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二十七話 状況確認中

 作戦が成功し新規カーゴと人型機械三機を入手できたことは、『知恵の月』の面々のテンションを上げる作用をもたらした。


「大型リアクターと整備機能付きの移動拠点に、人型機械が合計四機もあるなんて、抵抗勢力の中でも有力な組織に飛躍したわね!」


 ティシリアが先頭をきって発言すると、ビルギとアンリズも追従する。


「しかも、こちらの人的、物理的損失は限りなくゼロの、大勝利ですよ! 各抵抗組織に宣伝を打ちましょう!」

「これで色々と選択肢が広がったわね。人型機械はキシしか満足に動かせないんだから、他三機を売り払ってもいいでしょうし」


 皮算用にメカニックのヤシュリとタミルも、興奮気味に参加する。


「人型機械の武装も一式あるし、弾薬はそれ以上にたんまりじゃ。金策をする気なら、弾薬の方が良いではないのかの?」

「どうするにしても、先に戦闘部隊が壊した部分を直さないとねー。特に、この運搬機の運転席っぽい台座の修復は急務でしょ。ま、壊れ具合は少ないから、パパっと治っちゃうだろうけどね」


 はしゃぐ面々の中で、キシだけは少し難しい顔をしていた。

 理由は、大型シリンダーの中にいた人を女性陣が外に出したものの、目を覚まさなかったからだ。その謎の女性は、砂色のシーツを上にかけられて住居用トラックの中に寝かされているが、死体のように身動きしない。鼓動と呼吸はしているため、死んでいるわけではない。

 加えて更なる問題が起こってもいた。

 シリンダーの開放は、アンリズが端末でハッキングして行ったのだが、例の女性を出した後で閉まり、再び謎の液体が充填されている。その中には、最初なにもなかったのだが、少しするとホースチューブの先に小さな肉塊が生まれ、それが段々と大きくなり、今では赤子の姿をしていた。

 このまま成長していくと、トラックに寝かせている人物と同じ姿まで成長するに違いない。

 そう。このシリンダーは、人間を製造する機械だったのだ。

 その衝撃的な事実を受け、キシは自分の肉体もこうして作られたものなのだろうと理解することとなった。


(いわゆるクローニングだよな。クローン生命体の寿命は、かなり短くなるというのが、映画や漫画だと定石セオリーなんだよなぁ……)


 自分に寿命の問題があるかもしれないと、キシは脳の片隅に記憶し、とりあえずは棚上げしておくことにした。

 そうして考え込んでいたところ、ビルギとアンリズが近寄ってきて、キシの腕を左右から抱きかかえる。


「最初に運転席の台座を復旧しますから、キシには僕らと一緒に画面に映る図形や文字の精査をお願いします」

「今回は十分な働きをしたから、暇なところに宛がって、休憩を取らせるつもりなのよ」


 要件だけ告げると、二人はキシを引きずって、全周モニターの部屋に入る。

 そこではすでに、メカニックの二人が外された台座の外装の近くに座り、ナイフで斬られた配線を基に戻そうとしていた。単純に繋げるのではなく、問題があったら断線させられるよう、接合式のソケットを噛ませているあたり用意周到である。

 キシたち三人が台座に着くと、ヤシュリが目で合図を送り、そしてソケット同士をくっつけて通電させた。

 台座の上の画面が点り、すぐに文字や記号が画面上に乱れ飛び始める。

 ビルギとアンリズは急いで文字列を目で追い、危険な兆候がないかを探っていく。


「とりあえず、奪われたから自爆という措置はなさそうですね。車体が揺れたのは、逃走を再開するためでしょうか」

「停止命令を出しているけど、どこかからの通信で上書きされてしまうみたいね。一度電源を切って、運搬機にあるアンテナを無効化してから、再度画面を繋ぎましょう」


 アンリズの指示で、ヤシュリが繋げていたソケットを分離させて、電源の供給を止める。

 情報官二人が活躍する横で、キシは画面に出ていた一つの文字列を記憶していた。


「『へり☆あ~る』か。なんとなくだけど、『サブアカ』っぽい名前だなぁ……」


 苦笑いしながらの呟きだったのだが、アンリズが聞き逃さなかった。


「キシ。そのサブアカなるものは、なにかの所属ですか」

「所属というか、えーっと、説明が難しいな……。誤解を恐れずに簡単に言うなら、別の戦績を持つ分身ってところかな?」

「……キシの記憶の元となる人物がいるという話と同じものですか?」

「似てるけど違うんだ。元となる人の記憶を、別々の二人が持っている感じ」

「トラックに寝かせているのと、いま筒の中でできつつある人物は、別の存在という意味ですか?」

「それともまた違って、例えば俺――『キシ・ヒノ』という人物はそのまま残して、新しく『センシ・ヒノ(仮)』を作りだすってこと。別の存在だから、キシが持っていた機体や武器に戦績なんかは、センシは持っていないんだ」


 キシの要領を得ない説明でも、アンリズはとりあえず『記憶は同じでも違う存在』という部分だけは理解した。


「二番目の自分を作って、なにか得するのですか? 最初の自分とは、経験以外、なにも引き継げないのでしょう?」

「その経験が曲者なんだよ。ゲームでは戦績事に受けられる仕事が違っていて、初心者向けの仕事なんてのもあるんだ。そこで熟練者が新しい自分を作って、偽装した初心者になり、初心者向けの仕事場に行く。知識と腕前は熟練のままだから、仕事で大活躍ができるってわけ」

「……そんなことして、なにが楽しいんですか?」

「俺も実感としてはわからないんだけど。本命アカウントの戦績を下げないようにしながら気楽に遊ぶためだったり、初心者相当な相手を蹂躙したり、本当の戦績に合った仕事だとできない大活躍を狙えることが、楽しいらしいよ?」

「それは卑怯者なのでは?」

「ゲームは楽しむものだから、やっている本人が楽しいのなら、俺はサブアカ行為を否定しないよ。サブアカで初心者狩りしてたことがバレると、周りから罵倒が飛んでくるうえに、ゲーム上でペナルティーも発生する行為で、うま味が全くない気はするけどね」

「キシは、サブアカをしなかったのですか?」

「性に合わないから、してなかったね。俺の場合は、勝っても負けても楽しいと感じる部類だから」

「そういえばキシは、欠点を欠点とも思わない人物でしたね」

「あくまで、人型機械の運転に限りだからね。好き嫌いは、ちゃんとあるから」


 キシが苦笑いで応えていると、いつの間にか部屋の外に出ていたビルギが、再び中に入ってきた。


「戦闘部隊に頼んで、運搬機の中に通信施設や設備がないか探してもらうことにしました。先ほど点した画面を見た感じだと、台座の電源を切っても運搬機自体は常に信号をやり取りしているようでしたから、いまでもなにかしらの電波が飛んでいるはずなので、すぐに見つかると思います」


 ビルギの仕事をしているぞという顔を見て、アンリズが呆れ顔で手を軽く振る。


「はいはい、ご苦労様。報告待ちがてら、台座の中身を詳しく見てみましょう。ヤシュリさん、お願い」

「任せとけ。こういう配線やら基盤やらは、こっちの領分じゃからな」


 台座の外装を全て外すと、収められていた配線が、フレームの間からデロッと出てきた。赤やら青やら黄色やらの束なため、生物の内臓が出たように一瞬だけ見えなくもない。

 そんな中にゴム手袋をした手を突っ込んで、指先の感触で弄り回しているヤシュリは、さながら外科医といった雰囲気だ。


「人型機械の運転席にある基盤と、似たり寄ったりじゃな。となると、運転手を焼き殺す電流発生装置は無いにしても、通信先に位置情報を送る装置はあるかもしれんな」

「あー、確かに。そんな装置がないと、撃破された機体が元の運搬機に戻ったり、『チェック・メイト』をかけて入手した機体が奪取者の運搬機に行ったりできませんもんね」


 キシが頷いて理解していると、再びアンリズからツッコミがやってきた。


「なんですかその、チェック・メイトとやらは。いえ、戦闘部隊が通信設備を探している時間つぶしに、キシには人型機械について知っていることを改めて吐いてもらいましょう」


 ずいっと迫られて、キシは思わずのけぞる。


「いや、これはゲーム設定じゃなくて、ゲームの仕様だったから言わなくてもいいかなと思っただけで」

「いいから。全て話してしまいなさい」


 容疑者を取り調べる警察官のようにすごまれて、キシは素直にゲームシステムの話をしていくことにしたのだった。


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