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三十七話 反抗準備

 ティシリアは決めた。


「襲いに来る、人型機械と戦うわ。少なくとも、キシが大丈夫と約束してくれた、第一陣と第二陣を相手にはね」


 リーダーの決断に、『知恵の月』の面々は賛成した。

 借金苦になろうと、ティシリアについてきたような人たちだ。ティシリアのやりたいようにさせてあげようという気持ちが強い。

 しかしそれでも、聞くべきことはある。

 アンリズが代表して尋ねる。


「この場所に残る人たちのためにも、反抗はするべきでしょう。でも、懸念があるわ。人型機械の大元は運搬機を狙っている。今回退けられたとしても、またすぐに次回が起こるかもしれない。そうなったら、ジリ貧になるわ」


 的確な予想に、ティシリアも『わかっている』と頷く。


「そうならないために、案を考えているわ。しかし最終的に、『私たちは負ける』ということになるわ」


 勝利を目指すのではなく、負けを目指すという目標に、『知恵の月』の面々は困惑顔になる。

 その中で、ビルギがおずおずと挙手した。


「具体的なことを聞いてもいいでしょうか?」

「もちろんよ。それに、皆の意見も聞きたいところだしね」


 ティシリアが全員を近くに寄らせて、他の誰にも聞こえないように声を潜め、立てた案を語る。

 内容を聞いた面々は、一応に驚いた後で、感心した顔つきになった。


「行けるかもしれませんね。少なくとも、我々が狙われ続けることはなくなるはずです」

「人型機械の手にかかるぐらいなら、相手諸共に自分たちの手でということね」


 ビルギとアンリズが賞賛する中、キシが困惑顔をしていた。


「一応言っておくけど、その方法をやったら、被害が甚大だぞ。少なくとも、この休憩所の何もかもが吹っ飛ぶはずだ」

「そんなに凄いのかしら?」

「前に言ったが、出力を改造したリアクターは全て暴走して爆発する。その爆発を利用して、人型機械を殲滅するのはアリだ。しかしその爆発の規模は、ハンディー大会を開催した村なら爆風で壊滅させられるぐらいだぞ。人型機械でそれだから、より大型の運搬機のものを使ったら、廃都市を丸ごと焼き払うぐらいになるかもしれないぞ」

「よ、予想外に破壊力が大きいわね」

「だから、使うとしたら人型機械のリアクターだけにした方がいい。リアクターの出力関係は、少し弄れば暴走するから、時間はかからない」

「でもそうなると、こちらの機体のリアクターが減っちゃうわ。全て終わった後で、他の場所で休憩所を開くとき、護衛に使える機体がなくなっちゃう可能性があるわよね?」

「その点は、第一陣と第二陣の連中の機体を鹵獲して、その機体のリアクターを得ればいい」

「鹵獲って前にも言っていたけど、方法はどうやるの?」

「方法は二つ。ゲームシステムにある『チェック・メイト』――相手の機体の頭と運転席コックピットに武器を押し当てて、チェック、メイトと唱えると機体を奪えるというシステムだ。人型機械の大元が作った方法だから、俺たちに適応されるか不確かだけど、俺の腕前があれば初心者相手に乱発可能な方法でもある。試してみる価値はあるでしょ?」


 一つ目の方法を理解したティシリアは、無言でキシに続きを話すように求める。


「それでもう一方は、機体を損壊させる方法。人型機械は頭部か運転席の一方が壊されると、自動帰還モードに入る。けどそのときに帰還方法がない――脚部とバーニアの両方が壊されて移動できないと、機体ロスト扱いになる。つまり、その場に残骸として残るって設定だった。それを活かせばいい」


 二つ目の方法を聞いて、ティシリアは納得顔になる。


「人型機械は損壊させても逃げられることが常で、中にはどうしてか残骸として残るものがあるのか謎だったけれど、そういう理屈だったわけね。うん、いいわ。そこら辺はキシに任せるから、どんどん鹵獲してちょうだい」

「ありがとう。狩りに反対されても、鹵獲は試みるつもりだったけどね」

「それはまた、どうして?」

「改造で入手するファウンダー・エクスリッチは継戦能力に秀でた機体なんだけど、初期三機が備えた武器だけじゃ戦力が心許ないんだ。だから、第一陣と第二陣から武器を奪って拡充する必要があるってわけ」

「武器を補充したら、第三陣に勝てる確率は上がるのかしら?」

「いや。拡充して、やっと五割なんだよ。いまある武器を詰め込んだだけじゃ、撃退率は三割ぐらいだろうな」

「そうなの。でも、最終的には私たちは負けて吹っ飛ぶ予定だし、キシは気楽に構えていいわよ」

「爆発の準備時間を稼ぐためにも、粘り強く戦う気でいくよ。可能なら、一機だけ残して、あとは殲滅する気でもいく」

「うっかり全滅させちゃだめよ」

「心配しなくても、一番下手な一機は確実に残すよ。それがティシリアの作戦なんだから」


 キシは自分の分は言い終わったので、他に言いたそうにしている人に会話のバトンを渡す。

 メカニックのヤシュリだ。


「お嬢のやりたいことは分かった。だが、あと八日もないんじゃぞ。急いで事を始めなきゃならんし、ワシらだけでは人手が足らん」

「その通りね。だから『砂モグラ団』に協力を仰ぐわ。そもそも、私たちが戦うと選択したんだから、彼らが私たちから離れる理由がなくなったんだし、給料分こき使ってやるとするわ!」

「ははっ、そいつはいい。連中、害獣の生息に詳しいから、素材がたんまり手に入るわい」

「そのために、キシには動き続けてもらうわよ。けど、戦いが始まる前日は、丸一日休養日にしてあげるから」

「それはどうも、お気遣いありがとう。過労死しない程度に頑張るとするよ。一応言っておくけど、ファウンダーを改造する時間が必要だから、日程の後半はエチュビッテに乗り換えるぞ。エチュビッテは第一陣と第二陣に使う予定でもあるから、訓練は必要だしな」

「機体の選別は任せるから、頑張って必要な素材を集めてきて」


 キシに告げた後、ティシリアは他に言いたいことがある人はいないかと、周囲を見回す。

 他の面々は、やるべきことは理解していると表情で語っていた。


「よし、それじゃあ行動開始しましょう。アンリズは私と共に、『砂モグラ団』や戦う気でいる人たちに声をかけに行くわよ」

「僕たちが戦う気になったと伝えるわけですね」

「こちらの作戦はぼかしながら、協力はさせる。やりがいのある仕事だわ」


 三人がトラックから去ると、ヤシュリはタミルと戦闘部隊に声をかける。


「そいじゃあ、ワシらは作成準備に入るとするか。大物を作るんだ、腕がなるわい」

「作成というよりかは建築だから、ハードイスが役に立つよー」

「雑用関係は、こっちがやるわけかい。戦闘部隊の役目じゃないんだがなぁ」

「水汲みやレーションの配布だよね?」

「資材の運搬もあるわ。ハンディーの運転、自由時間に練習しようかな」


 彼らも去り、キシはビルギと共に外に出て、運搬用トラックへ向かう。


「まずは通信設備の移設からだな」

「『砂モグラ団』が来たら、害獣討伐です。忙しくなりますよ」

「全員張り切るのはいいけど、準備だけで燃え尽きなきゃいいけど」

「僕らは、そこら辺はわきまえてますよ。弱小でも抵抗組織なんですから」

「問題は、戦う気が溢れている、休憩所に留まる判断をした連中か」

「彼らは、むしろ燃え尽きてくれた方がありがたいですよね」

「ティシリアの作戦だと、そっちの方が手間がなくていいな」


 二人は会話しつつも作業を開始し、程なくしてティシリアとアンリズからの説明を受けた『砂モグラ団』が手伝いに入る。

 通信設備をカーゴに移設し終えると、運搬用トラックにファウンダーを乗せ、キシとビルギはその中に入る。『砂モグラ団』も装甲車とハンディーを持ち出してきた。

 移動準備が整ったところで、キシたちは素材集めのために、害獣狩りへと出かけていったのだった。

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[一言] 「ありがとう。狩りに反対されても、鹵獲は試みるつもりだったけどね」 狩り>借り 「よし、それじゃあ行動開始しましょう。アンリズは私と共に、『砂モグラ団』や戦う気でいる人たちに声をかけに行く…
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