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二十五話 接近

 新規カーゴは、追ってくるキシのエチュビッテを狙い、二門しかない機銃をフルに生かす。

 後部銃座は直接照準。前部銃座は後部銃座に当てないよう斜角をとりつつ、エチュビッテが大きく左右に蛇行できないよう、射撃けん制を行う。

 そのためキシは、狭い範囲で銃弾を避けねばならず、なかなかに回避が難しくなっていた。

 だが、キシに憂いの表情はない。むしろ楽しんでいた。


「ハンッ、弾幕薄すぎだ。それに偏差射撃すらできてない」


 キシは四つあるエチュビッテのバーニアのうち、肩甲骨部分から腕のように伸びる大型の二つは使わないまま、腰部のサブバーニア二つを使い、少し地面から浮きながらの滑走を続けさせる。スラロームを描くように移動しながら、次々にくる銃撃を避け続ける。

 なぜ大型のバーニアを使わないかは、この機体独自の理由がある。最初期の高速機と位置づけの機体のため、最高速移動に色々と制限があるのだ。

 これの点がキシが言う、初心者にエチュビッテを勧めたくない理由であり、操っていて楽しい点であった。


「さて、チャージは済んだ。いくぞ――フルブースト!」


 操縦桿のボタンを押し込みながら、一度フットベダルを最後まで上げ、そして再び底まで踏み込んだ。

 瞬間、後ろから突き飛ばされるように機体が加速し、容赦ない重力加速度がコックピットにいる面々に襲い掛かる。

 キシは慣れているため笑顔だが、他の三人は感じたことのない息苦しさと圧迫感に、息の仕方をつかの間忘れてしまったようだった。

 そんな彼らにお構いなく、直進してくるエチュビッテを追い払うべく、新規カーゴは後部機銃を発射する。

 直前にキシは、すでに操縦桿とフットベダルを操り終えていた。


「エチュビッテの大型バーニアは直進用だからって、避けられないわけじゃないんだよ」

「ひぃやあああああーー!」


 エチュビッテが横にスピンし、膝に乗っている戦闘部隊の女性が悲鳴を上げる。当たり前のことだが、これは操縦を失ったわけではなかった。

 スケートのアクセルジャンプのように回転しながら、斜め前へと跳んで着地し、機銃の弾丸を避けたのだ。

 着地した後も、右へ左へと機体の回転方向を変えながら、くるくると左右斜めに素早く移動して回避を続ける。

 その予想しずらい動きに、新規カーゴの銃撃がついていけていない生まれている。


「『幻影舞踏ミラージュダンス』っていう、恥ずかしい名前の高速機特有の回避術。中堅プレイヤーでも、これを濃い弾幕抜きで射抜けるやつは、そうそういないぞ!」


 調子に乗ってきたキシは、新規カーゴを挑発するような言葉を口にしながら、機体を回転回避させながらカーゴとの距離を詰めていく。

 一方で乗り合わせた戦闘部隊の三人はというと、始めての遊園地で回転コーヒーカップの最高速を体験したような、目まぐるしく変わる景色と振り回される三半規管のおかげで気分が悪そうだ。それでもキシの膝に乗っている一人は、キシが回転運動をこらえるために体に入る力を感じて一瞬早く心構えができるため、少しだけ具合がよさそうだ。

 連続回避しながらの接近で、エチュビッテと新規カーゴの距離は縮まってきた。機体のバッテリーの残量は、まだ八十秒も残っている。

 そのうえ新規カーゴの機銃の重心が、絶え間ない連続射撃で焼け付き、赤く変じている。このままでは銃身が焼け落ち、射撃不能になるのも時間の問題だった。


「あと二十秒もあれば、運搬機に取り付ける!」


 運転席に同乗している戦闘部隊の三人に伝えるように言いながら、キシは『幻影舞踏』でさらに距離を縮める。

 事ここに至って、新規カーゴは新たな動きを見せ始めた。右へと舵を取り、そしてエチュビッテに対して車体を斜めに、そして横向きにして停車したのだ。そして前後二門の銃座を直接照準し、十字砲火の弾幕でキシたちを狙う。


「取りつかれるのは時間の問題とみて、捨て身の戦法をとったのか。いい判断だ!」


 キシは楽しそうに言い放ち、さらにキレを増した『幻影舞踏』を披露する。

 地面を滑るように移動するだけでなく、小ジャンプ、移動方向の欺瞞フェイント、機体姿勢を変化させての座り回転。

 ことごとくの銃弾を避けに避けていくが、その分の負担はコックピットにいる面々に重力加速度と衝撃になって通じ、キシ以外の三人の顔色が加速度的にさらに悪化していいく。エチュビッテのバッテリー残量より、三人が口から嘔吐リバースする方が早い予感がしてくる。

 キシもそのことは分かっているようで、ここで大勝負に出ることにした。


「一か八か――じゃなく、五分の勝負だ!」


 キシは『幻影舞踏』を急停止させると、新規カーゴのど真ん中へ向けて、エチュビッテの四つあるバーニアを全開にした前進を行う。

 距離が幾ばくも無いため、新規カーゴは即座に砲火で止めに入るが照準が追い付かず、前へ飛ぶエチュビッテの後方すぐに弾丸が通る十字の線が結ばれている。

 そしてそのままエチュビッテは、新規カーゴの側面に飛び込むようにして抱き着いた。


「ご同車ありがとうございましたー。終点だよー、下りた下りた」


 キシは軽口を言いながらエチュビッテを動かし、新規カーゴにしっかりと掴まりつつ、コックピットを出た戦闘部隊が銃座からハチの巣にされないよう機体の腕でバリケードを張る。

 しかし、戦闘部隊の三人はすぐには行動ができなかった。


「荒っぽい運転しおって、殺す気か」

「ううぐ。気持ちが、悪いです」

「」

「そうやっている間にも、機体のバッテリー残量は減っていくよ。あと三十秒!」


 キシの言葉に急かされて、戦闘部隊の三人がコックピットを飛び出し、新規カーゴの屋根にとりついた。そしてエチュビッテの腕を盾にしながら、銃座の様子をうかがう。


「グレネードで装弾装置の根元を狙うぞ。部品が壊れれば、給弾が止まるからの」

「了解。榴弾、発射するわ」


 キシの膝に座っていた方の女性が、腰部マウントにある信号弾拳銃に似た、小さめの単発式グレネードランチャーで銃座を狙い、撃った。

 ぽひゅ――と間の抜けた音の後、人の目で視認可能な速さで、榴弾が飛んでいく。

 その小ささに脅威度が低いと判断したのか、銃座は射線で撃ち落とそうとはしなかった。

 事実、爆発の規模はとても小さく、直撃しても人を一人だけしか吹っ飛ばせないぐらいの威力しかない。

 しかし狙いは正確で、機関銃の根本にある給弾するための装置をとらえ、そこを爆破した。こぼれ出た銃弾が宙を飛び、銃口の射光が止まる。

 同じ要領で、もう一方の銃座も爆破して、


「これで、ちょうどゼロ秒。機体が止まるよ」


 キシはカーゴの上部にエチュビッテを圧し掛からせるように体勢を変えさせ――直後、人型機械の手足から力が消えた。バッテリーが尽きたのだ。

 役目を終えて、キシがのんびりとコックビットに座っていると、唐突にコックピットに何かを投げ込まれる。掴んでみると、それは自動拳銃だった。

 キシが疑問に思って外を見やると、戦闘部隊の老人が口を歪めて笑っている。


「銃座の側に、中に入れそうな場所を見つけた。制圧するから、キシも最後尾で援護してくれ」

「運動は苦手なんですけど?」

「射撃の腕はまあまあだったろ。なに、後続が追い付いてくるまでの暇つぶしだ。付き合え」


 有無を言わせない言葉に、キシはため息をつきながら、拳銃を握る。


「わかった。お供するとしますよ。だけど、危険になりそうなら、すぐに逃げましょうね」

「はっはっは。何を言う。我らは戦闘部隊だ。人間大の機械までなら、なんだって壊してやるわ!」


 老人は大言を吐くと、手招きしてきた。

 キシは仕方がないと肩をすくませ、コックピットを飛び出して、制圧に参加することにした。もっとも、カーゴの上に着地した瞬間、バランスを崩して転び、危うくカマボコ状に歪曲した屋根から転落する寸前になり、うまく締まらない終わりとなったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  そのうえ新規カーゴの機銃の重心が、絶え間ない連続射撃で焼け付き、 重心>銃身
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