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三十九話 第一陣

 作戦当日の昼。

 エチュビッテのコックピットに座るキシの元に、偵察に出ていた『砂モグラ団』から通信が入った。


『ようやく、運搬機が西側に集まってきているぜ。距離は大体一万歩だ。どちらも、キシの予想通りだな』


 およそ十キロメートル先だと知り、キシはエチュビッテの操縦桿を握り、フットベダルに足を乗せ、通信チャンネルをさらに二つ開ける。

 通信先は、離れた場所で砂を被せて砂丘に偽装するカーゴ内と、ニセモノカーゴの前に立つハードイス。カーゴ内は素材にした方のエチュビッテ、そのコックピットにあった通信機を流用したものだ。


「了解。こちらは移動を開始する。全員、なにか俺に言っておきたいことあるか?」

『カーゴ内、問題なし。第三陣の本番に備えて、この中に入ってもらった勇士のみんなも、キシの邪魔をしちゃ悪いって大人しく従ってくれているわ。人型機械、大漁を期待しているわ』


 ティシリアの明るい声に、戦闘前とは思えないと、キシは思わず苦笑い。

 続いて、ハードイスからタミルの声が通信で入ってきた。


『かなり機体の外見がスカスカなんだけどー、本当に大丈夫かな?』


 タミルの疑念は当然で、ファウンダーを改造するにあたって、ハードイスは大部分の装甲を引っぺがされ、脚にあった無限軌道キャタピラも取り外されていた。

 いまのハードイスは、腕周りと足回りに頭のフレームが見えてしまっている状態である。胴体部分も脇腹のあたりの装甲が外されていて、中々に風通しがよさそうである。

 しかし、キシは心配していない。


「ファウンダー・エクスリッチを作った余りだけど、その機体は『ハードイス・スケルトン』。装甲を取っ払ったことで、四肢の動きはなめらかになっているし、背部バーニアでの短距離移動も可能。腕力に余剰ができたから、連射武器の跳ね上がりも抑制できる。定点での迎撃に限ってなら、初心者に一番扱いやすい機体だよ」

『へー。あー、なるほどー。回転式機関ガトリング砲の取り回しがよくなっているや。構えも、ガシッと決まっているよ』

「銃弾をばら撒いて、抜けてきた敵を寄せ付けないようにする役目に最適だろ?」

『よく分かったよー。けど、キシに言われた通り、あんまり被弾するようなら逃げるからー』

「第一陣が相手なら、俺が抜けさせたりはしないから、楽に構えてていい。タミルがそこにいるのは、万が一のための用心なだけだし」

『じゃあ、のんびりとさせてもらうね。暇でも、昼寝したりはしないから、そこはまかせててー』

「了解。それじゃあ、こちらは相手のカーゴと休憩所の中間地点まで移動するよ」


 キシは通信を繋げっぱなしにしたままで、エチュビッテを前へと進ませる。

 これからの戦闘で大型バーニアを酷使する予定なので、サブバーニアだけでの移動を心掛ける。

 そうしてあと少しで中間地点という段になったところで、再び『砂モグラ団』から通信がやってきた。


『運搬機の側面が開いて、人型機械どもが出てきやがった。数――十機すべている。脱落はねえ』

「時間に遅れたり、予定が合わずに参加できない人は出なかったか。もしかして、向こうの世界は日曜日なのかな。まあいいや、状況報告ありがとう。欲を出して、機体が出ていったあとの運搬機に向かわないようにね。銃座で穴だらけにされるから」

『わかってるって。前にそれをやった馬鹿が、車やハンディーぶっ壊されて、傭兵稼業が立ち行かなくなったのを知っているからな。念のためってことで、うちらの砂丘に行くことにする』


 これで『砂モグラ団』の役目はひとまず終了。キシはスイッチで彼らとの通信を切る。

 その後でエチュビッテの視界を西の先に向けなおすと、巻き上がった砂塵が見えてきた。

 地平線の向こうから、人型機械がやってきているのだ。

 砂煙の濃淡を見つめて、キシは顎に手を当てる。


「この土地の砂と岩石の具合で、あの砂の巻き上がり方だと、高速機三機、通常移動速度機が五機。あとの遅い二機は、長距離砲仕様か重防御仕様ってところかな」

『へぇー。キシぐらいになると、砂塵の色で相手の機体の種類まで分かっちゃうのね』


 ティシリアによるカーゴからの通信に、キシは通信を開いたままだったことを思い出した。

 そして独り言を拾われてしまっていたことに、若干赤面する。


「ま、まあ、防衛戦で戦うときに、砂塵をよく見るからね。長くメタリック・マニューバーズをやっている人なら、これぐらいは出来て当然の技量だよ」

『それはいい情報よ。あとで、教えてもらってもいいかしら?』

「土地によっても違うし、かなり感覚的なもので精度も怪しいから、教えることは難しいんだけどなぁ」


 とりあえず了解と返して、キシはエチュビッテを若干下がらせる。

 もうすでに、先頭の高速機が地平線の先に頭を覗かせていたため、うっかり素通りさせないよう距離を取ったのだ。


「これから交戦に入る。独り言を呟くかもしれないけど、反応を返すことが難しくなるから、返答がなくても気にしないように」

『わかったわ。やっちゃって、キシ!』

「了解。交戦――始め!」


 キシはエチュビッテの大型バーニアを点火させると、前へ前へと突っ込んできた最初の敵機体へと跳びかかったのだった。




 キシが乗るエチュビッテの強襲。

 敵機体――細く寸詰まりの胴体を持ち、手と足の装甲がなく、背中に塔のような高速用バーニアを付けている――は、ギョッとして身を縮こまらせた。


『赤丸のエンブレムの日本代表が、どうしてここに!?』


 理由がわからないと外部音声の声色で語る相手に、キシはコックピットの中で小首を傾げる。


「どうして外部音声をつけているんだ? ああ、そういえば。初心者は通信設定とかが難しいからって、外部音声で意見をやり取りすることが、攻略掲示板で推奨されていたっけ」


 理由に納得したキシは、エチュビッテにナイフを抜かせる。

 そして、相手の機体の頭に刃先を付けた。


「『チェック』」

『ひっ!? や、やめ!』


 キシが何をしようとしているのか気付いて、敵機体が慌てて避けようとする。

 しかし、上手く機体が操れないらしく、エチュビッテの攻撃範囲から逃げきることができなかった。


「『メイト』――っと。反応からすると、脳波コントロール式の機体だけど。『チェック・メイト』がどう左右するか見るためだから良しとするか」

『止めて! ようやく、この機体に慣れて――』


 言葉の途中で、敵機体の四肢に力がなくなり、塔のように大きなバーニアの噴射も止まり、ヘッドスライディングするように着地した。

 数秒経ち、やおら機体が起き上がり、どこかへと飛び去ろうとする。

 鹵獲した機体が飛ぼうとしている方向を見て、キシは通信でティシリアに指示を出す。


「運搬機の通信設備を止めてみて」

『分かったわ――キシが、通信設備を止めろってー!』


 鹵獲した機体が跳び上がり、そしてどこかへ向かおうとし、しかし道を見失ったかのように再び地面に倒れ込んだ。


「どうやら、電源が入った状態の通信設備を目指して、『チェック・メイト』で鹵獲した機体は飛ぶみたいだ」

『それじゃあ、こっちはどうしたらいいの?』

「念のため、第一陣は通信設備を止めたままにしよう。第二陣では運搬用トラックに乗せ換える。それでニセモノ運搬機の近くに止めておけば、あの地点に鹵獲機体を向かわせられて、砂に隠れていることはバレずに済むはずだ」

『わかったわ。とりあえず、今回は止めたままにするし、第二陣のときは別地点で偽装することにするわ』

「助かる。おっと、次が来た」


 キシはエチュビッテの大型バーニアの状態を、サブモニターで確認する。

 先ほどの機体を倒すために少し使ったが、通信でのやり取りの間に充填は満タンに戻っていた。

 キシは頷くと、サブバーニアだけを使って、エチュビッテを鹵獲したばかりの機体に近づける。そしてその背中にある射撃武器を奪い取った。


「ボックスマガジンかつ短銃身の自動式ショットガン。近距離で全散弾が当たったときの威力と、中距離だとバラ撒かれる散弾で命中が狙える、典型的な初心者用の武器だな」


 ついでに予備弾倉も奪い、エチュビッテの横の腰の部分にある収納部マウントに収めた。

 そして、近づいてきつつある高速機――初心者が操るため最高速度が出ていない機体が二機くる。


「さて、次に倒すのは――お前だ!」


 キシは次の狙いを定め、エチュビッテの大型バーニアを噴かせ、エチュビッテに似た造形ながら小さめの背部バーニアを八基搭載した機体に襲い掛かる。

 今度の相手は、機体が身をすくませることはなかったが、バーニアを噴射させる割合を間違えて横へ急回転を始めた。


『なんで敵機が!? ミッションの情報にそんなこと書かれて――あばばばば』


 姿勢制御の処理限界以上の速度で回ったことで、コントロール不能に陥っている。

 その様子を見て、キシは相手をするのをすぐやめ、狙いをもう片方の高速機へと変えて、飛び近づいていく。

 両肩と腰の後ろに一つずつ大型のバーニアを付けたその機体が、エチュビッテがもう一機を倒す隙に、横を高速で通り過ぎようと画策していたからだ。


『くそっ。囮にすらならなかった!』


 前へと飛びながらも、敵機体は手に持っている短機関銃を、大急ぎで向けようとする。

 だが、それより先に、エチュビッテが握る散弾銃の銃口が、頭部に突きつけられていた。

 暗い金属の穴を間近に見て、敵機体は息を飲んだように肩を少し上げる。


「お前も脳波コントロール式かよ――『チェック』」

『うわああああああああああ!』


 敵機体は悲鳴を上げながら、右へ左へと銃口をさ迷わせながら、短機関銃の銃弾をばら撒く。

 しかし、銃口がなぞる先に、エチュビッテはいない。

 弾丸が発射される直前、上へとサブバーニアを噴かすことで跳躍していたからだ。

 足の下を通り過ぎる弾丸をみやりながら、キシはエチュビッテに足を振り上げさせ、敵機体の右肩を前から後ろへと蹴った。


『うぐああ!?』


 悲鳴と共に蹴り押された機体が仰け反ったため、咄嗟に崩れたバランスを戻そうとする。

 そのとき、機体の姿勢制御プログラムと衝突が起こった。パイロットが前へと姿勢を戻そうとする動きと同時に、プログラム自体も機体の上体を前へ戻そうとしたのだ。

 結果、前へ体勢を戻し過ぎて、飛び込み前転をするような形で、敵機体は地面の上を転がった。いまだにバーニアは点いたままなので、その前転は連続して起こる。


『おおおわわわわわ! バーニアカット、カット!』


 口頭によるバーニアの噴射停止命令。しかしその命令を外部音声をつけたままで行ったため、キシに知られて利用されることになる。

 バーニアが停止して前転がようやく終わった機体を、エチュビッテが高速で近づいて踏みつけて止める。そして散弾銃の銃口を、コックピット部に押し当てた。


「『メイト』――それでその機体も俺の物だ」

『くそお。そのエンブレムの形、覚えたから――えっ、日本代表?』


 間抜けな声を残して、背中に三基バーニアがある機体が停止した。

 キシは放置していたもう一機の様子を見ようと、エチュビッテに顔を向けさせる。

 八基のバーニアを持つその機体は、少し離れた場所で地面に倒れ込んでいた。

 これなら鹵獲も簡単そうだと、キシはエチュビッテを進ませようとして、寸前のところで違和感に気付いた。


「あれっ?」


 敵機体の周辺地面に、複数の弾痕が刻まれていたのだ。

 その痕は、点線のように砂と岩の地面を走り、そして倒れている敵機の背中へと続いていた。


「まさか、さっきの乱射に当たったのか! その機体は操縦桿式だから、脳の読み取り装置を外すだけで『砂モグラ団』に使わせられるのに!!」


 念のためにエチュビッテを高速で退避させながらの、キシの悲痛な叫び。

 それに反応したかのように、敵機体の八基あるバーニアの数基から火花と発光が起こり、そして大爆発した。

 どうやら、当たり所が悪すぎて、バーニアどころかリアクターにまで銃弾が達していたようだ。


「……装甲が弱い高速機だから、こういうこともあるよな」


 キシは、折角の獲物が一つ減ったことに肩を落としつつ、まだ七機もあると楽観的に考えを改めた。

 しかし、ここで上がった爆煙は、襲い来る連中に変化をもたらした。

 仲間の機体を破壊するような奴が、この先にいると知って、五機の中速度帯の機体たちが左右に三:二に分かれての迂回軌道を取り始めたのだ。

 どう対処するべきか、キシは操縦桿を指の腹で軽く突いて考えを纏め、ハードイス・スケルトンへ通信を送る。


「タミル。エチュビッテが立っている位置がわかるか」

『小さくだけど、見えているよー。それがどうかした?』

「それなら、機関砲を水平に構えて、エチュビッテを照準してくれ」

『えっ、どういうこと!?』


 驚きに満ち満ちた口調に、キシは違うと否定を入れる。


「照準するだけで撃つなよ。そこからさらに指示があるから」

『う、うん――いま、エチュビッテを狙っているよ。それで?』

「そこから水平を維持したまま、左四十五度に角度をつけてくれ。その後、三秒間連射して欲しい」

『わかったよ。ちょちょっと狙いをズラして――撃つよ!』


 後方にいるハードイス・スケルトンが持つ回転式機関砲から、連続して弾丸が発射される。

 戦闘補助プログラムにより、発射された多数の銃弾が連続した線ような密度で飛ぶ姿が、まるで曳光弾を放っているかのように、キシが見るコックピットの全周モニターに映った。

 弾丸を発射しているタミルには、地平線の影響で見えないが、回り込もうとしていた左の一団が不意の銃撃に慌てて、エチュビッテが立つ方へ回頭を始める。


「邪魔は一機だけかと思いきや、さらに一機いたら、そう判断するよ。なにせそのまま進めば、回転式機関砲の銃撃にさらされる上に、俺が横から突っ込んでくるもんな。それなら、地平線が邪魔をして機関砲が直接照準できないうちに、高速機で装甲が薄いエチュビッテを倒した方が、勝率はいいもんな」


 相手の思考を独り言で解説しながら、キシはエチュビッテを左の集団ではなく、未だ迂回しようとしている右の集団へと向けた。

 そうすることで、左の集団に更なる選択を迫ったのだ。

 キシを追いかけて右の集団と協調するか、無視してカーゴに突っ込んでいくかを。

 一方で、キシの方はやるべきことは一つだけ。右の集団の二機を、速やかに殲滅ないしは鹵獲することだ。


「っていっても、警戒されているよな、やっぱり」


 キシが呟いた通りに、二機の敵機体から射撃が飛んでくる。

 三点バースト。発砲音から、アサルトライフル系統の武器。

 射程、威力、扱いやすさを全て程々にまとめてあるため、中速度帯の機体に持たせるには人気の銃器群だ。


「そして中速度帯の機体は、高速機より所持可能重量が多めだから、手投げ弾とか副武器とかも仕込んであるから、接近すること自体が難しいんだよなぁ」


 自分の認識を改めて言葉に出すことで再確定して、キシはペダルを踏み込んでエチュビッテの大型バーニアを大きく噴かせた。

 真っ直ぐ高速で突っ込んでくるエチュビッテに、二機の敵機体は一度射撃を止めると、冷静にアサルトライフルの照準を合わせていく。

 高速で移動するといっても、直線的に近づいてくる相手なら、初心者でも狙うことは簡単だ。

 そんなこと、熟練者であるキシは重々承知していた。


「さて。上級者への登竜門と言われた『幻影舞踏ミラージュダンス』を見せてあげよう。初心者の君らに対処できるかな?」


 キシは口の端を吊り上げると、相手が射撃してくると予感した瞬間、操縦桿とペダル操作で自分の機体の挙動を振り回し始める。

 エチュビッテが回転しながら踊るように地面の上を滑ると、二機の敵から飛んできた十字射撃が一秒前にいた空間を通り過ぎた。

 キシは機体の回転を維持したまま、どんどんと敵機体たちに近寄ってくる。

 二機の敵は銃撃を続けるが、右へ左へ時には上にと無軌道に方向を変えるエチュビッテ相手だと、偏差射撃が上手くいかなずに当てられない。

 そうこうしているうちに、両者は高速機ならひとっ飛びに襲い掛かれる距離になっていた。

 それはキシだけでなく、敵機体のパイロットたちも同じだ。


『狙って当てられないなら、ばら撒いてやる!』

『くるくると回りやがって、動きがキメエんだよ!』


 三点バーストから、フルオートに銃器の設定を変え、エチュビッテに連射する。

 しかしキシは慌てずに、サブバーニアをひと噴きさせて、機体を上へ上昇させた。

 空中を飛ぶエチュビッテを狙おうと、二機の敵機はそれぞれ行動する。

 片方は顔を上げてから、銃器を持つ手を上げようとしている。もう片方は機体の上半身を逸らせた上で、両腕で射撃の細かな調整を加えようとしている。

 その行動差は、脳波コントロール式と操縦桿式の違いだ。

 キシはどちらがどちらの操縦方式かを見抜き、顔を上げた方の機体の顔へ散弾銃の銃口を向け、発砲した。

 まだ少し距離があるため、散弾は空中で広がり、雨粒のように降り注ぐ。


『くそ、目つぶしか!?』


 狙われた機体は、顔を背ける。

 眼という感覚素子を守るための行動で、セオリー通りの行動ではある。しかし、顔を思いっきり横に向けてしまうのは、脳波コントロール式で咄嗟行動における顕著な失態の一つだ。

 なにせ戦闘中に相手から目を逸らすということは、相手の攻撃を防げないのも同然なのだから。


「よっと!」


 キシは散弾を撃ちながらより接近し、排莢中の散弾銃の銃口を、その視線を逸らしている頭に押し付けた。


「『チェック』――」


 言いながら、今度は散弾銃を握っていない手でナイフを抜き、相手のコックピットに押し当てる。


「――『メイト』。よし、次!」

『うえぇ!? そんなバカなこと――』


 力を失って膝から倒れる機体を尻目に、キシはもう一機へとエチュビッテをサブバーニアで移動させる。

 敵機体は何をしているかというと、撃ち終わった銃器の弾倉を呑気に取り換えている最中だった。


『くそ。早く終われ、終われ!』

「操縦桿式にある自動リロードだけど。危険と判断したら、中断命令を出して他の武器で戦えばいいんだぞ。高速機相手にこの距離じゃ、どのみち対処が難しいだろうけど」


 キシは言いながら、散弾銃の銃口を相手のコックピット部に押し当てようとする。

 そこで、敵機体は意外な行動をとった。


『この機体を、奪われてたまるか!』


 せっかく弾倉を取り換えたばかりの銃器を手放し、腹痛をこらえているかのように、腹部を両手で抱えるとうずくまってしまった。

 キシが何の真似かと訝しんでいると、勝ち誇ったような外部音声がやってくる。


『調べたから知っているぞ。腕でコックピットを覆えば、『チェック・メイト』はかけられないって!』


 それは事実で、相手がやっている体勢は、ちゃんとした予防法といえた。


「普通ならこの体勢に入った相手を見たら、鹵獲を諦めて、相手の頭を吹っ飛ばして決着させるからなぁ」


 それがゲームなら、当然の作法だった。

 しかし、いまのキシにとっては、敵機体そのものや所有する武器も頂いておきたいのだ。ここであっさりと頭部を破壊して、おめおめと逃がす気はなかった。

 だからこそ、鹵獲ではなく、相手の機体がカーゴへ逃げない方法――機体ロストを狙う方法に切り替えた。

 散弾銃の狙いを敵機体の足に向け、至近距離の発砲で片足ずつズタズタにした。その後で、背部と腰部のバーニアをナイフで切り裂いた。


『ひぃ! なんで、なんでえ!?』

「頑張って、新しい機体を勝ってくれ」


 キシは呟きながら、散弾銃の相手の頭に押し当てて発砲した。

 一撃で半壊した頭部を揺らし、敵機体は前のめりに倒れる。そして逃げようとするように、上半身を起こし腕で移動しようとするが、脚とバーニアが潰されていてカーゴまでの帰還が不可能とプログラムが自動的に判断を下し、ばったりと再び地面に倒れた。


「さて、これで残すは左側の三機と、ノロノロと交戦範囲に近づいてきている遠距離砲撃機っぽい二機か」


 体の凝りを解すようにキシは肩を回しながら、より近い場所にいる三機に目を向ける。

 エチュビッテが二機と対戦していると知って、救援か協調かしようと近づいてきていたようだが、キシが健在だと知って慌ててカーゴ狙いに切り替えたようだ。


「大型バーニアの蓄積が心もとないな。サブバーニアで追いかけながら、チャージするか」


 キシはエチュビッテに散弾銃を持たせたまま、逃げる三機を追いかけていく。

 敵機体たちがどう頑張っても、ニセモノのカーゴにたどり着くはるか前に、エチュビッテの大型バーニアの充填が済むのは目に見えていた。


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