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六十二話 のんびりと待機中


 巨大兵器ピカンタネア――通称『タラバガニ』に、カーゴから飛び出した人型機械たちが三十機、ワラワラと向かっていく。

 どの機体も重装甲で、その手や収納部に装備している武器も大口径の大砲やロケットランチャー系である。

 それもそのはず、『タラバガニ』から飛んで来る銃弾は雨霰のようで避けきることは難しく、そしてその巨大さと装甲の厚さからアサルトライフル以下の銃器ではまともなダメージを与えられないのだ。

 そんな戦いの様子を、キシは戦闘区域外に位置取りしつつ、ファウンダー・エクスリッチのコックピットを開いて、その光景を眺めていた。


「ゲームだと思っていたときは、『タラバガニ』は東京ドームを簡単に抱え込める大きさって話を疑っていたけど。直接目で見て初めて、巨大さが実感できたな」


 モニター越しでは、ちょっと大きな兵器のように感じられていた。しかし裸眼で見てみると、唸りを上げて動く脚と踏み込んだ際に揺れる地面、各種砲台から放たれる銃弾に弾かれる人型機械たちと、『タラバガニ』は『機械仕掛けの神』と表現できるほどの圧倒感があった。

 遠目でこれだ。間近で見ようものなら、さらに威圧感があることだろう。


「それでも、あれは『初心者向け』なんだよなぁ……」


 キシが呟いた通りに、アレは三種類現れる『タラバガニ』のなかで、一番砲台数が少なく、そして装甲も薄い、弱い機体だ。

 通常難度、そして最高難度の機体はより厳めしい外見になるため、キシの目に映るものよりもさらに威圧感があるはずだった。

 それはさておき。

 どうしてキシたち『知恵の月』が、初心者向けの『タラバガニ』を調査対象として選んだのかは、ティシリアの判断だった。


『最高難度の『タラバガニ』は何機も倒されるから、抵抗組織レジスタンスとか現地住民とかが大量に『倒し待ち』しているのよ。そんな場所じゃ、移動を邪魔されちゃって千秒以内に内部を調べるのなんて無理よ。通常難度の方は倒されない場合もあって、骨折り損になる可能性があるから、確実な成果が欲しい今回は見送るわ』


 というわけで、消去法で初心者向けの『タラバガニ』が選ばれたわけである。


「そうはいっても、他の抵抗組織がいないわけじゃないんだよな」


 キシが周辺を見回すと、砂漠のど真ん中で暴れる『タラバガニ』と人型機械たちを遠巻きに囲むようにして、何台ものトラックがあった。それらの中の数台に寄り添うように立つ人型機械も何機かある。

 彼らもまた、初心者プレイヤーたちが『タラバガニ』を倒してくれるのを待っているのだ。

 争奪戦になりそうな予感だが、キシは暴れている『タラバガニ』の様子を見て、嘆息する。


「でも、倒されるまでには時間がまだまだかかりそうだよなぁ」


 脚や胴体にある砲門は壊されているものは少なく、元気よく砲弾や銃弾を垂れ流している。

 対する人型機械たちの動きは悪く、何機か片腕や片足を吹っ飛ばされて、すでに退却していた。

 動きの良い――サブアカ勢だと思われる機体もあるが、一機だけだ。孤軍奮闘しているが、多勢に無勢で、砲台の破壊や脚部装甲の破壊などの成果は挙げられていない。

 どうして動きが悪いのかというと、初心者という経験値不足以外に、キシは問題点を見つけた。


「初心者なのに、ロケットランチャー系の武装を選ぶのは間違いだよな。自動追尾機能があるから当てやすく思えるけど、『タラバガニ』相手だと上手くやらないと機銃でロケット弾を落とされるんだよな。一発の破壊力は劣るけど、着実に機体に当てられる遠距離砲を選ぶべきだよな」


 しかし、どうして初心者が同じような武装を持っているかも、キシにはお見通しだった。


「攻略Wikiや超速攻略動画を鵜呑みにしすぎなんだよな。まあ、そういうマニュアル頼りな相手の方が、対戦だと相手にしやすいんだけど」


 周囲に誰も居ないからと独り言を散々呟いていたキシだったが、後方で待機しているティシリアから通信が入ってきた。


『キシ。戦況はどうなの?』

『これはクエスト期間一杯に使って、一機倒せるぐらいのペースだな。元の世界の時間で開催は一週間――この世界だと二十日ぐらいかかりそうな計算だな』

『そんなに時間がかかりそうなの?』

『サブアカ勢――腕が立ちそうな人が少ないんだよ、不思議なことに』

『それって、運搬機狙いでやってきた機体の多くを、キシが鹵獲したことと関係あるんじゃないの?』

『俺の行動を、サブアカで初心者狩りをするプレイヤーへの運営側からの制裁と思われたってことか』


 しかしそう考えると、普段の『タラバガニ』戦よりサブアカ勢が少ない理由に納得がいった。


『なんにせよ、このままだとずっと暇することになることは確定だな』

『運搬機で作った水と食料レーションは大量に積んできたから、それぐらいの日数は持つわよ。いざとなったら、ファウンダー・エクスリッチやフリフリッツにある装置から両方作れるしね』

『あー。食糧問題を解決するために、他の組織も人型機械を連れているわけだな』

『人型機械一つあれば、飲食と作業力に困らなくなるの。だから、大昔にレストアされた機体――キシの言う初期三機体でも、それなりの値段がいまもするのよね』


 しみじみと語るティシリアに、キシは冗談口調になる。


『その高額な機械を大量に鹵獲した俺に対して、『知恵の月』のリーダーさまはなにか言うべきことがあるんじゃないか?』

『ありがとうね、キシ。お陰で、懐が大変に潤ったわ。褒めて遣わすわ』

『へへー、身に余る光栄でごぜえますだ』

『くふっ。なによ、その口調は』


 ティシリアはひとしきり笑った後で、真剣な声になった。


『資金的には大助かりだったけど、余っていた機体を売っちゃって本当に良かったの?』

『運搬機のハンガーは四機分しかないから、使うもの以外を持っていてもしょうがないし』

『でも、いま誰も使う予定のない布魔ふーまは残しているのよね。それはどうしてなの?』

『あれは改造されているとはいえ、一番の最新機種だからね。解析しても改造の才能がない俺には意味不明だけど、メカニックのヤシュリとタミルなら、なにか得るものがあるんじゃないかって思ったんだ』

『要は、教材ってことね。私はてっきり、キシの予備機として残しているんだと思っていたわ』

『使ってみてもいいけど、ティシュー装甲は戦闘でほぼ失われちゃっているし、バーニアは中速度帯の物に換装されているから、既存機レディーメイドの布魔の良いところの多くがなくなっちゃっているんだよ。手慣れた感のあるファウンダー・エクスリッチを置いて使う気には、ちょっとなれないかな』

『とかいっちゃって、最新機なんだからファウンダー・エクスリッチよりも性能自体は良いんでしょ。なら乗り換えた方が、戦果が期待できるんじゃないの?』

『それはその通りなんだけど……。まあ、ファウンダー・エクスリッチに不満はないから、あえて乗り換える気にはなれないってだけだよ』

『そういえばキシって、普通の人が欠点に見える人型機械の特徴を、個性ととらえる変な価値観を持っていたわね』

『面と向かって、変とは失礼だな』 


 キシが苦笑いしていると、ティシリアの通信の向こうから別の声が小さく入った。

 なにかはよく聞こえなかったが、すぐにティシリアが意味を教えてくれる。


『時間がかかりそうだって見解を伝えたら、この周囲に集まった人たちが一度会合を開きたいって持ち掛けてきたわ。キシも一度戻ってきて』

『了解。その会合って、なにを話すんだ?』

『大まかな取り分を、先に決めるのよ。どこそこは後ろ脚とか、どこそこは頭の部分とかをね』

『俺たちの場合は、どこを取るってことにするんだ?』

『内部機械だから、胴体部分ってことになるわ。この部位は不人気って話だから、候補に手を上げれば即決まりすると思うわ』

『それはどうして――って、倒されて千秒後に来るっていう空飛ぶ機械とやらが、重要な部分は持ち去っちゃうからだな』

『あとは作業し難いって理由もあるわ。足なら先端から解体していけばいいけど、胴体部分に取り付くのも大変だし、解体も装甲が一番暑いところだから難儀するのよ』


 ここで再び、別の誰かの声が小さく入る。なんとなく、長話していると怒られたように聞こえた。


『っと、話し込んでいる場合じゃないわ。キシも早く戻ってきなさい』

『了解。安全運転で戻るとするよ』


 キシはコックピットを閉めると、ファウンダー・エクスリッチの足裏に設置されている無限軌道の回転させ、そして緩やかに速度上昇させつつ、『知恵の月』の機体運搬用トラックへ戻ることにしたのだった。



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