七十話 内部調査
爆発の炎と煙が収まってから、キシはキャシーと共に、人型機械に乗ってティルローター式飛行機が出ていった建物の中を調査することにした。
『あの飛行機が損傷なく出てきたことと、発信機の信号がこの中からまだ出ているってことは、あの爆発でも無事で済んだ区画があるんだろうな』
『そこまでの道の安全を、ワタシたちが確かめてぇ、あとはみんなで内部探索ってことね』
通信しながら、ファウンダー・エクスリッチとフリフリッツが出入口から坂道を下り続け、人型機械が大量に出現してくる広場へ入る。
リアクター爆弾の爆発で装置が壊れてしまっているのか、踏み言ってもアラームが鳴ったりや回転灯が現われることはなかった。
『柱の半分ほどが、内側から破裂するように壊れているな』
『その壊れているのはぁ、中がエレベーターになっているものだった。もう半分の本物の柱はヒビが入っているけどぉ、無事みたい』
『あとは、焼け焦げたファウンダーの残骸が大量にあるな』
残骸の中には、手や腰回りが酷く壊れているものもある。それらは、爆発の炎で短機関銃とその予備弾倉が誘爆し、破壊されてしまったのだろう。
そんな光景の中をキシたちは進み、広場中央の壊れた柱に着くと、その中を覗き込んだ。
『人型機械一機分の幅の穴が、かなり奥まで続いているな』
『深さ、どのぐらいありそぅ?』
『暗視モードでも底が見えないから、ここから飛び降りて底まで行くのは無謀に思えるぐらいの深さはあるな』
『それじゃぁ、地道に上から探索するしかないわねえ』
キャシーは手間がかかると言いたげな口調をすると、広場の奥へと進んでいく。
キシは追いかけ、追い抜き、先頭を歩きながら、広場の奥――両開きの鉄扉がある場所に着いた。
そこで後ろを振り向くと、地上へ続く坂道まで、ティルローター式飛行機の両翼ギリギリの幅の柱がない空間があることに気付いた。
『こんな道、あったかな。もっと柱が乱立していたような気がしたけど』
『もしかしたら車止めみたいにぃ、床の下に埋まる柱があったのかも?』
不可思議さを感じつつも、キシはこの広場に動くものがないことを改めて確認してから、鉄扉の奥へと進んだ。
鉄扉から先は、再び坂道になっていた。
ここまでの道のりでは、爆発による煤や焼け焦げなどが壁や床に見受けられた。
しかし、ここから先は、爆発などなかったかのように、綺麗な壁面が続いている。
そのことが、キャシーには不思議だったようだ。
『どういうことかなぁ?』
『たぶんだけど。リアクター爆弾の爆発は、建物の下部にある人型機械の格納庫を吹っ飛ばした後、柱のエレベーターを通って広場に直通し、外へと出てきたんだろうな。それで、広場と格納庫の間にある部分は、鉄扉っていう防護壁もあったお陰で、無傷で済んだってわけだろうな』
『爆風の逃げ道があったからぁ、破壊力が分散しちゃったのね』
キャシーの納得する声があったところで、再び開けたところにやってきた。
広い空間には、レールが何本も伸び、天井からは滑車とフック付きの鎖が垂れ下がっている。乱立する機械の腕の先には、溶接用バーナーや回転鋸があったり、ドライバーやレンチの手が生えていたりする。金属製の残骸などが、空間の端に積まれてもいた。
『なにか、町工場や造船所といった、なにかを作るような場所のようだな』
『ここに『タラバガニ』の中枢部が運び込まれたってことはぁ、この機械の腕でなにか改造をしたってことよね』
二人は用心しながら、機械を突いたり、レールの上にある台車を蹴り動かしたりしてみて、反応がないか確かめる。
しかし、どれもこれもが沈黙していて、動き出す気配は微塵もなかった。
『こんだけ健全な見た目なのに動かないってぇ、どういうこと?』
『リアクター爆弾で吹っ飛んだ場所に、制御中枢があったってことかもな。何はともあれ、先に進むしかないだろ』
キシがファウンダー・エクスリッチに構えさせた銃口で示した先は、この作業所然とした空間の奥にある鉄扉。
先の広場にもあったようなものだが、違いは奥から手前にかけて、大きく膨らんで歪んでしまっていることだ。
『あの扉が、億からやってきた爆風を受け止めたから、ここが無事で済んだんだろうな』
『エレベーターの柱がここには通ってないようなのもぉ、無事だった理由よね』
キャシーが言ったように、作業スペースを確保するためか、この空間には柱がとても少ない。そして、ここまで真っ直ぐな道行きを思えば、リアクター爆弾が破裂した場所と内部がエレベーターだった柱で繋がってない部分であるとわかる。
『なにはともあれ、ここにティルローター式飛行機があったのは間違いないだろうな。『知恵の月』がつけた発信機も、このどこかにあるんだろう』
『それじゃぁ、ここで調査は終わりなのね?』
『いいや。危険がないか確かめて皆をここに呼びこむためにも、あの扉を開いて奥に行こう』
ファウンダー・エクスリッチとフリフリッツが鉄扉の真ん中の合わせに手を入れると、キシの号令に合わせて片方の扉を右へと開いていく。
扉が歪んでいるため、ギリギリと抵抗するような音を立てながら、段々と開いていった。
その先に現れたのは、真っ黒な煤がついた、ヒビが床や壁を走る通路。キシとキャシーは人型機械の中にいるため感じないが、焦げた臭いが充満している。
爆発による破壊で壊れてしまったのか、通路にある照明の大半が機能を失っていて、ここまでの道のりに比べて、だいぶ暗い。
ファウンダー・エクスリッチとフリフリッツは暗視モードになり、少し画像が荒くなったモニターを、キシとキャシーは見ながら坂道を奥へと進んでいく。
道行きの途中で踊り場があり、百八十度方向が転換される。
そうして奥へ奥へと進んでいくと、やがて弾け飛んだと思わわれる、壊れた鉄扉が通路の上に転がっていた。
『この先が、リアクター爆弾の爆心地のようだな』
『ってことはぁ、人型機械の格納庫ないしは製造場所ってことね』
壊れた鉄扉を乗り越えて入っていくと、その中はここまでで一番広い広場となっていたが、様子は滅茶滅茶になっていた。
爆風で吹き飛んで押し寄せたと思わしき、ファウンダーとハードイスの群れが、入口周辺に折り重なるようにして倒れている。中には 融解して複数機が融合した姿の残骸もあった。
多数あったはずの柱は大半が壊れて曲がっていて、無事に見えたものもよく見ればヒビが大きく入っている。
エレベーター構造になっていた柱は、爆発の破壊力で吹き飛んでしまったらしく、天井にある多数の穴がその名残となっていた。
そして爆心地と思われる広場の奥は、かなり大きく崩落していて、分厚いコンクリート片と砂で埋まっている。
あまりの壊れっぷりに、キシもキャシーも、これ以上中に踏みいれることを躊躇した。
『これ、下手したら、建物すべてが崩れ落ちるんじゃないか?』
『同じことを考えていたわぁ。けど、崩落の予兆である、変な音は感じられないわね』
『ってことは、いますぐどうこうなるってことじゃないわけか?』
『恐らくはねぇ。でも、長居したくはないってのが、正直な感想』
キシは同感と頷きつつ、広場の中、そして崩落している奥へと視線を向ける。
『この建物を動かす制御装置は、ここには見当たらない。となると、崩落した先にあると見た方がいいな』
『でもぉ、あの崩れた場所を下手に動かそうものなら、それこそ建物自体が崩落するんじゃない?』
『……確かに言えてる。脅威になりそうなものはなかったことだし、これは一度戻って、ティシリアたちと相談しないといけないな』
『発掘するにしてもぉ、あの先にお宝があるとは限らないけどね』
『いや。この世界の住民にとって、多数の人型機械の残骸があるここは、すでに宝の山だよ』
壊れているとはいえ、これほどの数の人型機械を入手する機械は、この世界では多くはない。
この情報を、情報を扱う『知恵の月』が有効に使えば、この建物を調査する人員はすぐに集まり、崩落した先を調べようと発掘が行われることだろう。
半ば確定した未来を感じながら、キシはキャシーと共に地上へと戻ることにしたのだった。




