材を抱えさせると、続々と出入口から中へ入り地下へと下りていく。

 その様子を、警戒のためにファウンダー・エクスリッチに乗っていたキシが見ていて、ティシリアに外部音声で質問する。


『彼らの力を借りるのはいいけど、瓦礫が撤去された際に、こちらより先に崩落の先を覗かれちゃうんじゃないか?』

「そこは平気よ。現場監督をアンリズに任せているもの。抜け目なくやってくれるはずよ。それに、先に見られたってかまわないわよ」

『人型機械の親玉がいる位置情報があるかもしれないのにか?』

「私たちの目的は、この土地を人型機械から取り返すことよ。それを成すのが誰の手であっても構わないわ。それに、土地の開放なんて大事業、『知恵の月』単独でできるほど人も物資もないもの」

『……ティシリアって志は高いけど、欲は少ないよな』

「なに、それって褒めているの?」


 ファウンダー・エクスリッチの顔へ胡乱な目を向けるティシリアだったが、ビルギが走って近づいてきたため、その表情を普段のものに改めた。


「どうしたのビルギ、そんなに慌てちゃって」

「あの飛行物体の情報が入ったんですよ。見てください!」


 突き出した携帯端末には、誰かから寄せられた情報が映し出されていた。

 ティシリアは端末を受け取ると、詳しく見ていく。


「結構場所が離れているわね。ここからだと、北方向にトラックで三日といったところかしら。ここら辺は、集落が点在しているはずよね?」

「その集落の一つが、飛行物体の音を聞きつけて、着陸した場所まで偵察したそうです」

「それで、こんなに詳しい位置情報と、飛行物体のその後の様子が来ているのね」


 携帯端末の画面をスクロールさせ、ティシリアは困惑から眉を潜めた。


「飛行物体の腹の中から、巨大な卵と長い腕のハンディーが出てきた。卵は水を生み、ハンディーたちは濡れた地面を掘り返している――って、なによこの報告。変に詩的よね?」

「そこは集落の人間が、見た情景を自分の知識に当てはめたんでしょうね。卵は、恐らく大型のリアクターでしょう。ハンディーと呼んでいるのも、きっと別の作業機械ではないかと思います」

「ということは、人型機械の親玉が、この場所に何かを作ろうとしているってことよね?」

「現地住民の予想では、ため池を作ろうとしているんじゃないかと書かれていましたね」


 人型機械は農耕をするわけがないので、そんなものを作ってどうするだろうと、ティシリアは疑問に思った。


「キシ、聞いていたんでしょ! なにか心当たりはない?」

『そうだな。可能性としては二つあるかな』


 キシはコックピットの中で腕組みしながら、持論を展開する。


『一つは、その場所の地下に人型機械にとって大切な資源があり、それを発掘している。水をかけて掘っているのは、砂を湿らせることで掘った穴の周囲から砂の流入を防ぐためだと思う』

「もう一つは?」

『その土地に、戦闘用のマップを作るため。人型機械が潜れるほど深い泉を作って、水陸両用のフィールドのしたいんじゃないかな』


 キシの予想を聞いて、ティシリアは真剣な顔つきになる。


「そのどちらにせよ、見過ごすのは得策じゃなさそうね。早めに手を打つ必要がありそうね」


 その詳しい方策を立てようとしていると、ティシリアの手にあるビルギの端末の情報が更新された。


「あっ。その集落の誰かが、他の組織に『大量に水を生み出すリアクターを見つけた』っていう風に情報を流したわね。興味を持った抵抗組織が、移動を開始したわ」

『それじゃあ、あちらはその人たちに任せればいいんじゃないか』


 キシから悩みが一つなくなったという発言がきたが、ティシリアはさらに更新された情報を見て嫌そうな顔に変わる。


「実は、そうもいかなくなったわ。『知恵の月』にその水を生み出すリアクターを奪取する作戦への、参加要請がきたわ」

『いま発掘作業中なのにか?』

「その発掘を邪魔する目的も含みで、飛行物体を取り逃がした尻拭いをしろっていうのよ」

『誰だよ、そんな底意地の悪い真似をするのは』

「お兄ちゃんよ」


 ティシリアから意外な言葉が出たことで、キシの理解が一瞬追いつかなかった。


『ん? お兄ちゃん??』

「そう、わたしの実の兄からの要請よ」

『たしか、こちらに度々情報をくれた、有名な抵抗組織のトップの人だったよな』

「その認識で間違いないわ。ここまで色々と便宜を図ってくれたから、あまり要請は無下にできないのよね」

『ティシリアがお兄ちゃんのお願いに弱いってことはわかったけど、発掘作業はどうするんだ?』


 ティシリアは困って眉を下げる。


「やっぱり二手に分かれるしかないわ。『知恵の月』は少人数だから、本当はわけたくはないんだけどね。今日の夜に、全員集合して会議するわよ」


 キシはファウンダー・エクスリッチの手を振って了解の意を返し、端末を返してもらったビルギは頷くと他の面々に伝えるために駆けだした。

 そしてティシリアは、頭が痛いといった身振りすると、誰をどの仕事に割り振ろうかと頭を悩ませるのだった。




 発掘作業が朝まで一時中断となった夜、『知恵の月』の面々は運搬用トラックの荷台にある住居スペースに集まっていた。


「あらかじめ事情は聞いていると思うけど、あらためて説明するわ」


 ティシリアが全員の顔を見まわしてから、発掘作業と参加要請先へ向かう二組に分かれることを告げる。


「というわけで、まずそれぞれの仕事に必須な人物を分けていくわね」


 ティシリアは夜までの間に考えていたことをまとめた情報を、自分の携帯端末に呼び出した。


「まず飛行物体のある場所への出向だけど、戦闘が予想されるからキシとファウンダー・エクスリッチは確定。私も『知恵の月』のリーダーとして顔を出す必要があるわ。そして発掘作業は、現場監督をしているアンリズは外せないし、念のための護衛にキャシーとフリフリッツは置かざるを得ないと思うわ」


 ここで、名前があがったアンリズが反対意見がある様子で手を上げる。


「現場監督は他の者がやり、利権交渉が待っているであろう飛行物体が飛んだ先の現場に行きたいわ」

「アンリズの能力は私も高く買ているわ。けど、今回はダメ」

「それはどうして?」

「私のお兄ちゃんがいるからよ。きっとアンリズが交渉の先頭に立とうとしても、なんだかんだ理由をつけて、私だけを交渉のテーブルに着かせるようにするはずだわ」

「その予想が当たっているとしたら、情報にある優秀なリーダーと言う人物像と違って、随分と横暴な人なのね」

「そう、お兄ちゃんって、私に対しては結構意地悪なのよ」


 要は、アンリズの能力が高かろうと、交渉の場に建てないのなら意味がない。

 それなら、実績確かな現場監督を続けてくれた方が、『知恵の月』全体のためになる。

 そんなティシリアの判断に、アンリズは意見を翻した。


「分かったわ。ティシリアと離れるのは少し嫌だけど、現場監督を引き受けるとするわ」

「お願いね、頼りにしているわ」


 ここでティシリアがチラリとキシを見る。

 反対意見がないかという確認に、キシは言葉は出さず身振りだけで『問題ない』と返した。

 同様にキャシーに確認し、それでいいと頷きが返ってくる。


「これで、私たち四人の仕事は確定ね。それでほかのみんなだけど――ビルギと戦闘部隊は、発掘作業の手伝いをお願い。ビルギは運搬用トラックの運転に必要だし、戦闘部隊は暴動が起きた時の調整役に役立つもの」

「分かりました。任せてください」

「我々も、不満はない」

「キャサリンとヤシュリにタミルは、飛行物体が飛んだ先へ行く組ね。こちら側は一度休憩所に引き返して準備するから、キャサリンは住居用トラックの運転手になってもらうわ。そしてヤシュリとタミルは、整備と現地で動いている工作機械についての見解に必要だから連れていくわ」

「了解よ~ん。最近活躍の場がなかったから、張り切っちゃうんだから~」

「機械の事ならお任せじゃよ」

「その工作機械ってどんなものか、ちょっと楽しみー」


 こうして、誰がどちら側で行動することが決定したところで、キシは疑問に思ったことがあって手を上げた。


「ビルギが発掘作業に残るってことは、このトラックもここに置いていくってことだろ。じゃあ、飛行機が飛んだ土地へ向かう俺を含めた五人は、どうやって移動するんだ?」

「なにを言っているのよ。そんなの、方法は一つしかないじゃない」

「……まさかとは思っていたけど、またファウンダー・エクスリッチの運転席に、五人すし詰め状態になるのか」


 キシはうんざりしつつも、それしか方法がないとも理解してしまい、不快な旅路を覚悟するしかなくなったのだった。

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