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四十一話 第二陣に向けて

 目覚めたクローンの女性と少女に対して、今の状況がキシから語られた。同じメタリック・マニューバーズのプレイヤーなので、その方が理解されやすいだろうと、周りが判断したからだ。


「なるほどねぇ。ここは本当の世界で、あの子たちもNPCじゃなくて、本物の異星人ってわけねぇ」

「それで、迫りくる人型機械から土地を守るために、皆は戦っているわけなんだー」


 地頭が良いらしく、一回の説明で二人はあっさりと理解してくれた。

 キシは説明が済んだことでホッとしつつ、あることで顔を引きつらせる。


「えーっと、『キャサリン』と『キャシー』」


 実に夜のお店の源氏名っぽい名前だが、成人女性の方がキャサリン、少女の方がキャシーと名乗ったため、キシはそう呼びかける。

 すると、満面の笑顔が返ってきた。


「はぁ~い。キャサリンよ」

「は~い。キャシーだよぅ~?」

「説明は終わったんだから、俺の腕を解放してくれないかな?」


 顔を引きつらせるキシの、右の腕をキャサリン、左の腕をキャシーが抱きかかえて捕えている。

 『この格好じゃなきゃ、説明聞いてあげない』と言われたため、やむなくそうさせていたためだ。

 しかしキャサリンもキャシーも、イヤイヤと首を横に振る。


「いいじゃないの~。女性二人に迫られるなんて、男冥利に尽きるでしょう?」

「少女に抱き着かれるなんて、滅多に経験できないことだよぉ~?」

「女性って言っても、元の世界では男性――」

「「ああーん? なんだって~?」」

「――いえ、なんでもありません」


 失言をキシが謝ると、キャサリンとキャシーは怖い顔から一転して、ニコニコ笑顔に戻った。


「ちょっと嫌がりながらも、振りほどこうとしないなんあたり、紳士ねぇ~」

「どうすればいいか困っちゃている顔、ああーん、かわいい~」


 ツンツンと左右から頬を突かれても、キシは困惑することしかできない。


「それで、話の続きなんだけどさ」

「会話の流れは分かっているわよぉ」

「ワタシたちに『知恵の月』に参加して欲しいんでしょ?」

「その通りだけど、どうかな?」


 キャサリンとキャシーは考えながら、『知恵の月』のメンバーを見やる。


「ロマンスグレーのオジさま二人と、キシちゃんのような可愛がり甲斐がありそうな男性が一人いるわ~。お相手するのが面白そうねぇ」

「他が年頃の女性っていうのも、女性の体になったワタシたちには利点ね。色々と体のことについて教えてもらえるしぃ」

「「うん。参加するわん」」


 参加決定に、キシは肩の荷が下りた心地を得た。

 なにせティシリアから、貴重な戦力になるんだから、必ず参加させるよう仕向けることと言われていたからだ。


「二人には人型機械に乗ってもらうことになるんだけど、それでいいかな?」

「そうよねぇ。ワタシたちって、その手の頑張りを期待されているわよねぇ~」

「マッサージは得意だけど、人型機械の運転は上手じゃないんだけど、良い~?」

訓練チュートリアルはクリアしたんでしょ。なら『知恵の月』で二番目と三番目に、操縦が上手いってことだから安心して」

「「一番うまいのは、キシってことよね。手取り、足取り、教えて欲しいわん」」


 二人とも片手でキシの太腿を撫で始めたので、キシはお触り禁止と叩き落とした。


「あんっ。女性には優しくするものよぉ~。でもキツイ態度も素敵よん」

「うぁん。少女を叩くなんてぇ、キシってサドなのね」

「勝手に人の性癖を付け加えないで欲しいんだけど……」


 キシは二人の対応に苦労する精神的疲労からゲッソリした気分になりながらも、二人が参加を表明した際に伝えるようにと、ティシリアからの伝言を思い出した。


「そうそう。人型機械を運転してもらうんだけど、今回の作戦の中で戦ってもらうつもりはないから」

「あら、そうなの。せっかく女性の体になったから、死んじゃうような事したくなかったから、嬉しいけれどぉ~」

「戦力は足りているのぉ? 手助けなくて、大丈夫ぅ?」

「二人とも初心者でしょ。多対戦闘なんてさせられないよ」


 第一陣に入っていたパイロットが元となっている二人だ。腕前は、キシが楽に倒した人たちと同程度。第二陣と戦わせたら、倒されてしまう公算の方が高い。

 それは、人的資源と人型機械の喪失を意味し、ひいては『知恵の月』の損害に繋がる。

 そんな打算ばかりのキシの発言だったが、キャサリンとキャシーはそう受け取らなかったようだった。


「まぁ! ワタシたちのことを案じてくれているのねん」

「男の子に優しくされるなんて経験、滅多にないから、キュンとしちゃった」

「「ねぇ。ちょっと物陰で、いいことしない?」」

「お断りする。そういうことは他でやってくれ」

「「もう、つれないんだからぁん」」


 キャサリンとキャシーは誘惑するように、体を擦りつけていく。

 キャサリンの膨らんだ胸と、キャシーの肉付きの薄い幼い肉体の感触が伝わってくるが、キシは冷静に腕を引きはがしにかかった。


「これで話は終わりだし、俺は用事があるから」

「あーん。もうちょっとぐらい、いいじゃないのぉ~」

「でも、そのつれない態度がぁ、心地よくなってきちゃった」


 狙われる視線を感じて、キシは『くわばらくわばら』と呟きながら、カーゴの中へと入っていった。




 カーゴの中では、三番ハンガーにあるファウンダー・エクスリッチが、四番ハンガーに積まれた武器を装着しているところだった。

 一番、二番のハンガーには、キシが鹵獲した人型機械のうち、操縦桿がついている機体かつ損傷がない機体の整備が行われていた。

 片方はキャサリンとキャシーの元となったパイロットが乗っていた機体。もう片方は、長距離砲を背中に背負った機体だ。

 どちらも、脳を読み取る機械を取り外し、座席を拭って洗浄するだけの作業なので、ヤシュリとタミルがそれぞれに分かれて作業している。


「二人とも。作業はどのぐらいで終わりそう?」

「もう済んでおるよ。この二機を操る予定の、複製体の二人は、参加してくれることになったのか?」

「説得して、入ってくれるってさ」

「そういうことなら、タミル」

「はーい。二機とも武装を外してから、外に出しておくねー」


 タミルは操縦席での作業を終えると、端末を取り出して、指で画面を操作した。

 すると、一番と二番ハンガーの作業用アームが動き出し、それぞれの機体から武器と弾薬を取り払う。その後で、タミルが順番に運転席に入って操縦して、二機を外へと出した。

 仮にキャサリンとキャシーがそれらの機体に乗って反抗を企てても、すぐに取り押さえられるようにという措置だ。

 そして開いた二つのハンガーに、タミルが操るハードイス・スケルトンが運んできた機体が入れられる。

 片方は、キシがバーニアと足を破壊した機体。もう片方は脳波コントロール式な方の遠距離砲撃機である。

 それらを見て、キシの横にやってきたヤシュリが、難しい顔をした。


「壊れた機体の方の操縦席と、大砲付きのその大砲を取り外すってことだが、本当にやるのか?」

「外した操縦席を脳波コントロール式に移植すれば、簡単に戦力化できる。それと、あの大砲は第二陣相手に活躍する予定だから」

「もしや、大砲を手持ち武器に改造して使う気か?」

「その通りだよ。取り外した大砲に、射撃できるように手持ちと引き金をつけるぐらいなら、改造メニューにあるから簡単にできるんだ」


 メタリック・マニューバーズ稼働当初は、銃器の色を変更することしかできなかった。しかし、可動年月を経るにしたがって、銃床の形の変更や付属部品の取り付け、増加弾倉への変更や銃身の延長などが簡単に出来るように変わっていった。そうした武装強化の簡便化が、さらなる集客に繋がり、そして銃器専門の改造屋が生まれたりした。

 その恩恵で大砲が改造でき、ファウンダー・エクスリッチに積む武装も弄れるというわけである。


「操縦席の取り外しはヤシュリとタミルに任せるしかないけど、大砲の改造はハンガーのアームに任せればできるから、任せておいて」


 キシはヤシュリから端末を借りて、さっそく改造メニューを呼び出して、遠距離砲撃機の大砲を外して改造する指示を与えた。

 すぐに作業は開始され、四番ハンガーに転がる銃器の中にある適当なものから、銃床と引き金が移植されていく。

 ヤシュリは、タミルがハードイス・スケルトンから降りて戻ってくるのを待つ間、その改造の方法を眺めていた。


「弾倉はなしの、単発式か」

「改造が一番簡単なのと、弾薬の使い分けが簡単にできるからだよ」

「ほう。弾薬に種類があるのか?」

「今回鹵獲した遠距離砲撃機が持っていたのは、炸裂榴弾と徹甲弾だった。拠点攻撃に使う典型だね」

「榴弾で周囲を粗方吹っ飛ばし、それで壊れなかったものを徹甲弾で、というわけじゃな」

「初心者だと、移動する機体に弾を当てられないからね。本当に拠点攻撃用として限定しちゃっているわけ」

「その口ぶりだと、キシなら当てられると聞こえるんじゃがな」

「当てられるさ。特に初心者なんて、鴨撃ちもいいところ」


 遠距離砲撃で決着をつけると言いたげな口調に、ヤシュリは驚きで目を丸くした。


「第二陣は鹵獲せんのか?」

「第一陣で多くの種類の武器が手に入ったし、しなくてもいいかなってね。それに、このカーゴに乗せられる乗って最大で四機までだから、あれ以上機体があっても邪魔でしょ?」


 四つあるハンガーのうち、一つは第三陣用のファウンダー・エクスリッチが埋めていて、これは動かせない。

 もう一つは積んだ武器で埋まっているが、こちらは武器の付け替えが終われば整頓できるので、空けることは可能である。

 そうなると、新たに収めて置ける機体は三つ。

 対して、損傷がない機体とキャサリンとキャシーに与えたものを除外しても、四機鹵獲した機体がある。

 その四機は、どれもが脳波コントロール式で操縦桿式にする必要があり、入れ替え作業中はハンガーに入れておかなければいけない。

 つまり、空き三つに機体四つで、一つが余分だ。

 いまハンガーにいる大砲を取り外した機体を、戦力外として放り出すのなら、ようやく数が収まる形にできる。

 なんにせよ、これ以上鹵獲したとしても、『知恵の月』だけで運用することは難しい状況であった。


「『砂モグラ団』に渡すにしても、操縦桿式なら鹵獲してもいいけど、脳波コントロール式だと余計な作業が増えて面倒でしょ?」

「それでもじゃ。資金集めのためにも、まだいくつか欲しいところじゃな」

「そういうことなら、初心者でも扱いやすいよう、高速機以外の鹵獲を狙ってみるよ。でも撃破優先だからねね。第三陣のために、少しでも長く休憩しておきたいし」


 第一陣では八面六臂の活躍を見せたキシが、やたらと第三陣に警戒感を示す。

 そのことが、ヤシュリにとっては不思議に映った。


「そんなに用心するほど、大変な相手になるのか?」

「仮に地区大会を優勝できるぐらいの腕前の人が、『サブアカ』で最新のいい機体に乗ってきたら、間違いなく負けるね。それぐらい、扱う機体の性能に差があるから」

「それでも大丈夫なんじゃろ?」


 心配そうなヤシュリに、キシは苦笑いと小声を返す。


「今回の作戦は、こちらが負けるようにできているんだから、勝っちゃったらまずいでしょ」

「そうなんじゃが、キシが死んでは意味がないぞ。お嬢だって悲しむ」

「その点は心配いらないよ。ファウンダー・エクスリッチは継戦能力に優れた機体だし、俺の操縦の腕は世界一だったんだから。ボロボロになっても、生きて帰ってこれると約束するよ」

「反故にするんじゃないぞ」

「俺だって、死にたくはないしね」


 自分が複製であるという意識が強いキシだが、命を粗末に扱う気はなかった。

 元の世界の『比野』から人格と知識を借り受けたが、この世界で暮らした経験は『キシ』だけの物だ。

 それを失う気はなかった。

 少なくとも、何らかの方法で『比野』へと経験を送り付けるまでは。


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