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六十八話 一機対多数

 多数現れたファウンダーが、所持している短機関銃サブマシンガンを一斉射撃。何十機もの機体から秒間二十発以上も放たれる弾丸の群れは、土石流のように殺到した。

 キシは素早く機体を操作し、ファウンダー・エクスリッチを近くの柱の陰に退避させる。

 直後、チェーンソーで石を削り砕くような、ガリガリといった音が隠れている柱からしてきた。

 確認すれば、柱の構造体が破片となって飛び散っている様子が見受けられた。

 このまま削り落ちるかと思いきや、唐突に銃撃の音が止んだ。

 ファウンダーが握る短機関銃の弾が尽きたのだ。

 この瞬間を、キシは待っていた。


「戦闘AIが貧弱なのも、あのときの無双ミッションと同じとはね!」


 キシはファウンダー・エクスリッチを柱の陰から飛び出させると、アサルトライフルを三点射バーストに設定し、射撃、射撃、射撃。

 近くにいたファウンダーの頭部が、一つ、二つ、三つと破砕し、力を失ったように膝から床に倒れる。

 追撃で四体目を狙ったところで、ファウンダーたちの弾倉の装填が完了していた。


「チッ、欲張りすぎたか」


 キシはファウンダー・エクスリッチの背部バーニアを噴射させて、一番近くにいるファウンダーに接近。その頭部を、左腕から伸長させた隠し刃で貫いた。

 力を失って倒れそうになるファウンダーを、左手と左肩で支え持ち、無限軌道を駆動させて近くの柱へと移動していく。

 そこに、装填が終わった短機関銃からの掃射がやってきた。

 激しい発砲音と、夕立のような弾丸の飛来音。そして、キシが盾に使っている力を失ったファウンダーから、命中弾によって衝撃と火花が発生する。

 ファウンダー・エクスリッチが柱の陰に隠れきるまでの、およそ半秒で、盾に使ったファウンダーは内部構造まで滅茶苦茶な状態に変わってしまっていた。

 その姿を観察して、キシは面倒くさそうな顔つきになる。


「コックピットには誰も居ない。ということは、柱から出てきたファウンダーたちは、本当に無人機なのか」


 射撃が止んだところで、キシはファウンダー・エクスリッチの頭部を柱の陰から出し、周囲をもう一度よく観察する。

 ファウンダーたちはキシが隠れる柱に徐々に接近しながら、短機関銃の弾倉を取り換えているが、そのうちの何機かは肩や腕が破損して上手く行えていないようだ。

 キシが射撃した機体は、全て頭部を失う結果になっていた。

 ということは、あの破損したファウンダーたちは、同士討ちで弾を食らったということになる。


「仲間の損害を無視してでも俺を倒そうって、頭が悪いわりに殺意が高いなぁ」


 キシが感想を呟くと、再び短機関銃からの掃射がやってきた。

 ガリガリと削られる柱の感触を得ていると、再び地下から何かが上がってくる音と振動を感知した。

 そして、エレベーター到着の合図のような『ポーン』という音がする。

 キシがギョッとしてファウンダー・エクスリッに後ろを向かせると、開いた柱の中にファウンダーが立っていた。


「追加発注は頼んでないんだけどな!」


 キシは盾に使っていた方のファウンダーを、柱の中に押し入れるようにして、新たに現れたファウンダーに押し付ける。

 そうして身動きが取れないようにしてから、新しいファウンダーの頭部を銃撃して破壊した。

 柱の内部で二機のファウンダーが倒れ込むと、柱の扉が閉まり始め、キシは慌ててファウンダー・エクスリッチを下がらせる。


「危うく、この場所以上にファウンダーが集まっているであろう場所に、連れていかれるところだった」


 ふぅっと息を吐いて気持ちをリセットしてから、キシは短機関銃の音が止むのを待って、柱の陰から飛び出す。

 近くのファウンダーの頭を隠し刃で跳ね飛ばし、左手で背部の構造体を掴んで盾にする。

 そしてそのまま、別のファウンダーへ突き進み、頭部をアサルトライフルの射撃で破壊した。

 ここでファウンダーたちの装填が終わり、またもや短機関銃の掃射が行われる。

 しかしキシは、今度は柱の陰に引きこもらずに、柱と柱の陰を縫って飛ぶようにファウンダー・エクスリッチを移動させていく。

 逃げるファウンダー・エクスリッチへ、ファウンダーたちの銃口が追いかける。それこそ、仲間の位置などお構いなしに。

 横なぎに振るわれる短機関銃の銃口から放たれた銃弾は、射線上にいたファウンダーに命中し、機体に穴をあける。

 当たり所が良かった機体は問題なく動けているようだが、当たり所が悪かったファウンダーは力を失ったように床に倒れることとなった。

 その様子を確認したキシは、思わずといった感じで舌打ちする。


「チッ。やっぱり短機関銃は威力が弱い。予想以上に同士討ちで脱落した機体が少ない」


 予想以下の結果に歯噛みしながらも、キシは盾にしていたズタボロのファウンダーを投げ捨て、目の前で悠長に弾倉を交換しているファウンダーの頭部を射撃で破壊する。

 そこでアサルトライフルの弾が尽きた。弾倉を交換する必要がある。

 しかしキシは、アサルトライフルを収納部マウントへ収めると、倒したばかりのファウンダーの手にある、弾倉が半入れ状態の短期間銃を奪った。

 そして、大型バーニアを短時間だけ大きく噴かせ、もう一体のファウンダーへ突撃する。

 半入れの弾倉を押し込んで装填を終え、狙ったファウンダーの頭部に短機関銃を押し付けるようにして射撃。半弾倉ほどの弾を撃ち込んで、頭部を破壊した。

 再び倒したファウンダーを盾に使い、他のファウンダーたちからやってくる銃弾をやり過ごす。

 そうこうしている間に、また新たなファウンダーたちが柱から出てきた。


「くそっ。こっちの物資は有限だっていうのに、そっちはワラワラと出てくることができて羨ましいな!」


 キシは盾にしていたファウンダーを投げ捨てながら、隠し刃で一機、二機、そして短機関銃で三機目を破壊して沈黙させる。

 倒した機体を盾に、再び柱と柱の間を縫うようにして逃走。その後、再び隠し刃と短機関銃で敵を破壊していく。

 しかし、多勢に無勢な感じは否めない。

 キシは作戦の成果が期待できないと悟り、倒した二機のファウンダーを蹴りつけて、近くの柱の陰へと送る。

 その後で、ファウンダー・エクスリッチもその裏に隠れた。


「はぁ、嫌になるな」


 キシはまずアサルトライフルの弾倉を交換し、続けて蹴り入れたファウンダー二機の持ち物を漁る。

 短機関銃とその弾倉以外には、ナイフ一本しか装備していなかった。


「手榴弾はないか。いやまあ、あれだけ同士討ちするんだ、弾が手榴弾に当たって誘爆しないように装備させないよな」


 短機関銃二丁の弾倉を交換しながら、ファウンダーからの斉射を一度、二度とやり過ごす。

 そうしていると、また地下から何かが上がってくる音と振動を、キシは関知した。

 新手が来てもいいように、キシは短機関銃をファウンダー・エクスリッチの左右の手に一丁ずつ握らせて、開くであろう柱へと向ける。

 そうして現れたのは、ファウンダーではなかった。


「んげっ! 回転式機関砲ガトリング装備のハードイス!?」


 その姿を見た瞬間、キシは左腕の隠し刃を振るって、ハードイスの喉にある装甲の隙間に突き刺した。短機関銃の威力では、頭部狙いでも仕留めるのに時間がかかり、回転式機関砲の反撃の餌食になりかねないと判断したためだ。

 崩れ落ちるハードイスの姿にホッとするのも束の間、キシは柱の陰から広場の様子を確認する。

 援軍にきた全ての機体がハードイスだったようで、かなりの数が見受けられた。


「……まさか!?」


 いやな予感がして、キシは倒したばかりのハードイスを柱の中から引っ張り出し、それを背負うようにして盾にした。

 直後、短機関銃だけのときとは比較にならないほどの、濃い弾幕が降り注ぎ始める。

 滝の下にいるような激しい音と共に、キシが隠れていた柱が、炎天下の氷のように、銃撃で削りとけていく。

 やがて柱は完全に形を失い、そしてキシが盾にしているハードイスと、柱の陰に入れていたファウンダー二機が銃弾の雨にさらされ始める。

 ハードイスは持ち前の頑丈な構造で少しは耐えているが、ファウンダー二機はあっという間に穴だらけに変わった。


「これは無理だ。撤退しよう」


 ファウンダーだけなら勝機はあったが、回転式機関砲を持ったハードイスが無数に現れるとなると、専用の作戦と装備が必要になる。


「というか、こんなミッションを発布したら、現役トップランクのプレイヤーでも苦戦は必至だよな」


 キシは銃撃が止んだ瞬間に、弾避けのハードイスを背負ったまま、ファウンダー・エクスリッチを広場に入ってきた入り口へと走らせる。

 ハードイスはかなりの重さだが、足に履いた無限軌道の力で、どうにか逃げることが可能だった。

 あとは坂道を上るだけというところで、キシが背後の様子を確認すると、銃身が真っ赤に染まった回転式機関砲を持ったハードイスが多数立ち、その前には同士討ちで果てたファウンダーが倒れ伏していた。

 しかしそのハードイスも、生き残っているファウンダーも、坂を上り始めたキシを追いかけるような素振りはない。

 どうやら、広場に入ってきた者を殲滅ないしは追い払うことだけが、役目としてインプットされているようだった。


「逃がしてくれるっていうのなら、ありがたく逃げさせてもらうよ」


 キシは捨て台詞を吐きつつ、せめてもの戦利品として、盾に使っていたハードイスを背負ったまま、坂を上り続けたのだった。


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