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六十七話 探索&侵入

 『知恵の月』は一丸となって、飛び去ったティルローター式飛行機を追いかける。

 地上を走るより、空を飛んでいくほうが速いため、距離は時間と共に加速度的に開いていく。

 明らかに不利な状況だが、ティシリアは自信に溢れた声を通信に乗せる。


『私たちが発信機の信号を受けれなくなっても、問題ないわ! 飛行物体の飛行経路近くにある抵抗組織レジスタンスや村と集落に、信号を受け取ったら、こっちに知らせてくれるように頼んでいるもの!』

『詳しい内容は省いての依頼だろ。よく引き受けてくれたな』


 ファウンダー・エクスリッチを操るキシの当然の疑問にも、ティシリアは余裕たっぷりの声を崩さない。


『大抵の問題は、お金を積めば何とかなるものよ!』

『最低の発言だな。せめて嘘でもいいから、人徳とか言っておけば格好がつくのに』

『徳や心意気で、お腹は膨れないし、喉は潤わないわよ――ってことは、お金じゃなくて物資供与の約束でもよかったってことかしら?』

『……次からは、交渉材料に使ってみたらいいんじゃないか?』


 キシはあきらめの境地で、話題を切り替える。


『それで、飛行機はどこへ向かっているんだ?』

『私たちがいるのは、キシが言う『下大陸』の真ん中からやや右のあたりなんだけれど。飛行物体は左斜め上に飛んでいっているわ』

『その方向に、なにか人型機械の親玉がいそうな場所とか、ありそうか?』

『いくつか、その親玉が大型リアクターを設置して、人型機械に戦わせている場所はあるのだけど――予想飛行経路に直接ぶつかるものはないわね』

『それ以外では?』

『人々が暮らす小さな村や集落はあるし、抵抗組織もいくつかあるけど、そこに『タラバガニ』の中枢部を運び入れるとは考えられないわ』

『どこにいくか、予想ができないってことか』

『発信機の信号が止まる場所まで、追いかけるしかないわね』


 いつまで追いかければいいかわからないことに、キシが不安感を抱いていると、トラックの運転席にいるビルギから通信が入る。


『このまま追いかけるより、一度休憩所に戻りませんか?』


 その提案を、ティシリアは疑問に思った。


『どうして休憩所に戻る必要があるの?』

『すでに二十日以上も留守にしているんですよ。ここら辺で、一度様子を見に戻ったほうがいいんじゃないかって思うんです』

『運営は『砂モグラ団』に任せてあるし、トラックに積んだ水や食料には余裕がまだあるわ。戻る必要性を感じられないのだけど?』

『だからですね。『砂モグラ団』が休憩所を実質的に占領している状態を、長く続けていることが問題なんです。このままじゃ、乗っ取られる可能性もありますよ』


 ビルギの危惧は当然のものだったが、ティシリアは取り合わなかった。


『『砂モグラ団』はそんな馬鹿な真似する連中じゃないわよ。それに、休憩所を進んで運営してくれるっていうのなら、任せてもいいと思っているわ』

『えっ、彼らに明け渡す気ですか!?』

『明け渡すというより、業務委託ね。こちらに上前をくれるなら、運営するのは誰だっていいわよ。だって私たち『知恵の月』は、抵抗組織の一つではあるけど、休憩所を運営する会社じゃないんだしね』


 富を生む休憩所に執着を見せないティシリアの様子に、ビルギは驚いていた。


『『知恵の月』最大の営利設備すら、ティシリアにとっては手駒の一つなんですね』

『私たちの目的は、人型機械からこの土地を取り戻すことよ。それが叶うのなら、何を支払ってもお釣りがくるわよ』

『分かりました。休憩所に寄らなくても、『砂モグラ団』なら健全に運営してくれいるでしょうし、このまま進みましょう』

『よろしい。それと、懸念を行ってくれてありがとう。他のみんなも、意見があるなら言ってくれていいわよ?』


 ティシリアの問いかけに、通信や通信の向こうから『ありません』といった答えが一斉に返ってきた。


『これで『知恵の月』内の意見統一はなされたとするわ。それじゃあ、気分を改めて、飛行物体を追いかけるわよ!』


 ティシリアの号令に合わせて、トラック、ファウンダー・エクスリッチ、フリフリッツは、横並びで砂と岩石の大地を駆け続けていくのだった。





 飛行機を追いかけること三日。

 ようやく、飛行機が着陸したらしき場所へと『知恵の月』は到着した。

 しかし『らしき』と表すのには、訳があった。

 運搬用トラックの運転席の上に立ち、双眼鏡を覗くティシリアが、隣で降着姿勢のファウンダー・エクスリッチのハッチを開けて座席にいるキシに声を掛ける。


「この辺りは、人が住んでいない空白地帯なのよ」

「それは、危険な害獣や人型機械が闊歩しているからか?」

「逆よ。この一帯の周囲では、人型機械の親玉が大型リアクターを設置しなかったし、害獣も滅多に表れないのよ。だから、リアクターの動力がないうえに、食料となるものも取れないから、人の営みは起きないってわけ」

「人型機械のリアクターを使えば――って、人がいない場所に休憩所を作っても、利益が上がらないよな」

「そういうこと。そして人がいないから、飛行物体がこちらに飛んできたことは分かったけど、詳しい発信機の信号の場所は近づかないと分からないわ」

「ここら辺なのは確かだが、信号の位置は特定できていないわけか」

「大まかに探す範囲を示すと、こんな感じね」


 ティシリアが手にある端末を操作すると、ファウンダー・エクスリッチのサブモニターに丸印がつけられた地図が映し出された。

 人がいない土地だからか、かなり大ざっぱな目印しか書かれていない地図。丸印は、人が住んでいないという土地のほぼ全域にわたっている。


「これは大変そうだな」

「害獣が少ない土地だし、三手に分かれて探そうと考えているわ」

「ファウンダー・エクスリッチ、フリフリッツ、トラックで三方向ってことか?」

「ええ。何か問題があるかしら?」

「害獣が少ないといっても、しらみつぶしに探すなら遭遇する可能性は高いだろ。トラックだけだと、対応するのは大変なはずだ。フリフリッツとトラックは一緒にいた方がいいんじゃないか?」

「キシは一人で大丈夫ってこと?」

「ファウンダー・エクスリッチの速度があれば、遠い場所から探すことも可能だ。二者が端から中心に向かって探していけば、それだけで用件は満たせる。あえて危険を冒して三つに分かれる必要はない、だろ?」

「ふむむ。探索する数が減ると日数がかかっちゃうけど、それは今更よね。ここは安全策が第一の場面ね」


 ティシリアは理解を示すと、『知恵の月』をファウンダー・エクスリッチ組と、フリフリッツ&トラック組に分けた。

 ファウンダー・エクスリッチに乗るキシ。キシ一人で探索は難しいだろうからと、補助として人型機械を動かせるタミルが同乗することになった。


「よろしくねー、キシ。あっ、補助席、運転席の後ろに組み込んじゃうから、ちょっと待ってねー」


 タミルは、パイプで骨組みが作られている簡単な構造の椅子を持って、コックピットに入ってくる。そして座席の裏と台座に、パイプの接続肢を金具で固定した。

 腕で軽く揺すっても外れないことを確かめると、その椅子にタミルが座る。


「うんっ、座り心地はいいね。それじゃあ、キシ。出発進行ーだよー!」

「って、まだ飲食物の積み込みが終わってない。このまま発進したら、空腹と渇水で苦しむことになるぞ」

「平気だってばー。このメカニックとしての腕があれば、ファウンダー・エクスリッチに水や食料を作り出させることなんて、造作もないってもんだー」


 タミルが自信満々に言うが、キシは取り合わずにトラックから運ばれてくる箱に入った水と食料を受け取り、コックピット内の邪魔にならない場所に積んだ。


「よし、それじゃあ出発するぞ」

「よし、任せたー」


 タミルの気の抜けるような明るい声に後押しされて、キシはファウンダー・エクスリッチを発進させ、探索地帯の向こう端へと移動を開始した。




 ティルローター式飛行機が着陸したと思わしき場所を発見するため、『知恵の月』の面々はローラー作戦に近い全域探査を開始した。

 トラック組と分かれたキシとタミルは、ファウンダー・エクスリッチに乗って、領域を上から下に、終われが少し中心に移動して下から上に、終われば移動しまた移動を繰り返す。

 キシ一人だけで、日が出ている十二時間ほどを運転し続けるのは苦しい。そのため、四時間ほど運転したらタミルと交代し、さらに四時間後に交代する。

 そうして十二時間の探索を終えたら、二人は食事とお喋りをした後で、コックピットの中で就寝した。

 探査領域が広いため、一日二日では成果が得られず、三日四日と時間が経っていく。

 代わり映えのない状況に、キシもタミルも日数が立つにつれて口数が減っていき、とうとう探索中は言葉を発しなくなってしまう。

 しかし、コックピット内に流れる空気は、ギスギスとはしていない。キシは探索とその後の休憩を真摯に行っているだけだし、タミルも休憩中の手慰みに機械いじりをして期限が良いからだ。

 そんな二人の雰囲気だからか、狭いコックピット内で一緒に時間を過ごしているというのに、恋愛的な雰囲気は一切流れなかった。



 日数をかけて徐々に中心部へ近づきつつあると、とうとうトラック組から発見の報告が入った。


『人工物が見つかったわ。出入口の大きさからみて、あの飛行物体も悠々と入れる大きさよ!』


 ティシリアの声に、キシは安心の吐きながら、何かの間違いであった時のために、現探索地点をサブモニターに映る地図に記す。



 その後で、トラック組がいる場所へと急行した。

 到着してみると、確かに巨大な人工物――コンクリート製の大きな出入口があった。扉は鉄製の観音開きで、建物の先は砂の下へと続いているように見える。

 砂に埋もれた格納庫といった風情の見た目に、キシはタミルをコックピットから下ろしながら、ティシリアに通信を送った。


『これから、ここを探索するわけだよな?』

『いまビルギとアンリズが、扉を開けようと奮闘中よ。開いたら、キシとキャシーが人型機械で中を探索してね』

『俺は構わないけど、キャシーは探索で疲れてないか?』


 キシが心配して尋ねたところ、キャシーとキャサリンから同時に通信がやってきた。


『ワタシは、あんまり疲れてないわ。探索は、キャサリンが張り切ってやってたからぁ』

『ふふーん。トラックばっかり運転していると、飽きるからねん。練習がてら、フリフリッツを運転させてもらったわん』


 元が同じでも、それぞれの存在に分かれてから時間が経過したからか、徐々に口調にも変化が現れていた。

 もっとも、よく観察しないと気づかない程度なので、誤差という感じもなくはない。


『なにはともあれ、疲れてないのならよかったよ』

『キシは大丈夫なのぉ?』

『元は会社勤めの社会人だからな。一日八時間の労働なら、軽いもんだよ』

『へぇ。意外とぉ、精力はあるのね』

『今度、夜のベッドでご一緒してもいいかしらん~?』

『下ネタは止してくれ。女性相手だと、反応に困る』

『あらら、可愛らしい反応だわぁ』『あらん、可愛らしい反応ねん』

『茶化すなっての』 


 キシがタジタジになっていると、コンクリートの出入り口を塞いでいた鉄の扉が、重々しい音を立てて開いていく。

 やがて全開になったところで、大丈夫と知らせるように、作業をしていたビルギとアンリズが手を頭の上で大きく振り回している。


『どうやら、さっさと探索しろってことのようだな』

『それじゃぁ、キシ。行きましょう』


 キャシーに促されて、キシはファウンダー・エクスリッチを砂の奥へと続く出入口の中へ進ませる。

 通路にはライトが点っていて、人型機械の感覚器を暗視に調整しなくてもよさそうだった。

 内部はかなり広く、人型機械なら肩寄せ合えば十機横並びにできそうなほどだ。

 警戒しつつ、ゆっくりと坂のようになっている通路を降りていくと、床が水平な場所に到着した。

 ここは通路よりもさらに広く、端から端まで五キロメートルほどはありそうな広場となっている。

 しかし、この建築物の上に乗る砂の重みに耐えるために、多数の柱が乱立しているため、その広さを実感することは難しい。

 柱と柱の間は、あのティルローター式飛行機が通れるほどの幅があるが、全体的に観察すると倉庫というより、地下神殿ないしは首都圏外苑放水路といったところ。

 そんな場所を、ファウンダー・エクスリッチとフリフリッツが進んでいく。

 キシは周囲を見回しながら、強い既視感に襲われた。


「なんだ。どこかで見たことがあるような……」


 独り言でどこで見たか想起させようとする。

 しかしその場所を思い出す前に、この広場全体にけたたましいアラームが鳴り響いた。


『――ビービー! 現地生物の侵入を感知。侵入を感知。排除行動、開始します』


 不穏なアナウンスが流れ、そして乱立している柱の上部が展開して回転灯パトランプが現れ、赤い光を周囲に放ち始めた。

 キシはすかさず、フリフリッツへ通信を送る。


『嫌な予感がする。出入口まで先に急いで戻れ』

『りょうかーい。キシも早く戻ってきてねぇ』


 フリフリッツが背を向けて坂道を駆けのぼる姿を見送りつつ、キシはゆっくりとファウンダー・エクスリッチの足下にある無限軌道で後ろ向きに下がり始めた。

 赤い光とアラームが溢れる中に、新たな音が現れる。

 それは床下から上ってくる滑車の音のように、キシには感じられた。

 それから数秒後、乱立している柱の全てから、なにかの到着を表すであろう『ポーン』という電子機械音が。

 直後、柱が棺桶であったかのように、側面がパカリと開き、中から何かが出てきた。


「出てきたのは人型機械。見る限り、全てファウンダーか」


 柱の中から一機ずつ現れたファウンダーの姿。

 この光景を見て、キシは既視感の正体を掴んだ。


「稼働当初にあった、撃墜数を競う無双ミッションか。あれがあったからこそ、継戦能力が高いファウンダー・エクスリッチがテンプレ改造機になったんだよな」


 キシの脳裏に多勢に無勢という言葉が浮かび、そして一直線である坂道の通路をこのまま上った場合、物量に押しつぶされる未来が見えた。


「大型バーニアのフルブーストで逃げれば俺は大丈夫かもしれないけど――念のためにフリフリッツが地上に逃げきるまでの時間は稼いだ方がいいよな」


 キシは額に冷や汗をかきながら、ファウンダー・エクスリッチにアサルトライフルを構えさせた。

 それが敵対行動に見えたのか、それとも所定の行動の延長線なのか、柱から現れたファウンダーたちは一斉に手にある短機関銃を持ち上げ、ファウンダー・エクスリッチに銃口を向けたのだった。

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[一言] 『知恵の月』は一丸となって、飛び去ったティルローター式飛行機を追いかける。 ティルローター式飛行機が着陸したと思わしき場所を発見するため、『知恵の月』の面々はローラー作戦に近い全域探査を開始…
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