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四十二話 第二陣は夕暮れに

 二日目の早朝。

 第二陣がやってくるのを、キシはエチュビッテのコックピットに座りながら待っていた。

 しかし、偵察に出ている『砂モグラ団』からの報告はなく、暇を持て余し続けていた。

 正午が過ぎ、さらに数時間たっても、敵のカーゴが現れる予兆がない。

 キシはレーションを食べながら、ぽつりと独り言をこぼす。


「これは夕方か夜になるなー」


 それまで昼寝していても大丈夫と、キシは判断して、コックピットの背もたれに体重を預けて目を閉じた。

 やがて夕暮れになり、水平線に夕日が沈み始め、砂と岩石の大地が赤い光に染まっていく。

 そこでようやく、『砂モグラ団』からの通信が入った。


『キシのアニさん。運搬機がやってきましたぜ』

「――了解。今回はそのまま観測をよろしくね」

『了解でさ。奴らが出てきた後、長距離砲の弾着地点と、敵機の様子をお知らせしやすよ』


 キシは首と肩を回し、大あくびを一つ。それから操縦桿を握り直した。

 そしてエチュビッテの顔を、夕日に向けさせる。


「今回も西側に展開しているから、逆光か。日が落ち切ってから出撃してくれると、こちらとしてもやりやすいんだけどなぁ」


 さてどうなるかと呟きながら、キシは地面に横たえていた長距離砲をエチュビッテに持ち上げさせる。

 人型機械の半身ほどの直径と、その身長を超す長さがあった。

 それほどの超重量物体を、エチュビッテの細腕が自由に操れるわけもなく、砲の片側は地面につけたままにしてある。その後ろにエチュビッテを座らせて、砲塔を抱きかかえるようにして支える。

 そんな、迫撃砲のような使用法で、的機体を倒そうというわけだ。


「最初は榴弾でいいかな」


 砲の根本にある薬室を開き、そこに傍らに置いた弾薬ボックスから人型機械の頭ほどもある弾を拾って押し込み、蓋を閉める。

 迎撃の準備万端整えて待っていると、夕日がどんどんと地平線の下へと沈んでいく。

 そして日が残照のみの存在と化したとき、『砂モグラ団』から通信が。


『動き出しましたぜ。これからは、三組に分かれた俺たちからの通信に、気をつけてくだせえよ』

「分かったよ。他の『砂モグラ団』の人たちも、観測準備はできてる?」

『『もちろんだ』』

「それじゃあ、敵機体の様子の報告を、どうぞ」


 キシが水を向けると、三組に分かれて監視中の『砂モグラ団』からの報告が、矢継ぎ早にやってきた。


『先頭、高速機が一機、突出』『高速機、一機のみ。他、中速度帯と遠距離砲撃機』『高速機、速い。速度計さんの目印を、いま通過』『中速度帯の五機。前へ進みながら合流』『遠距離砲撃機四つ。広く分かれている』『高速機、この速度だと砲撃予定地点までもうすぐ』


 時折報告が重なったりして聞き取りにくい通信だが、キシは高速機の報告のみに集中して耳を傾けつつ、長距離砲の狙いをつけていく。


『速度算出。砲撃予定地、場所そのまま、通過十秒前』


 待っていた報告が聞こえ、キシは地平線の向こうに姿が見えない高速機へ向かって、長距離砲の引き金を引いた。

 六尺玉の花火が炸裂したような音とともに、エチュビッテを後ろへ弾こうとする衝撃が発生する。衝撃を抑え込もうと機体を操れば、各部からギリギリと軋む音がやってくる。

 そうして発破光と共に打ち出された炸裂榴弾は、放物線を描いて、予定地点へと飛んでいく。


『高速機、場所到達まで、五、四、三――榴弾着弾。高速機の前に火柱、突っ込んで、転んだ!』


 報告の直後、エチュビッテの全周モニターに空中に上がった砂煙が映る。

 その砂塵の中から外へと、人型機械の手足らしきものが吹っ飛んでいった。


『高速機、大破。運搬機に引き上げていく』

「中速度帯の機体の動向は?」

『高速機が逃げ帰っているのを見ている』『困惑している模様』『移動速度低下中、まだ集まっている』

「じゃあ、まだ榴弾の出番は続くな――位置報告」

『先ほどの着弾地点と、運搬機の真ん中あたり』『最大射程、ギリギリ入っている』『いまだに集合して移動中』

「一度撃ってみるから、観測報告よろしく」


 言うやいなや、再び炸裂榴弾を薬室に押し入れ、長距離砲をぶっ放した。

 着弾報告が入ったらすぐ打てるように、排莢と給弾を行う。

 十二秒後、着弾による噴煙が地平線から上がり、少しして小さくなった爆発音がエチュビッテに届いてきた。

 それからすぐに、『砂モグラ団』の報告が入る。


『惜しい、外れた』『着弾は、人型機械の身長二つ分、左に逸れた』『爆炎に驚いて、徐々に散開中』

「了解。次弾から連続して撃つよ」


 発砲、排莢、装填。ほんの少し狙いをずらし、再発砲、再排莢、再装填。再び狙いをずらし、同じ工程を繰り返す。


『着弾次々。敵機、散開広がる』『一機の足元に着弾。片足が吹っ飛んだぜ』『数機、空に向かって発砲しながら移動。榴弾を撃ち落とすつもりらしい』『散開、さらに広がり、左右への蛇行が始まった』『至近弾。惜しい、成果なし』『片足の機体、撤退する模様だ』『散開した連中の真ん中に着弾。被害与えられてない』

「用意した榴弾、これで撃ち切りだ。次弾から徹甲弾。狙いを遠距離砲撃機に変更するから、観測相手も変更、お願い」

『了解。車で移動する』『了解。現地点でも、一機見える。ここに留まって観測する』『生き残った中速度帯四機、監視外して大丈夫か?』

「再び集結する気はないでしょ。集まれば榴弾の餌食って、教えてあげたからね。それに、近づいてきたら音でわかるから、対処はできるよ」

『了解、移動する。しばし待ってくれ』

『中速度帯の一機から大声が――『――砲撃援護はどうしたよ! さっさとしろ!』――聞こえたか?』

「聞こえた。遠距離砲撃機の様子はどう?」

『こちらから見える一機、停止。キシが言っていた、戦車型だ。砲塔が回転、砲身が上がっていっている』

「見えない場所からの初撃が入る確率は低いから、攻撃は気にしなくていい。場所と距離を教えて」

『えーっと、目印『括れ岩』から、人型機械の身長で四機分ほど左。一機分、奥に』

「了解。徹甲弾、撃ってみる」


 キシはエチュビッテに抱えさせている長距離砲の向きを変えさせ、徹甲弾を装弾し、細かい狙いの調整を経てから、射撃した。

 炸裂榴弾と同じ規模の発砲音が上がり、プログラムが全周モニターに弾の軌道を光の軌跡として映し出す。

 その光の粒が地平線の向こうへ消えた後で、『砂モグラ団』からの報告が入った。


『着弾地点。目標から、人型機械の身長、二機分、右に。前後の調整はバッチリだ』

「了解。次弾撃つよ」


 報告を元に狙いを修正し、発砲。再び光の粒が地平線に消え、報告がやってくる。


『大当たりだ! 左の履帯が吹っ飛んでるぜ、タリーーホーーーー!』

「奇声はいいから。上がっていたっていう砲身は、どうなっている?」

『まだ上がったままだ。あっ、砲塔が少し動いて、そっちに狙いをつけている』

「じゃあ、もう一発だ」


 長距離砲を再発砲――十数秒後、再び報告が入る。


『今度は砲塔が吹っ飛んで、大爆発を起こしてる。あぶねぇ、装甲板が飛んできた』

「撃破報告ありがとう。中速度帯はどうしているか、見えているなら報告よろしく」

『あーっと、外部音声で言い合いしているな。左右の蛇行を止めて突っ込むか、蛇行したまま安全に近づくかで揉めている』

「わかった。他の三機の遠距離砲撃機の様子は?」

『行動を共にしていた二機。キシが一機撃ちぬいた瞬間に、行動が変化した。片方はキシに近づき、もう一方はニセモノカーゴへ、大回りで向かっている』

『こっちが監視中の一機。ある一定の区域を、うろうろと移動している。狙いが読めない』

「それは、中速度帯の機体がエチュビッテを視認した後で、観測射撃をする気だろうね。離れているのに連携が取れているのを見ると、全機体の間とはいわないものの、数機の間に通信が確立しているんだろうな。遠距離砲撃機同士は確実に行っているようだね」


 キシは考えながら、中速度帯の機体が集まっている場所を予想して、牽制砲撃。

 その後で、長距離砲を地面へ放り捨て、徹甲弾を一発拾い上げる。


「行動を共にしていたっていう二機を、近接で倒しにいく。中速度帯の機体たちと、それと連携しようとしている遠距離砲撃機の様子の報告をよろしく」

『『了解』』

『分かれた二機のうち、オレらはどちらを監視すりゃいい?』

「こちらに向かっているっていう遠距離砲撃機は、どのあたりに居る?」

『いま、目印『蛇目丘』を越えたあたり。さらにそっちに接近中』

「場所がわかったし、カーゴに向かっている方の監視をお願い」


 キシは徹甲弾をエチュビッテに抱え持たせると、フットベダルを底まで踏み込んだ。

 背部にある二基の大型バーニアが唸りを上げて炎を吐きだし、後ろ腰にあるサブバーニアも煌々とした光をまき散らす。

 それらから得た推進力で、エチュビッテは地上を滑空して高速移動を開始した。




 高速移動から一分と経たずに、『砂モグラ団』からの報告にあった、キシを狙っている遠距離砲撃機が見えてきた。

 そこで、通信に混線が起こった。


『なっ――遠く――砲撃中――』


 途切れ途切れでの驚きの声は、見えつつある遠距離砲撃機からのものだと予想がついた。


「連中の通信波は、砂モグラ団との通信に割り振った通信帯と近いのか。こいつを撃破したら、注意を呼び掛けておこうっと」


 キシはエチュビッテを前へ前へと飛ばしながら、徹甲弾の砲弾を左脇に抱えなおさせ、右手でナイフを引き抜かせた。


『やって――ちくしょう!』


 腹を決めた声が遠距離砲撃機――人型機械の両肩から一門ずつ戦車のようなライフル砲が伸びていて、腰から下が戦車の機体――からの通信に乗ってやってきた。

 キシは構わずエチュビッテを前進させ、遠距離砲撃機は両肩の二門を細かく動かして狙いを絞る。

 距離が縮まり、アサルトライフルでも射撃が可能な距離になる。

 そこで両者とも、同時に動きに変化を起こした。

 キシはエチュビッテのサブバーニアを噴射向きを変えることで、わずかに横へと移動する。

 その移動が始まった直後に、遠距離砲撃機の砲身が火を噴いた。


『食ら――がれ!』


 緊張に引きつった声を発した相手のパイロット。

 その願いむなしく、砲撃はエチュビッテの横を通り過ぎ、少し遠くの後方の地面に着弾した。

 エチュビッテは回避運動をした直後に、再度突撃を駆け、両者の距離は銃から刃物の距離に変わろうとしている。


「さあ、次弾装填して、狙って撃つ時間はないぞ?」

『くそ――れが!』


 補助武器らしき、ウージーに似た形のサブマシンガンを取り出して撃ち始めるが、その射線上にエチュビッテはいない。

 幻影舞踏ミラージュダンスを使用し、素早く相手の視界の横へと回ったのだ。

 そのことに対戦相手が気付いた時には、エチュビッテは手が触れられる距離まで接近し終えていた。


「狙いはよかったけど、これは残念賞だ」


 キシは遠距離砲撃機の無限軌道の部位と腰を繋ぐ部分に、徹甲弾の先端を押し当てる。そして押さえていた手を離しながら、薬莢の後ろにある雷管を、ナイフの先端で思いっきり叩いた。

 至近距離での、長距離砲用の徹甲弾が炸裂した。

 砲身のない爆発にもかかわらず、薬莢は弾丸を前へと送り出し、放たれた弾は遠距離砲撃機の腰のつなぎ目を破壊して、上下に機体を分けた。


『俺の地点――にいる――撃て――』


 この混信を最後に、腰から下が戦車だった遠距離砲撃機は沈黙した。

 しかし、キシに撃破を感じ居る暇はない。ニセモノカーゴを狙う長距離砲撃機へ向かわなければならないからだ。

 撃破した機体からウージー似のサブマシンガンを拾って移動開始。

 直後、背後に砲撃が落ちてきた。


「この砲撃は、どの遠距離砲撃機から?」

『ニセモノカーゴに向かっている機体からだ。奴っこさん、横に走りながら射撃しているぜ』

「横走りでの遠距離砲撃ってことは、その機体、地面からやや浮いているでしょ?」

『その通りだ。良く分かったな』

「移動しながらの安定した遠距離砲撃は、地形のデコボコをある程度無視できる、ホバー型の特徴だからね」


 そういいながらも、キシは相手の機体が予測できたことで、口に笑みを浮かべる。

 ホバー型の遠距離砲撃機はの移動は、かなり安定したものではある。しかし大きな地形の変化に弱い部分もあるのだ。

 例えば、砂丘を上ろうとする際、浮遊に使う力場の出力で斜面を上らなければならない。下手にバーニアを噴かして前に進もうとすると、浮遊力が登攀の角度を賄えずに、砂に突っ込んでしまうからだ。

 逆に、坂を下ろうとするときにも注意が必要だ。急いで下りようとすると、速度がつきすぎてしまう。結果として、機体制御の限界以上の速度が出て、制御不能に陥る可能性があるのだ。

 そんな事情があるため、ホバー型の遠距離砲撃機は地形の変化に乏しいラインを選んで行動する傾向が強い。

 キシが居住用トラックを運転していたとき、あまり車体を揺らさないよう道を選んでいたときのようにだ。


「ということは――このラインだな」


 キシは、念のために持たされた端末――そこに映る『知恵の月』謹製の詳細な休憩所周辺の地図を見て、エチュビッテを飛ばす方向を変える。

 大型バーニアを休憩させながら飛び続けること、二分と少し。

 鋼鉄のパニエを腰につけた人型――というより、炬燵こたつの上に上半身を乗せたような形の機体が見えてきた。


「下半身部分は、既存機では似た形を見たことがないから、改造してあるな。作りの甘さから、外観だけお手製で変更したのかな?」


 微笑ましさと、自分には才能がない改造という特技への羨ましさを、キシは感じた。

 そして、鹵獲するのは可哀そうという気持ちが生まれた。

 そのため、砂丘の陰に隠れながら接近し、大型バーニアを噴射させて肉薄した直後に、相手の機体の頭にナイフを突き入れて破壊した。

 プログラムに従い、炬燵機体が自分のカーゴに戻っていく姿を見送り、キシは『砂モグラ団』に通信を入れる。


「二機の遠距離砲撃機の排除は終わった。中速度帯の四機と、それと連携している様子の遠距離砲撃機一機の様子はどう?」

『いま、キシが長距離砲を捨てた位置に到達したよ。警戒しながら左右に蛇行して接近したのに、キシが居ないから怒って、砲に銃弾を叩き込んでいる――くあ、銃弾に当たった弾薬箱が大爆発した』


 通信に乗った爆発音の直後、少し遠くに煙が上がる様子が全周モニターに映った。


「被害は出た?」

『こっちは離れているから、耳が痛いのを抜かせば、無傷だ。敵機体は、銃撃していた馬鹿だけ吹っ飛んだ。その他の機体は、破片による軽傷が精々だな』

「了解。これから中速度帯の撃退に向かう。生き残りの遠距離砲撃機の様子も、報告よろしく」

『まだウロウロしているぜ。たぶん、キシが他の敵機体と交戦を始め後で、援護射撃するんじゃねえか』

「混戦へ砲撃って、友軍誤射フレンドリーファイアが怖いから、遠距離砲撃機がやっちゃいけない手段なんだけどなぁ」


 初心者だしとキシは納得しつつ、中速度帯の速度を計算に入れて交戦予定地点を割り出し、そこへ向けてエチュビッテを走らせたのだった。


前日、予約投稿を間違えまして、予定外に二話更新になって、もうしわけないです。


ああ、書き溜めがー、書き溜めがー……。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんな、迫撃砲のような使用法で、的機体を倒そうというわけだ。 的>敵
[気になる点] 誤字報告を誰もして居ないの? 四十二話の次が四十四話ですよ。
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