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二十四話 追走

 断層からでてきた新規プレイやーが持つ最初のカーゴを狙い、キシはトラックを爆走させていく。

 超大型運搬機から砲撃を受けないよう迂回していくのだが、迂回行程の半分が過ぎたあたりで、また砲撃の光が見え、遅れて音まで聞こえてきた。

 トラックの周囲に榴弾が落ち、爆発が上がったことに、ビルギが助手席で情けない悲鳴を上げる。


「ひやぁ!? う、撃ってきましたよ!?」

「俺たちが新規の機体運搬機を狙っているとバレたんだ。けど大丈夫。動き続けていれば、砲撃はそうそう当たるもんじゃないから」


 キシは最高速度を出しながらも、砂と岩石の大地の中で走りやすい道を探して進んでいく。

 榴弾が降り注ぐが、最大有効射程の外にいるキシたちを狙っているためか狙いは甘く、着弾場所が段々とチグハグなところになっていた。

 それでも、視界の中にオレンジ色の爆炎と黒い爆煙、吹き飛んだ砂と小石がトラックに降ってくる音に、ビルギは生きた心地がしない。


「こんな威力の榴弾。一発貰ったら、トラックなんて大破しちゃいますよ!」

「当たらないから平気だ!」


 キシは簡単に断言すると、トラックを最高速度で保ったまま、新規カーゴが逃げる方向へ進ませ続ける。

 超大型運搬機の方も、狙って当てるのが難しいと判断したようで、キシたちが進む方向にばら撒くように榴弾を振らせていく。しかし、追ってくる気はないようだ。


「榴弾が段々と後ろに着弾するようになってきましたね」

「あの運搬機の役目は、断層からカーゴが出てくるための出入り口の守護だ。俺たちを追って出入口を危険にさらす気はないんだ。そもそも、初期の運搬機を一つぐらい喪失したって、大した問題じゃないからな」

「そうなんですか?」

「運搬機は再購入できるんだ。たとえば機体建造の不具合――不良バーニアや、リアクターの改造は必ず失敗するのにもかかわらず自分なら大丈夫と弄ったりすると、機体稼働直後に爆発して運搬機ごと爆散させてしまう。だから、買えなきゃゲームプレイができなくなるってわけ」

「えっ!? リアクターを改造すると、吹っ飛んでしまうんですか!?」

「あくまで高出力化しようとするとだ。話を戻すと、それだけ単純に数が多くもある。実働プレイヤーだけで人口は億に届くって言われてたから、一人一台運搬機があると考えても、一億台はある計算だ。そして休止中のプレイヤーや、購入を待つ上位の運搬機の保管数を考えたら、さらに数が上がって十億台ぐらいにはなるかもな」

「いま動いているものでも、最低一億台!? そ、そんな数が、この大地にあるなんて信じられません」

「正確に言えば、上大陸と下大陸で一億台以上だから、俺たちがいる下大陸では五千万台以上だね」

「それでも多すぎる気がするんですけど!?」

「いやいや。大陸の大きさを考えたら、意外と少ないと思うけど――っと、逃げる運搬機が見えてきた」


 すっかり着弾音が後ろになってきたとき、キシが見つめる視界の先には初期カーゴの姿が点のように見えてくる。

 その姿は、キシが語った通称のようにロールケーキ――というよりも板に乗ったカマボコのような形をしていた。

 ビルギは目を凝らしながら、キシに尋ねる。


「あれが運搬機ですか? さっきの大型運搬機に比べると、とても小さい気がしますけど?」

「初期は機体収容数が四つしかないからな。大型運搬機を収容数で考えると、三十機は入りそうだったから、十分の一ぐらいの小ささだな。といっても、もちろんこのトラックの四倍ぐらいの大きさはある」

「はぁ。なんだか、尺度の価値観が狂ってきましたよ」


 話しながらも追走を続けていくと、段々と初期カーゴが大きく見えてきた。距離が近づきつつあるのだ。

 後ろからの砲撃の音も止まったことで、ビルギはおずおずと提案してきた。


「こんなに最高速を出したままじゃなくても、いいんじゃないですか?」

「いや。できるだけ早く捕まえたい。下手したら、すぐに増設作業が始まるかもしれないから」

「その作業が危険なのですか?」

「危険だね。ゲームの設定集にあったことだけど、増設に必要な銃座や大砲を持ってくる存在――人型機械が二つ入る大きさの大型航空機があるんだ。あの超大型運搬機のことを考えたら、その飛行機にも攻撃手段があると考えた方がいいだろ?」

「それもそうですね。キシ、飛ばしてください!」

「すでに目一杯だよ!」


 トラックが近づくにつれて、カーゴの姿がより鮮明に見えてきた。

 前後に長い半円筒形で、カマボコの板に当たる部分には多数の小さなタイヤと、先端と後端に二連装式機銃が一つずつあることもあり、どこか芋虫に似ている印象を受ける。


「やっぱり機銃が二門だけだ。これなら、トラックの荷台にあるエチュビッテでも、機体に取り付くことができる」

「では作戦の通りに、このトラックを一時停止させて、キシさんは制圧のための戦闘部隊と共に人型機械に乗り込んでください。ここからの運転は僕がしますから」

「それじゃあ、お願いしよう――「止めるには及ばないわ!」――な!?」


 突然の第三者の声がしてきた方に、キシが驚いて顔を向けると、トラックの扉の外にティシリアと戦闘部隊の老人の姿があった。ティシリアの髪が風にあおられて流れ、老人の顔に当たって迷惑そうだ。

 キシは苦々しい顔をしながら、相手に届くように大声を出し、向こうも負けじと叫んで返す。


「なにしているんだよ!? 危険だろう!」

「なには、こっちの台詞よ! せっかく追いつきかけているのに、もたもたトラックを止めている時間が無駄だわ!」

「ティシリアみたいに、走行中のトラックの外を伝って荷台まで行けっていうのか。俺は運動音痴なんだよ!」

「知っているわよ! だから、キシを安全に運ぶために、戦闘部隊の人を連れてきたんじゃない!」


 出てきた言葉に愕然として、キシは戦闘部隊の老人に顔を向ける。諦めろと、肩をすくめられた。

 そうこうしているうちに、ビルギが運転を変わろうとし始める。


「ほら、運転はするから。さっさと運ばれちゃってくださいよ」

「他人事だと思って! うわ、押すなって!」

「運動神経が悪いと言うのは本当ですね。僕ですら、簡単に押しやれますから」


 ビルギに追いやられて、運転席から助手席へ。そして開けられた扉から伸びた老人の手が、キシの胴体に回された。


「そいじゃ、行くぞい」

「待って待って、心の準備を――」


 問答無用で車外へと連れ出された瞬間、猛烈な風がキシを襲った。危うく空中に投げ出されそうになり、慌てて車体のパイプを掴んで堪える。

 そのまま体を固定しようとするが、それよりさきに老人に引っ張られ、荷台へと無理やり向かわせられてしまう。


「ほれほれ、さっさといくぞ。危ない場所は補助してやるから、心配せんでいい」

「む、無茶苦茶だ! 俺が立てた作戦と違う!」

「事態は常に動くものよ。だから作戦だって流動的に、現場判断で合わせるものなんだから、立てた通りになるわけないじゃない!」


 ティシリアに窘められ、キシは老人に引っ張られながら荷台を目指さざるを得なかった。




 キシはどうにか荷台にたどり着き、震える足でエチュビッテのコックピットに座り込み、鳥肌が立っている手足を撫でさする。ちなみに座席の形は、『布魔』のものとは違っていて、往年のロボットアニメよろしく腕置きつきの椅子型である。


「うわわわ、危なかった。ビルギの荒い運転の最中に、車外を伝って荷台に行くだなんて、もう絶対しない」

「終わったことをガタガタと、うるさいぞ。ほれ、あの運搬機まで我々を連れて行かんかよ」

「分かってますよ。けど、電源を入れるのは、飛び出す直前です。それまでちゃんと、体を預ける場所を探しておいてくださいね。機体を激しく動かすことになるはずですから」


 キシが操縦桿とペダルの調子を確認しながら言うと、戦闘部隊の三人、老人と女性二名がコックピットに入ってきた。

 人型機械の操縦席は、元の世界では閉所恐怖症対策という名目で、かなり余裕をもって作られている。そのため、詰めれば複数人入ることは可能だ。

 しかし可能なだけで、狭くなくなるわけではない。


「後ろに二人。前に一人が空間的にも良い感じじゃろな」

「人型機械をしがみ付かせた後で、すぐに運転席から運搬機へ飛び出す必要性があるから、妥当な判断」

「じゃあ、私が前にいるね」

「いや。前にいられると、画面が見えなくて運転できないんだけど?」


 キシが突っ込むと、戦闘部隊の女性――前に立とうとしていた方が、にんまりと笑う。


「そう言われたらしょうがないから、キシの膝の上に座っちゃおうっと」


 ぴょいっと軽く跳び、すぽっとキシの太腿の上に飛び入ってきた。

 衣服越しに伝わってくる、鍛えられた女性の柔らかな臀部の感触と体温。さらには背もたれに寄り掛かるように、キシに体重を預けて密着してくる。

 ふわっといい匂いがした気がして、キシの鼻の穴が大きくなりかける。

 そこで我に返ったキシは、明確な反応を返すまいと堪えながら、文句を言った。


「ちょっと、からかうのは止めてくれって。俺だって男だぞ」

「ん~? キシみたいに運動ができない子が、戦闘部隊の私をどうできるのかなー?」


 あからさまな挑発に、キシはムッとして、つい反射的に彼女の胸を片手でガッと掴んでしまう。細身の見た目で、運動に支障が出ないよう押さえつける下着を着けているにもかかわらず、キシの触覚はとても柔らかい感触を得た。

 一秒、二秒と無言の空間が広がり、三秒目で可愛らしい悲鳴と共に平手打ちが飛んできた。


「きゃぁ! なにするの、信じられない!」

「こうなるから、変にからかったり誘惑しないでくれって言ったんだよ」


 痛む頬を撫でるキシに、座席の後ろに位置している老人が笑い声をあげる。


「かっかっか。キシとて男子よ。据え膳あれば手を伸ばしてしまうものだ」

「む~~。からかったのは悪かったけど、私が前にいてキシが画面を見るためには、こうするしかないじゃない。私だけお留守番しろってこと?」

「そうは言わん。膝に座るけど手は出すなと言えば、キシのことだから本当に手をださんはずだ」

「……なにか、微妙にヘタレと言われた気がする」


 キシが微妙な顔をしていると、胸を揉まれた戦闘部隊女性がおずおずと膝の上に座ってきた。


「これはしょうがなく座るんだからね。発情してエッチなことしちゃ、ダメなんだからね」

「約束するからには手を出さないよ。両頬に赤い手形を作りたいわけじゃないしね。そっちも運転の邪魔はしないで欲しいな」

「わかった。大人しく座っていることにする」


 そうして約束が結ばれたところで、コックピットの外から銃撃音が入ってきた。

 エチュビッテの調整を外でしていたメカニックのヤシュリから、報告がくる。


「運搬機にかなり近づいたところ、銃撃を受けておる。狙いは荒くて直撃弾はないが、運転しているビルギがしり込みして速度が落ちた。ここらが距離を詰められる限界じゃ!」

「わかった。固定ワイヤーを外して。すぐに出発するから」

「了解じゃ。幸運を! 外せ!」


 ヤシュリが合図すると、タミルがワイヤーの端に繋がっていた緊急開放用の金具を操作。すると、一斉にエチュビッテを荷台に抑えていた、すべてのワイヤーが外れた。

 キシは戦闘部隊の三人に視線で合図すると、キシは軽く指を曲げ首を回してから、人型機械の緊急時バッテリー駆動の始動ボタンに指を乗せる。


「これから百二十秒が勝負になる。操縦席の前面を閉めるのも、移動しながらだから、落ちないように捕まっていて」


 三人から頷きが返ってくるのを待ち、キシは始動ボタンを押し込み、すぐに操縦桿とフットペダルを操る。

 ベッドから跳び起きる要領で、動き始めたエチュビッテが荷台から跳び上がった。そして背部バーニアを吹かして、砂と岩の大地の上を滑走する。

 荒っぽい離脱をされた影響で、運搬用トラックが大きく揺れながら速度を落としていく。

 それを全周モニターで見やりつつ、キシは前面のハッチを閉める。そうして運転に支障がなくなったところで、口元をにやつかせる。


「さあ、久々の人型機械の運転だ。楽しんでいくとするか!」


 戦闘部隊の三人がいるにもかかわらず、いつもやっていた通りに独り言を放ちながら、フットベダルを踏み込んでエチュビッテを高速で前進させる。可動時間の百二十秒をフルに使って、逃げる新規カーゴに取り付くために。

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