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六十話 次のステップへ

 『陽炎の蠍』との決闘が終わった当日は、休憩所を上げての宴会が行われた。『知恵の月』以外の、休憩所に住んでいたり訪れたりしていた人にも、害獣の肉やレーション酒が振舞われて大いに盛り上がった。

 その後二日かけて、休憩所の仕事をしながら決闘の後処理が行われた。

 そうして決闘から三日後の午後。ティシリアは『知恵の月』の面々を、住居用トラックの中に呼び出した。

 なんだろうと集まった人たちを前に、ティシリアは腰に手を当てて胸を張り、堂々とした態度をとる。


「あの決闘の結果を見て、私たちにちょっかいを出そうとしていた奴らや尻込みして沈黙したわ。そして休憩所は順風満帆で、活動資金もだいぶ貯まったわ。というわけで、今日から『知恵の月』は本来の目的に向けて動くわよ!」


 力強い宣言に、ビルギがおずおずと挙手する。


「目的って、人型機械から土地を取り戻すってことですよね」

抵抗組織レジスタンスとしての最終目的は、その通りね。でも、『知恵の月』としての大目標は、人型機械の親玉の居場所を把握することと、可能なら各種の生産施設の位置も手に入れる押させることよ」


 ティシリアの言葉に、『知恵の月』の面々は『そうだった』と頷いていた。

 その中で、目的を常に自覚していたのか、アンリズは頷かないで手を上げる。


「ティシリアは、その方策をすでに立てているのかしら」

「もちろんよ。少し前の電磁波爆弾作戦で、キシを手に入れたけど、私たちの予想に反して親玉の居場所は知らなかったわ。運搬機が出てくる場所は教えてくれたけど、結局はそこから入手した多くが人型機械に破壊されちゃったから、意味としては薄くなっちゃっているわ」


 名指しで批判に近い言葉を言われたが、キシはここまでの付き合いでティシリアに悪意はないと分かっているため、苦笑いしながら言い返す。


「悪かったな。あまり情報を知らなくて」

「情報の面では期待外れだったけど、人型機械を運転すう腕は予想以上だったから、収支としては有益の方に傾いているから、キシは卑下しないでいいわよ。って、話がズレちゃったじゃない!」


 軽く怒ってから、ティシリアは咳払いの後で、会話の流れを元に戻す。


「とにかく、キャサリンとキャシーはキシよりも情報を知らなかったわけだし、人型機械の操縦手を捕まえて情報を吐かせることは期待できないってことよ」


 一つの結論を受けて、ビルギが再び手を上げる。


「では、どこから情報を頂こうと考えているんですか?」

「運転手が知らないのなら、知っていそうな『機械』から情報を得ようと思っているわ」

「機械からとは?」

「この発想の原点は、運搬機よ。人型機械の親玉からの通信で、人型機械が次にどこに現れるかの情報が手に入るの。なら、それを逆にたどることができたら、情報の源に繋がれるんじゃないかって思ったわけ」


 それが可能ならば、確かに情報は得放題だろう。だがそうは上手くいかない。


「もちろん、運搬機の通信設備じゃできないことは、すでに試して分かっているわ。だからここで、想像する域を一歩踏み出して考えてみたわ。通信をさかのぼって情報を得るために問題になっているの、通信設備。運搬機のものは、親玉からの一方通行のもの。なら双方向でやり取りしている通信機なら、できるんじゃないかって思うの」


 理屈としては、一応は通っている。

 しかしこの発想の問題点は、双方向で情報をやり取りできる通信機という部分だった。

 そんな機械があるかと、キシは首を捻り、そしてあるものを思い出す。


「もしかして、人型機械に組み込まれている、脳を読み取る機械のことじゃないか。あれは脳を読み取った後、その情報を別の世界へ送る役割がある」


 キシが少し自信をもって意見したが、ティシリアは首を横に振った。


「あれは情報を送るだけの装置よ。キシが言う『向こうの世界』からやってくる知識情報の受信は、人を生み出す運搬機のガラス筒に組み込まれているのよ」

「あちゃー。予想は大外れだったか。いい線いったと思ったんだけど」


 キシがお道化て残念がると、他の人たちから笑いが起こった。

 その笑い声が収まってから、ティシリアが話を続ける。


「キシの発想は良かったわよ。要は、人型機械や運搬機以外の機械にある通信設備を狙おうって考えだしね」

「その二つ以外に、機械なんてあったか?」


 キシがメタリック・マニューバーズの知識を引っ張り出して考えていると、その結論が出るより先に、ティシリアが答えを告げる。


「一つは廃都市にあったような、人型機械の親玉が人型機械たちを争わせるために大地に設置する、大型リアクター施設ね。噂によると、施設の一区画には現地住民を寄せ付けない防備の硬い場所があって、そこから通信波が検知されているそうよ。でもこれは、ちょっと難しいわ」

「あの設備は、水と食料を運搬機以上に生み出しますから、入手した人たちが権利を主張します。なので、ちょっと中を見せてと言っても、許可してくれません。許可して、施設が使い物にならなくなったら、大損ですから」


 ビルギの補足説明に、ティシリアは残念そうな顔で頷く。


「大型リアクター施設を調べられないとなると、次の候補は、運搬機が出てくる場所を守っている、あの砲台だらけの移動要塞だけど」


 ティシリアが視線を向ける先は、キシだ。


「キシ。あなた、あれ倒せる?」

「……無理に近い。少なくとも、いま『知恵の月』が持っている機体じゃ、近づくこと自体が困難だ。仮にたどり着いて、戦闘部隊を送り込めたとしても、防衛装置は中にもあるだろうから、制圧は難しいんじゃないかと思うぞ」

「私と同じ見解ね。あの要塞に確実に双方向の通信設備があると分かっていれば、危険を冒してでも実行しようとは思うけど。不確定な予想で命を張るには、相手が悪すぎるわ」


 この候補もダメとなったところで、ティシリアは通信端末を掲げ、これが本命だったとばかりの顔をする。


「というわけで、私たちが敵いそうで、かつ双方向通信をしてそうな相手は、これよ!」


 端末の画面に映っていたのは、なにかのスケッチだった。

 それは蜘蛛のように、多数の足を持つ機械。その体や足には、多数の機銃砲台や数門の大砲があって刺々しい。

 その絵を見て、キシはそれがなんだかわかった。


「ああ『タラバガニ』か。確かにそれは、人型機械でも運搬機でもない、人型機械の親玉が操ってそうな機械だな」


 理解を示すキシに、アンリズが半目を向けてきた。


「知っていたなら、なんで情報を吐かなかった」

「人型機械やこの世界が向こうでどう伝わっているかを話せとは言われたが、大人数参加型依頼レイドミッションのボスの事は聞かれなかったし」

「……まあいいわ。詳しいなら、どんな相手か説明しなさい」


 アンリズに冷たく言われて、キシは困ったなと後ろ頭を掻く。


「『タラバガニ』は見た目からつけられた通称で、本来の名前は『ピカンタネア』。スケッチにあるように、多種多様な砲台を体に纏った、移動砲台型の巨大兵器だ。メタリック・マニューバーズでは、三十機という大人数の人型機械が何度も何度も挑んで倒す、そんな強大な敵だった」


 キシが懐かしそうに語ると、アンリズは感傷には興味がなさそうな口調で問いかける。


「それは、どれぐらい強い?」

「運搬機が出てくる場所を守っている、あの移動要塞と戦うとするだろ。そうしたら『タラバガニ』が余裕で勝つ。最も高難易度の場合はだけどね」

「高難易度ということは、中難度や軽難度もあるわけね?」

「ある。最大難度、通常難度、初心者向けと、三段階に設定された機体が一種類ずつ登場するんだ。最大難度と通常難度は、誰でも参加可能だけど、初心者向けは『奪われたかカーゴを破壊せよ』と同じで、初心者とサブアカ勢だけしか入れない。この難易度の設定の大きな差は、それぞれの機体が持つ武装の種類と数と、登場する場所の地形ということになっているんだ」


 キシの説明に、『知恵の月』のメンバーたちは、なるほどと頷いている。

 それは、元となったプレイヤーが初心者だったキャサリンとキャシーもそうだし、『タラバガニ』を狙おうと提案したティシリアもだった。

 キシはみんなが理解してくれたと見てから、懸念を告げる。


「でも、『知恵の月』の総力を上げても、初心者向けの機体にすら勝てないほど強い敵だよ。本当に『タラバガニ』に挑むのか?」


 キシからの当然の疑問だったが、ティシリアはきょとんとした顔をする。


「戦う気なんて、もともとないわよ。私としては、『タラバガニ』の中に双方向の通信設備があるかどうか、あれば確保を狙っているだけよ」

「それを調べるには、撃破するしかないんじゃないか?」

「そんなことないわよ。キシの言う『プレイヤー』という操縦手が『タラバガニ』を倒してくれるのを待ってから、中身を調べればいいだし」

「……そうなのか?」

「撃破された『タラバガニ』が、どんな最後を迎えるかは、ちゃんと情報があるわ」


 ティシリアは情報端末を手元に戻すと、画面を操作して、その情報を呼び出した。


「まず、撃破されて千秒以内に空飛ぶ機械が現れ、『タラバガニ』からリアクターとそれに付随する装置を回収していくわ。これは土地に設置する大型リアクターに流用されると、予想がでているわね。その後、二、三日後に解体と回収をする機械がやってきて、『タラバガニ』の残骸を全て回収していくわ」

「その三日間の猶予のうちに、抵抗組織や近くに住む人たちが総出で、残骸を可能な限り回収します。巨大さとその硬さから、大した量を取ることはできないんですけどね」


 ビルギの補足説明を聞き、キシはティシリアの作戦を理解した。


「つまり、他の人たちが解体に精を出している間に、俺たちは中身を調べるってわけだ」


 当然の予想だったが、ティシリアの反応は苦笑いだった。


「それももちろんやるけど、私としては、リアクターとその周辺装置を真っ先に調べたいわ。長い時間『タラバガニ』の残骸は漁られているのに、通信設備があったという話を聞かないから、持ち去られる部分にあるんじゃないかって考えているのよ」


 予想が外れたことに、キシは気恥ずかしさを感じながらも、ある問題点が気になった。


「理屈から考えるとその通りだけど、リアクターを回収する飛行機械がやってくるのは千秒以内だろ。調べられるのか?」

「ある場所はわかっているから調べること自体はできるわ。仮に調べ切れなくても、持って行かれる先がわかる装置を付けることができれば、万々歳よ。だって、その先に人型機械の親玉がいるってことなんだしね」


 色々とティシリアなりに考えているんだとわかり、キシだけでなく他の面々も理解を示した。

 こうして、『知恵の月』の次の目標は、巨大兵器『タラバガニ』の内部構造を調べて通信設備を見つけることないしは、持って行かれるリアクター部分に発信機をつけることと決まったのだった。


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