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三話 異変



 キシは中心部にあるリアクターに一発撃ち込み、目標への初撃ポイントとダメージポイントを稼いだ後、守り手側と消極的な攻防を続けて攻め手の後続がやってくる時間を稼いだ。

 その作戦は功を奏し、リアクター周辺は攻防の中心地となり、乱戦模様に突入。

 『猛牛』ヴィルゴもその戦線の中に入り、中世鎧のような外観の多重装甲の防御力と、二門の重機関銃の破壊力と連射力で守り手を削っている。

 このままいけば攻め落とせるというところで、キシの機体にアラートが出る。ダーツ弾の残量が一マガジンしか残っていない警告だ。攻め手陣営の友軍チャンネルを開く。


「誰か。『布魔』のコイルガンの弾、予備持っているやついないか。大型のダーツ弾なんだが」

「馬鹿言うな。火薬式ならまだしも、コイルガンの弾なんて持っているわけねーだろうが。しかも今日発売開始の機体の弾なんて、誰が予備に用意しておくかよ!」

「そもそも単発用の大型ダーツ弾なんてマイナー過ぎるよ。諦めろ」

「しょうがない。一度離脱して弾の補充に、カーゴまで帰るとするよ」

「予備の弾、たんまりもって戻ってこい」

「火薬式のメジャーな弾薬も、機体の積載に余裕があるなら持ってきてほしいな」

「分かった。けど、こちらは弾なしだ。道中で撃破される可能性もあるから、期待しないでくれよ」

「高速機の無改造機にそこまで期待はしてねーよ。できればでいいんだよ」

「でもその額の『日の丸エンブレム』は、世界戦の日本代表の証だろ。腕は確かなんだから頑張ってほしいね」


 軽い談笑の後、キシは戦線から離脱し、廃都市の外に待つ自身のカーゴに向かう。

 その途中で、変な物を見つけた。

 廃ビルから垂れ幕が下がっていたのだ。しかも白い四角枠に赤丸という、キシのパーソナルマークの。

 不審に思って立ち止まり、垂れ幕がある方を機体のカメラでズームする。


「なんだ? NPCが変な行動をとっている?」


 垂れ幕の上の階に人間がいて、矢印が描かれた幕を広げて、キシの機体に身振り手振りを行う。むき身の人間は殺さないと決めているキシでなかったら、人型機械にハチの巣にされる蛮行だった。

 キシは彼らの行動に奇妙さと不思議さを感じ、とりあえず矢印が示す方向へ機体を進ませてみることにした。


「ゲームなんだから、楽しそうな場面には首を突っ込んでみないとな」


 軽い気持ちで機体を進ませると、廃ビル群に次々と矢印の垂れ幕が現れる。

 その誘導に従って廃都市の中を進んでいくと、ブランコやうんていにブランコ、ジャングルジムに滑り台などが並ぶ、それなりの広さの公園が見えてきた。


「へぇ。こんな場所があったなんて、長くプレイしているけど知らなかったな」


 公園の周囲を高いビルが囲んでいるのを見るに、共同住宅や団地に近い場所のようだった。

 キシは公園の中央に書かれた日の丸印の上に機体を止めて、周囲に機体の頭部センサーを向ける。人の姿はあるようだが、攻撃してくる様子はない。

 そこで酔狂ながらに、コックピットに流れるBGMを止めて、外部スピーカーで呼びかけてみることにした。


「俺の名前はキシ・ヒノ。パーソナルマークを使って俺を呼んでいたようだが、なにか用か?」


 廃ビルにスピーカーからの音が、わんわんと反響して消えていく。

 無反応にキシは肩をすくめようとして、唐突に画面に現れた警告と、鳴り響いたアラートに肝を冷やす。そして反射的に機体の腕を動かし、コイルガンの照準を脅威とされている物体に向けた。

 しかし脅威ががなんだったのか気付いた瞬間、キシは操縦桿のトリガーから指を放す。


「トラック?」


 それは、一見するとトラックだった。ただし、人型機械の弾薬コンテナの下に四つのタイヤをつけた姿のため、どこかオモチャっぽい見た目をしている。

 外見上に、機関銃やロケットランチャのような武装はない。

 そのため、キシは機体AIが何を驚異と判定したのだろうか首を傾げてしまう。だが次の瞬間、コンテナトラックから『パリッ』と火花が生まれたたのを見て、顔色を青くした。


「自動車爆弾!?」


 キシが急いでコイルガンで射抜こうとするが、それより先にコンテナトラックが爆散する方が早かった。

 先手を取られたが、このときはまだ、キシに焦りはなかった。トラックが爆弾であろうと、あの大きさでは被害は片足で済むぐらいの爆発力しか生めないと分かっていたためだ。

 しかしその予想は、大外れすることになる。

 トラックが爆発した瞬間、機体が膝をつくように下へ落ち、モニターが全て落ちて非常灯に変わり、コックピットのあちこちから火花が噴出したのだ。


「うわっ! なんだ、なんだ!?」


 初めて体験する事態に、キシは慌てて操縦桿を操作しフットベダルを踏み込む。通常なら即座に反応する機体が、この時ばかりは動かない。

 キシが腕を伸ばしてモニターに触れて、どうにか復旧させようとあれこれと手順を試すが、一向に回復する様子がない。


「この電子機器が一瞬で死んだような状況……まさか、電磁パルス攻撃(EMP)なのか。こんな武器、開発したって噂は聞かなかったぞ」


 不可思議な攻撃で動きが取れなくなった機体に、キシは降参リザインしようと、座席の下に設置されているボタンを押す。しかし、ウンともスンとも言わない。


「なんてこった。このまま攻防戦が終わるまで、待ちぼうけってことかよ……」


 がっくりと肩を落としていると、やおらコックピット内が騒がしくなった。

 なにかが動き出した気配はない。外にいる存在が、コックピット付近を攻撃している音だ。

 しかしキシにはどうしようもできない。コックピット内に銃器や刃物はないため、コックピットに侵入してくる相手に攻撃する手段すらない。


「というか、コックピットが壊されたら半壊判定になる。ってことは、機体が自動帰還モードに入るんじゃないか?」


 どうせゲーム内のことなんだからと、キシは鷹揚に構えることにした。

 しかし段々とコックピット内に響く音が大きくなってくると、段々と不安感が増してくる。

 そしてとうとう外圧でディスプレイが歪んでひび割れたのを見て、キシの顔が引きつった。


「パニック映画で、こんなシーンがあったよな。コックピットを引きはがして、エイリアンが入ってくるヤツ」


 そんなわけないと思いながら、キシは気が気ではなくなってきた。

 狭いコックピット内のさらに奥に移動しようと思い立ち、背中を押す背もたれをどかし、ペダルに半拘束されている足を片方ずつ引きはがす。

 そんな足掻きをしている間に、とうとうコックピットの前面の歪みが限界を迎え、モニターに穴が開いて外と開通した。

 赤い非常灯に差し込んだ、外からの明るく白い光。

 そんなゲームの作り込みにキシが感心していると、さらにその穴が大きくなり、人ひとりが這い出られるぐらいになる。

 どんなものが現れるのかと、身構えるキシの目に飛び込んできたのは、穴からコックピット内を覗く女性の顔だった。

 毛筋が太い燃えるような真っ赤な髪をバンダナで束ね、意思が強そうな同色の眉を驚きで上げている、茶色い瞳の可愛らしい十代半ばの少女らしい顔。顔立ちは日本人的ではなく、西洋的なものだ。

 その彼女が、穴からコックピット内へ手を伸ばす。半袖近くは白く、ひじから先は日焼けして褐色となった、脂肪が少ないたおやかな腕。

 キシがその腕の造形に思わず見とれていると、穴の向こうから声がかけられた。


「『不殺の赤目』の運転手。この手を取りなさい。機体の外に出してあげるから」

「えっ、ええ?」


 聞いたことのない二つ名で呼ばれて混乱たキシは、わけがわからないまま、言われたとおりに少女の手を取った。すると逃がさないと表明するかのように、少女は両手でキシの腕を掴み、後ろに向かって声を荒げた。


「掴んだわ。思いっきり引っ張りなさい。もう時間がないわ!」

「なにをいって――う、うわっ!?」


 物凄い力で引っ張られて、キシはコックピットに開いた穴に体が入り込んでしまう。それと同時に、コックピットに電気が通じて駆動を始めた音がしてきた。

 そしてズルッと穴から滑り落ちたキシが空中を泳ぎながら、初めて外から見た膝立ちになった人型機械に感動しつつ、コックピットの穴から激しい稲光が外へ漏れ出てきた光を目にする。

 そんな非現実的な光景を記憶に刻みながら、落ちて迫った地面に頭を打ち付けた。


「うごあああああああー! いたああああああああ!」


 頭を押さえてゴロゴロと転がり、そしてあまりの痛さに現状の違和感をやっと自覚できた。


「なんでコックピットの外に出られるんだ。ここは人型機械を動かすVRゲームのハズだろ……」


 呆然とキシが呟くも、周囲の人たちは『布魔』の周囲に群がり、作業用機械らしきもので運搬しようとしていて、答えてくれる人はいないようだった。

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