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四十七話 ガチ勢

 重装甲機体を二機撃破したキシは通信を全てオフにすると、コックピットの背もたれに寄り掛かりながら、持ち込んでいた水とレーションを口にする。


「もぐもぐ、ごくごく。間食でひと心地着いたけど――辛い戦いだな」


 短い休憩中に不意に不満をこぼしてしまうほど、最初期の機体を操って戦うのは、最新機を使う時に比べて神経をかなり使う。

 特に相手がかなりの改造機――先ほどの勇者型機体や重機機体のような機相手だと、相手の持ち味を殺すように動いたり、逆にあえて発揮させた持ち味を逆用するように戦わないと、力負けてしてしまうためだ。

 しかも、相手はまだ六機もいる。そのうちのほとんどがサブアカで、改造機持ちだと予想も立つ。


「一機で四機を倒したら、ゲームだと大活躍の判定が貰えるんだけどなぁ。まあ、この調子であと六機を相手にしますか。何機か後ろに逃がしていいんだから、気楽なもんだよな」


 キシは一度大きく伸びをすると、軽く手を振って手指のこわばりを取り、操縦桿を握り直した。

 改めて全周モニターを見ると、地平線の切れ目に人型機械の姿がすでに見えている。

 最大望遠で姿を確認し、狙撃銃持ちがいないことを確認。

 まだ少しの間、休憩できることを喜んだ。


「それなら、交戦距離に入るまでに、敵機体の大まかな姿形を見ておくかな」


 残っている六機すべてが、中速度帯ないしは高速機で協調して動いている。

 三機ほど、既存機体の改造機らしき見た目をしているが、その他は改造に改造を重ねてシルエットが歪になった姿をしている。

 

「これは、少なくとも半分は『ガチ勢』だな」


 メタリック・マニューバーズにおけるガチ勢とは、あらゆる手段を講じ、作戦目標を達成することに気炎を上げ、攻防戦や対戦では勝利こそが全てという価値観を持つ、そんな人たちの総称である。

 戦場に合わせた機体を選び、評判のいい武器を集め、弱いとされる機体や改造法には見向きもしない。

 それこそ、滅多に出現しない海岸のフィールドが戦場に選ばれると、今後活躍する場が長期間見込めなくとも、水陸両用機と水中攻撃用武器を購入してフル改造してしまうほど。仮に改造したことで機体の見た目が悪くなろうと、性能に差が出ないのならそのままの姿で平然と使ったりもする。機体色は基本、そのマップの保護色になる迷彩柄を採用することが多い。

 そんな手合いであるため、適正ランクで作戦が達成できなかったり負けが込んできだりすると、気分転換と称してサブアカで無双して遊ぶことをする者もいる。

 そうした習性を考えると、このミッションの第三陣にそのような人たちが参加していることは、当然とも言えた。

 人によっては毛嫌いする相手だが、キシに彼らに対する悪感情はない。

 キシ自身、人型機械を改造する才能がない代わりに、運転の腕前は負けたくないと考えていることもある。そして、任務達成や勝とうとする気持ちは、間違っているとは思わないからだ。

 しかしキシは性格上、機体改造の才能がないことを抜きにしても、ガチ勢ではない。

 任務達成と戦闘の勝利を目指すことは間違いではないが、キシにはどうもそれ『だけ』を目指してゲームをすることは息苦しいと感じてしまう。


「真剣勝負の果てに負けても相手が行った挙動に関心して悔しさを感じなかったり、楽勝でも虚しさを感じるほどの無益な戦いもあったしなぁ――っと、いけない。考えが逸れた」


 キシは思考量の分配を、目の前に迫りつつ相手の分析に振り分け戻す。

 その中で、キシを無視してニセモノカーゴに向かいそうな相手を見繕い、通過させてもいいかなと思える機体を選んでいく。

 いびつなシルエットの機体の一つと、既存機を改造したらしき内の一機。

 そのどちらも機体を操る技量が、周囲より突出していて低い。

 きっとキシが他の機体と交戦に入ったら、こっそりと横を抜けてカーゴの撃破に向かうだろう。そうしないとその二機は、作戦目標を達成できないからだ。


「そう予想はしても、本当にそうなるかはわからないんだけどね」


 呟きつつ、中速度帯の機体との交戦距離が迫ったことで、キシの顔に緊張感が現れる。

 もう少ししたら、前に出て迎撃する必要がある――という段階になって、迫りつつある敵機の中のどれかから全波帯通信オープンチャンネルで通信がやってきた。


『先に行った連中との戦い方、見せてもらった! その胸の日の丸と合わせて、やっぱりテメェ、俺から機体を奪いやがったクソ店員のコピーだな!!』


 不躾になんだと、キシは眉を寄せながら、再び迫りつつある一団に目を凝らす。

 少し大きく見えるようになった敵機――その中に一つ、見覚えがあるシルエットの機体があった。


「あれは『布魔ふーま』か。色々と、形は変になっているけど……」


 キシが見咎めたのは、確かに忍者然とした姿形をしている機体だった。機体各部にある風にたなびく布のような装甲――ティシュー装甲は、布魔の特徴の一つでもある。

 しかしハッキリそうだと言えないぐらいに、機体が改造してあった。

 高速機の特徴である背部バーニアは、中速度帯用の取り回しのよい控えめなものに設計変更。片手で扱える釘のような弾を撃つダーツ銃から、両手で操るアサルトライフルになっている。包帯型のティシュー装甲に至っては、頭から足首に至る機体全体にグルグルと巻き付けられていて、まるでミイラのよう。


「装甲の上に巻くことで、対刃対弾性能を向上させたんだろうけど。この見た目は、怪我を負ったのに無理して出撃してきた忍者だよな」


 破損もしていないのに痛々しい外見を、キシはそれはそれでありと受け取った。

 そして、全波帯通信で言い返す。


『また性懲りもなく、俺に機体を奪われに来たなんて、ご苦労なことだね』

『その反応。テメェ、あの店員本人じゃねえだろうな!?』

『いいえ。俺は彼とは、似た別人だよ』

『ああん? なに言って――『あのNPCは、その店員とやらの戦術をコピーしてあるって事だろ。ゲームなのにマジに受け取るなっての』――うるせえな! コピーだろうがニセモノだろうが、オレがヤツをぶっ倒すことに変わりねえんだよ!』


 仲間からの通信に怒鳴り返す様子から、よほど前に布魔を鹵獲されたことが頭にきていることで、口調が以前より荒々しいものになっているようだった。


(当然か。なんたって、高いリアルマネーを払って改造を頼んだ最新機種を、早々(はやばや)と俺に奪われたんだから。あのプレイヤーにしてみれば、俺は盗人も同然なんだろうし)


 そうと理解しつつも、ファウンダー・エクスリッチに戦いを挑んできて欲しいため、キシはあえて煽りを入れることにした。


『また鹵獲しちゃ可哀そうだし、見逃してあげるから、運搬機まで逃げていいよ?』

『はぁー!!? 戦術コピーしただけのNPCが、生意気いいやがって!!』


 バーニアを大きく噴出させて、布魔改造機は加速を得て、集団から突出した。

 すると、布魔のパイロットが開いている全波帯通信に、仲間の通信が混ざって流れてきた。


『敵は一機だけだ。囲んで銃撃すれば、楽に倒せるんだぞ』

『うるせえ。こいつはオレがやるんだ。他の奴らは黙ってみてやがれ!』

『目的を見失うな!』


 度重なる警告にも、布魔のパイロットは耳を貸さず、とうとうアサルトライフルの射程域にファウンダー・エクスリッチを捉えるまで接近した。


『食らいやがれ!』


 三点バーストを三回。計九発の弾丸が、ファウンダー・エクスリッチに飛んで来る。

 しかし、射程圏内なだけで距離はまだあり、そこからでは命中率がまだ低い。

 キシは平然とした心地で、ファウンダー・エクスリッチの後ろ腰からアサルトライフルを取り出す。

 同じアサルトライフルだが、両者の銃器の見た目は違う。

 布魔の方は、H&K社のXM8やFA-MASのような近代的な見た目。

 ファウンダー・エクスリッチが持つ銃は、M-16に似た少し古臭い形をしている。

 布魔の方は購入はリアルマネーが必要なタイプで、かなりの高性能。一方のファウンダー・エクスリッチの銃はゲーム内通貨で安価で入手可能で、性能もそれに見合ったそれなりのもの。

 銃器の性能だけ比べるのなら、圧倒的に布魔の方が有利である。

 しかし同口径の銃弾を使うため、性能差といっても射程距離や威力が大幅に違うわけではない。

 違いは、集弾率や連射時の銃口の跳ね上がり具合、銃器自体の重量軽減や取り回しの簡便化の部分だ。

 それらは、プレイヤーのスキルや人型機械の腕部性能でも、穴埋めできるもの。

 むしろキシにとってみたら、さんざん扱い慣れたM-16に似たアサルトライフルの方が、癖や欠点などがわかっている分、当てやすいとすら思っている。

 その証拠に、近づく布魔に向かって単射で発砲し、見事に弾丸を機体に当てることに成功してみせた。


『――スカした態度で、当ててきやがったが、こっちは無傷だ!』


 弾丸が命中した部分のティシュー装甲が剥がれて空中に散っているため、正確には無傷ではないのだが、機体にダメージがないという意味では、布魔のパイロットの言う通りである。

 キシはアサルトライフルを三点バーストに射撃を切り替えると、ファウンダー・エクスリッチの足に履かせた無限軌道を駆動させて、相手に接近していく。


『向かってくるっていうのなら、またお前の機体を鹵獲してやるよ』

『やれるもんなら、やってみやがれ!』


 啖呵を吐いたパイロットに操られて、布魔は前へとバーニアの推進力で飛びながら、アサルトライフルを連射していく。

 キシはファウンダー・エクスリッチを回る履帯で前に進ませつつ、右に左にと蛇行しながら、アサルトライフルで照準をしっかりとってから三点射する。

 ファウンダー・エクスリッチの装甲に敵弾がパラパラと当たって弾ける。

 布魔に弾が三連続で命中し、ティシュー装甲が剥がれて空中に舞う。

 両者の命中率は違えど、お互いに当たった数はほぼ同数で傷ともいえない痕がついただけ。

 まだまだ万全の状態で、アサルトライフルが中速度帯の機体に致命傷を与えられる必殺の距離に、両機体は突入していった。

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