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四十五話 早朝の第三陣

前話のあとがきに入れられなかったので、前書きで作者が抱いているファウンダー・エクスリッチのイメージをお伝えします。


ファウンダー+ジムストライカーの外部装甲+パイプとギアによる関節補助装置+足裏に無限軌道をつける=ファウンダー・エクスリッチの素体


ファウンダー・エクスリッチの素体+腕や足の部分にガンダムNT-1のチョバムアーマー=第三陣でキシが使うファウンダー・エクスリッチ


という風に、装甲を増やして生存性を上げた感じとなっております。

 第三陣が現れた。

 西に布陣を始めたカーゴを見て、『砂モグラ団』は興奮混じりに通信してきた。


『デカい! すべての運搬機がやたらと豪華でデカい! あと、銃座が沢山あって、大砲までついてやがる!』

「すべての運搬機がそんな感じなのか?」

『二機は、一陣二陣と同じぐらいの運搬機だが、他の八つはデカすぎる! やべぇ、いくつかの銃座がこっち向いた。急いで逃げることにするぜ』


 通信が少しの間繋がらなくなり、遠くから砲音が響いてきた。


『……くっそ、やばい! 射程範囲が段違いだ! 逃げ切ったが、監視は難しい!』

「分かった。じゃあ『砂モグラ団』のみんなは、隠れているカーゴの付近まで撤退よろしく。あとは俺とファウンダー・エクスリッチがやるから」

『申し出はありがたいけどよ、大丈夫なのか?』

「やるしかないでしょ。大丈夫、死ぬ気はないから」

『分かった。頼んだぜ』


 キシは『砂モグラ団』との通信をスイッチから切ると、座席の背もたれに体を預けた。


「豪華な運搬機ねぇ。サブアカでそんなことができる相手となると、乗っている機体も、お金かけているんだろうなぁ」


 一気に勝ち目が減ったことで、キシの口からついつい愚痴が出てしまった。

 しかし、深呼吸を一つした後は、もう元通りの気分に戻っている。


「さて、やることは変わらないんだ。全力で行こうじゃないか」


 手指と首の運動をした後で、操縦桿を握って操った。

 動きに連動して、ファウンダー・エクスリッチが狙撃銃を手に立ち上がる。

 銃口の先を西側からくるであろう敵機体を狙うために、水平に立射の構えを取った。

 そのまま時間が過ぎていき、周囲が静かな中で、少しずつ緊張感が高まっていく。

 そうしてキシのファウンダー・エクスリッチと、サブアカ勢の人型機械との戦闘は、敵カーゴが放った砲撃の音で始まった。

 その音の意味を、キシはすぐさまに理解する。

 いまから襲い掛かると知らせるだけの、空砲――つまりは号砲だ。


「自意識過剰な人がいるようだな。けど、ありがたい」


 キシはファウンダー・エクスリッチに立射の構えをさせたまま、こちらに来るであろう敵機体を待った。

 定石通りなら、まず来るのは高速機。

 しかしその予想は、少し外される。

 砂煙を上げて近づいてくる存在を、ファウンダー・エクスリッチの最大望遠で確認し、キシは舌打ちした。


「チッ。『サンドボード』装備機が二機。しかも背中に一機ずつ乗せているか」


 キシが呟いた通りに、奇妙な姿の人型機械たちが近づいてきていた。

 遠目に見るなら、水上バイクに乗った人間のようなシルエットをしている。

 メタリック・マニューバーズをよく知らない人が見たら、乗っている人型機械が操っていると錯覚することだろう。

 しかしその水上バイクに見えるもの自身も、サンドボードという名前の使い捨ての外部装甲を身に纏った、人型機械に他ならない。

 目的地までの移動に特化した強襲装備で、その流線形の装甲は、かなりの対弾性能を誇る。

 ネタアイテムに近い装備ではあるのだが、二つのサンドボードとも装甲の数か所から銃身が進行方向に突き出ているあたり、手間と資金をかけて戦闘も可能にできるように改造してあるようだった。


「バイクでいうヘッドライト部分に短銃身――マシンガン系。側面からこちらへ伸びているのは、長射程用の長い砲身。色々と厄介な相手だな」


 キシはファウンダー・エクスリッチに照準を整えさせて、持たせている狙撃銃を放った。

 ゴゥッと重たい発砲音が鳴り、銃弾が高速でサンドボードの一機を目掛けて飛ぶ。

 表面に着弾。しかし火花と共に弾かれた。

 衝撃で足を鈍らせることはできたが、それだけが成果だ。


「真正面の装甲を厚く改造してあるのか。なら、もう一方はどうだ?」


 装填し、発砲。こちらも同じっ結果に終わる。

 それならと、サンドボードに乗っている方の機体を照準して、発砲。

 今度はど真ん中に命中し、腹に開いた大穴から破片をまき散らしながら、後ろから砂と岩石の地面に倒れた。

 あまりの容易さに、キシは訝しがりながら、もう一方のサンドボードに乗る人型機械を照準しながら、最大望遠で観察する。

 必死にサンドボードにしがみついている姿に、嫌な予感が走った。


「紛れて参加した初心者を乗せて、俺がサンドボードと乗った人型機械の、どちらを先に狙うかを見たのか」


 先に乗った人型機械を狙えば、サンドボードの知識なし。逆にサンドボードを狙ったら、その脅威を知っている。

 その程度の情報でも、キシの実力を推し量る一助になる。

 まんまと乗せられたことに、キシは苦笑いを浮かべた。


「まずったな。でも、減らせるうちに数を減らさないとね」


 キシは照準を人型機械に合わせて発砲。頭を吹き飛ばし、サンドボードから転げ落とす。

 大破した二機の人型機械が、プログラムによって自分たちのカーゴへと戻っていく。

 その間に、サンドボード二機は交戦距離に入り、サブマシンガンと二門の砲を連射し始めた。


「全く、困ったな」


 キシは慌てずにファウンダー・エクスリッチを、脚につけた履帯を回転させて、左右に蛇行しながら後ろへと移動させる。

 そして腕につけた盾でコックピット周りを守りながら、狙撃銃で二機のサンドボードを狙い続けた。

 ファウンダー・エクスリッチが放った弾丸はよく当たるものの、やはり正面からでは装甲を抜く威力が足りない。

 逆にサンドボードからの銃撃は、ばら撒かれるサブマシンガンの弾は遠くからでも少し当たるものの、ハードイスから移植した装甲の前には砂粒同然で効かない。二門の砲については、キシが狙いを定まらせないように左右に蛇行するため、常にファウンダー・エクスリッチの右か左側の地面に突きささっている。

 このまま応戦が続き、段々と両者の距離が縮まってくる。

 そしてお互いに有効打を与えられないまま、後退していたファウンダー・エクスリッチにの横を、高速で移動するサンドボードがすれ違おうとする。

 その一瞬前、肉薄距離に近い位置で、キシは狙撃銃を撃った。

 流石にその距離での射撃は装甲を増したサンドボードにも聞いたが、しかし正面装甲を大きくへこますだけの結果に終わる。


「硬すぎるだろ。どの機体の装甲を切り貼りしたんだよ」


 キシはファウンダー・エクスリッチを、足の無限軌道を使って超信地旋回――その場で向きを変える。そして、追い抜いた先で旋回しているサンドボードの一機の横腹を狙って、狙撃銃を撃った。

 正面装甲は厚くても、側面はやや薄かったようで、大穴が空いた。

 しかし開いただけで、相手はまだ動いている。それどころか、移動はもう終わりと体言するように、サンドボードで覆っていた機体を出現させる。

 ハードイス系統の、分厚い装甲で身を守りながら、大火力の機関砲で相手を蹂躙する重量級機体だ。トリコロールのカラーリングと外連味のある外観から、なんとなく『勇者』という単語が思い浮かんでしまう機体だ。

 勇者っぽい人型機械は、抜け出たサンドボードを抱えあげると、ファウンダー・エクスリッチに対して地面に接していた面を盾にするように構えてくる。


「この手の機体は、破壊力に優れた武器を持っていることが多いから、あまり相手にしたくないんだけど」


 いやな相手が来たと歯噛みしながら、キシはファウンダー・エクスリッチをさらに下がらせて距離を空ける。

 その間に、もう一機のサンドボードの側面に向かって、狙撃銃を放つ。

 斜めになった機体の側面に当たった弾丸は、表面を撫でるように通過し、中ほどから後部にかけて長い傷傷をつけた。

 その後部まで至った傷が良かった。つなぎ目が剥離し、隠されていた機体の脚部が見える。

 キシは見えた機体の足を、狙撃銃で狙おうとする。

 しかしそれより先に、相手がサンドボードの外装を機体から取り外す方が早かった。


「判断に迷いがないな。しかも、こっちも外見にも金をかけた改造機か」


 こちらも重装甲系の機体。機体各所に縞鋼板チェッカープレートに似せた増加装甲をつけ、全体を黄色に塗り黒のストライプをあしらっている。左手をプライヤーの先端のような非人間型にしてあるため、さらに建築機――重機然とした雰囲気が溢れる設計となっている。

 勇者型と工作機械型の人型機械を見て、どちらもサブアカ勢によくいる趣味機体を操るプレイヤーだと、キシは判断した。


「でも侮れないんだよなぁ。大人って、趣味にお金をかけるもんだし」


 キシはさらに後ろに下がりながら、狙撃銃を発砲。

 しかし、勇者型の機体が前に出て、掲げているサンドボードの底面で弾丸を防いだ。

 ファウンダー・エクスリッチが次弾を装填していると、全波帯通信オープンチャンネルでの通信がやってきた。


『初心者狩りをする、悪しきNPCめ。この『ジャドンガーン』が、『ズバンソード』の錆にしてくれる!』


 初老を少し超えたような、しゃがれと渋みを感じさせる声。それと同時に、勇者型の人型機械が背中から、柄が派手にデコレートされた西洋剣を取り出した。

 通信と行動を見るに、どうやら勇者機体を操っているプレイヤーは、愛機に『ジャドンガーン』と愛剣に『ズバンソード』と名前をつけたのだろう。

 冷めた目で見れば、いい大人が何をしているのやらと思うところだが、キシは好意的な笑みを浮かべる。


「そのなりきり、嫌いじゃないな。差し詰め、俺とファウンダー・エクスリッチは、悪のやられメカ一号ってところか」


 そういうことならと、キシも全波帯通信で言い返す。


『自分を正義と信じて疑わない愚者め! 悪は貴様だ、この侵略者!』


 キシの通信に、ジャドンガーンがうろたえたように硬直する。

 その隙を狙って銃撃するが、再び盾に阻まれてしまう。

 キシは舌打ちをこらえて、通信でヤジを飛ばす。


『平和に暮らす我々の生活を、人型機械で蹂躙しようとする者が、悪でなくてなんだ!』

『ああー、そういう設定――こほん。詭弁を弄するとは狡猾な! だがこちらは知っているのだ。貴様たちが我らが同胞より運搬機を強奪したことを! 悪の手法に手を染めた時点で、そちらにどんな大義名分があろうと、それは悪に他ならない!』


 相手も乗ってきたところで、キシもノリノリで言葉の応戦をする。


『侵略者らしい理屈なことだな。いいだろう。この場でその思い上がった考えを、その機体ごとうち砕いてくれる!』

『もはや言葉は不要。ここからは、勝った方が正義となる時間だ!』


 こうしてキシのファウンダー・エクスリッチと勇者型機体ジャドンガーンが戦闘に入った。

 狙撃銃が砲声を上げ、剣が唸りを上げて振るわれ、両者のバーニアが空気を焦がす。

 正義と悪になり切っての戦闘を、キシと相手のパイロットは危機としてやり取りする。

 一方、二人のやり取りについていけていない、重機風の機体とそのパイロットは、どうしたものかと悩むように攻撃の手をさ迷わせるのだった。


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[一言] 流石にその距離での射撃は装甲を増したサンドボードにも聞いたが、 聞いた>効いた 正義と悪になり切っての戦闘を、キシと相手のパイロットは危機としてやり取りする 危機>嬉々
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