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二十一話 次の目標

 キシが運動させられている間に、ティシリアとビルギにアンリズの三人は『知恵の月』の次の行動を決める会議をやっていた。

 そしてキシが戻ってきたときには、三つの候補まで絞られていた。


「やっと戻ってきたわ。キシにも関わりがあることなんだから、意見を言ってちょうだい」


 ティシリアに住居用トラックに引っ張り込まれた後で、キシは携帯端末機器を見せられた。


「それで、次にやろうとしているのが、この三つなの。どれもキシに活躍してもらわないといけないから、決定材料の参考に意見を聞かせて」


 キシは端末を受け取ると、電子のメモ帳に書かれた内容に目を落とす。


「なになに――『ハンディーを使った建築作業の手伝い』に『リアクター入手のために拠点防衛任務』と『人型機械を使っての機体運搬機カーゴ強奪作戦』か」


 キシが顔を上げると、ティシリア、ビルギ、アンリズの順に、それぞれ推す項目について語り始める。


「私のおススメは、やっぱり運搬機の強奪よ。あれさえ入手すれば、今後左団扇で暮らせるようになるし、他の抵抗組織からも一目置かれるわ!」

「そんな危険な真似をしなくとも、建築作業の手伝いをして、地道にお金を稼ぎ、リアクターを買えばいいと思っています。差し当たっては、建築作業の手伝いは作業対給料に優れて、良いお金になります」

「二人の折衷案で、人型機械が襲ってくる拠点の防衛任務を勧める。ハンディーで物資運搬作業ができるし、百二十秒しか動かないといってもエチュビッテって名の切り札を使えば、人型機械を一つ撃破することも可能よね。攻め入る必要がある運搬機を狙う作戦より拠点防御ですいぶん危険度は下がるし、建築作業を手伝うよりも高額報酬が狙えるわ」


 三人の意見を聞き、キシはまずティシリアに顔を向けた。


「強奪するのは構わないが、これは『知恵の月』の単独行動? それとも他の組織と組んでやるのか?」

「そこはキシの判断を機構と思ってね。できれば単独が良いわ! 無理なら、組むことも視野にいれるけどね」


 ティシリアの主張に、ビルギとアンリズが反論する。


「多数の組織が何度も狙ってきましたが、成功したのは数えるぐらいです。現実的じゃありません」

「他の組織と組んでも、こちらの方が規模が小さいと運搬機を奪われかねないし、逆にこちらより規模が小さいところに手助けを頼んでも意味がないわ」

「そこはほら、キシの運転技術があるわけだし、なんとかなるわよ」

「「キシの力を当てにしすぎなのが問題なんです!」」


 二人に異口同音に怒られて、ティシリアはしゅんとする。そして助けを求める目をキシに向けてきた。


「二人はこう言うんだけど、キシはどう思う?」

「あー、悪いが。運搬機をエチュビッテで襲うのは、ちょっとまずい。あの機体は対弾性能が低くて、運搬機に備え付けの機銃で穴が空くほどだからな」

「そうなの? 人型機械って、多少の弾なら弾くって感じがあるんだけど?」

「その認識は正しいが、エチュビッテに限っては違う。あの機体にある装甲は被弾傾斜ではなく気流調整用――弾から機体を守るというより、高速移動のための風防の類に近いんだ。そんな使いにくい機体だからこそ、あの村長はリアクターと手を取り払った後で、客寄せに使ったんだろうしな」

「なによそれ! 戦えない人型機械なんて、意味ないじゃない!」

「いや、戦えないわけじゃないぞ。ただ、ちょっと扱いが難しくて、初心者にはおススメできないってだけで、使ってみれば結構面白いんだ」

「前にキシ自身が、機体の欠点が欠点に感じないって、自分の認識が普通じゃないって語っていたじゃないの!」


 要するにティシリアは、キシが機体を擁護する発言に関しては信用する気はないということだった。

 キシが不本意だとエチュビッテの魅力を語り出す前に、ビルギが間に割って入ってくる。


「ティシリアの質問がひと段落ついたのなら、次は僕への番ですよ。ほらキシ、何か質問があるのならどうぞ」

「じゃあ、建築作業の手伝いってことだが、ハンディーは壊れかけが一つだけだぞ。大丈夫か?」

「平気ですよ。移動中にメカニックの二人に直してもらえばいいんですから。補修部品は大会終了後に手配して買っておきましたよ、僕がね」

「その得意げな顔をみると、良い取引だったんだ」

「補修部品がダブついていしまった、初戦敗退の大会出場者に掛け合って、安値で譲ってもらったんですよ。村の売店で買う、半値以下でしたよ」


 鼻高々なビルギの姿を、キシは微笑ましく思いながら、話題を元に戻す。


「俺が作業手伝いをする間、みんなは何をしているんだ?」

「戦闘部隊は建築作業の手伝いせすね。メカニックは建築作業機械の修復手伝い。情報官の僕らとティシリアは、建築に集まった人たちから噂の収集と、炊き出しの手伝いですね」

「……言葉に淀みがないあたり、なにか慣れてそうだな」

「そりゃあ、以前はハンディーも人型機械もなかったですからね。参加できる依頼といえば、建築手伝いってぐらいでしたし」


 実績は十分あるということは、これが一番の安全策ということだ。

 キシはそう納得すると、アンリズへ質問する。


「拠点防衛ってことだけど、前の廃都市でか?」

「いいえ、別のところ。そこが次に襲われる可能性が高いと、情報が流れてきているから」

「どうしてわかるんだ? 人型機械の側が、次はここを狙いますって、情報を流しているわけじゃないだろ?」

「理由は様々あるの。分かりやすいのは、大型のリアクターを人型機械がある場所に設置したとき。早い段階で、人型機械が集まってくるわ」

「ゲームでいう作戦目標を、人型機械が作り付けているってことか」


 どうして自作自演のような真似をするのか、キシには理解できなかった。

 それはアンリズも同じようで、困惑気味に首を横に振る。


「作られる理由はどうあれ、人型機械の襲撃から守り切れれば、しばらくの間、その場所で人々が暮らせるようになる。大型リアクターがもたらす電力と、そこに備え付けられている水の発生装置。レーション作成機能はないけど、壊れた人型機械から引きはがしたものが市場に流れているから、大量の電力があるからそのぶんだけ大量に生産も可能なの」

「なるほどな。そんな事情を知っていれば、常に防衛側で参加したんだけどなー」

「キシたち『プレイヤー』とやらは、こちらの事情をどう聴いていた?」

「リアクターは不当に武力制圧されて、不正に利用されている。それを開放するよう雇われたのが攻撃側で、防衛するよう雇われたのが防衛側って設定だったね。まあ設定だけで、善悪の認識はプレイヤーにはなかったかな」

「度し難い。自分の行動の意味を知らないだなんて」

「俺もその一人だったわけで、耳が痛いね」


 知らず知らずのうちに、人殺しに参加している事実を知って、キシは今更ながらに罪悪感を覚えた。

 ゲームポイントのためにNPCを積極的に殺してきたプレイヤーが、この事実を知ってどう思うかも気になった。

 しかし、その考えは実現しないだろうと、キシは思ってもいた。


(アンリズが攻防戦にプレイヤーが参加しそうだという情報が本当なら、ゲームは問題なく運営されている。ということは『比野』は無事にログアウトできているようだ。下っ端とは言え社員が意識不明じゃ、話題にならないわけないからな)


 なにせ世界唯一の完全没入型VRゲームだ。意識不明者が出ようものなら、会社が隠そうとも他社が暴いて騒ぎ立てるに違いない。

 この世界を現実だとキシが認識して、もうそろそろ十日。三分の一から四分の一の速度で元の世界の時間が流れていると仮定しても、二日か三日は経っている。それだけの時間があれば、マスコミも乗っかってワイドショーで大騒ぎしても変ではない。日本のマスコミが口を閉じようとしても、人権問題に敏感な海外が黙ってはいない。

 それなのに、プレイヤーがゲームに入ってこれるとなれば、元の世界では問題が起きていないことは想像に易い。


(『比野』が無事だとして、俺に意識のフィードバックがないってことは、共有が断絶しているってことでもある。理由として考えられるのは、俺が人型機械に乗ってないからだな……)


 キシはそんな結論を導き出すと、エチュビッテに乗った途端に『比野』の意識に乗っ取られてしまうのではないかと疑問を抱いた。

 その点は次の作戦にも関係するため、キシはビルギとアンリズに聞いてみた。


「――って疑問があるんだが、どう思う?」

「ああ、その点ですか。そういえば、キシには話していませんでしたね」

「心配は要らない。人殺し装置は、取り外してあるから」

「なんだよその物騒な装置」

「機体が壊れた際、運転手を殺すためにコックピット内を高圧電流が駆け巡るようにする装置ですよ。ティシリアにキシが外へ引っ張り出されたとき、空いた穴から外に稲光が見えませんでしたか?」


 ビルギの説明に、キシは思い出した。そういえばそんな現象があったなと。

 そしてアンリズの説明が続く。


「どうして運転手を焼くのかわからず、機密保持のためかと思っていたのだけど。キシの話を聞いて予想がついたわ。あれ、運転手が得た知識を、キシのもとである『比野』がいる世界に送るための装置だったようね」

「プレイヤーが体験したことを、高出力の電力で脳を読み取ってから送っていると?」

「そっちの世界では知識を頭に直接入れる装置があるんでしょう? 加えて、この世界とそっちの世界では時流に差があるのよね。なら、送信する時間も、受信してから植え付ける時間も取れるわよね?」

「可能だとは思うけど……」


 ディメンショナルブレイカーという完全没入型VRゲーム機は、実は別の星での体験を認識を脳インプット技術で書き入れる機械だった。

 キシは信じがたい思いがあったが、そう考えると納得できる部分があった。

 世界各国がディメンショナルブレイカーの筐体を、公式非公式にかかわらず分解して調査しているのにもかかわらず、一向に次の完全没入型VR機器が生まれていないという事実がある。作れない理由がわからないとされていたが、彼らが調べている機械がVR機器でないのなら、できなくて当たり前だった。

 真実がアンリズが語った通りかは謎だが、いまキシが気にするべきは、人型機械に座っても『比野』の意識に上書きされないかどうかで、その点については問題がないという事実だった。


「操ることに問題がないのなら、人型機械を活かした依頼を受けるべきだろうな」

「ということは、ビルギの案は却下ということね」


 話に取り残されていたティシリアが、自分も参加していると示すかのように、キシの糸をくみ取った発言をしてきた。

 そのことに、ビルギは肩を落とす。


「僕の意見は、安全策過ぎるっとは思っていました。そしていまの『知恵の月』には、飛躍するべき挑戦が必要な点も」

「慎重なのはビルギの良いところよ。その調子で、どんどん安全策を建策してちょうだい」


 ティシリアが微笑みながらの慰めに、ビルギは苦笑いをしながら顔をうつむかせた。

 キシは悪いことを下と思いつつも、残る二つの案について考えを語り始める。


「ティシリアの案は成功すれば大勝ち間違いなしの大博打で、危険度も大盛り。アンリズはそれより若干危険度は下がるけど、実入りも下がる。そう考えて良いんだよな?」


 二人の頷くんをを待って、キシは一方の指示を打ち出す。


「俺はティシリアの案に乗りたいと思う」

「やったー! それじゃあ、襲撃の計画のために情報収集を――」

「案を支持するが、ちょっと待った!」


 浮かれるティシリアを、キシが押しとどめた。


「なによ、キシ。私の案で行くんでしょ?」

「行きたくはあるが、ティシリアの目的は機体運搬機カーゴの入手だよな。その中に入っている機体はオマケで、機種はなんだっていいんだよな」

「良い機体がある運搬機は、その分だけ防備も固いっていうし。入っている機体が残念だろうと、運搬機自体の防備が薄いものを、情報を集めて探っていくわよ」

「その言葉が聞きたかった。あとトラックで見せてくれたように、その端末で地図を出せるよな?」

「ええ、出せるけど?」


 ティシリアは訳が分かっていない様子で、端末に地図を表示させる。

 キシは端末ごと受け取ると、手指を這わせて地図の縮尺をいじり始めた。


「最大でも、全体までは無理か。それなら」


 キシは砂の多い地面に、指で大きく世界地図を描く。そしてある一点を指し示す。


「ここが、俺が捕まった廃都市。そこからトラックで移動して、ハンディーの村はこの辺り、いまはここだろ?」


 キシが示したのは、大陸中央部より少しだけ左側に行った場所だった。


「ええ、合っているわ。それがどうしたの?」

「実は、ここからさらに左にいったところに、ゲームで有名だった地形がある。俗に『大断層』っていう、かなり深い断層が真っ直ぐに走っている」

「知っているわ。キシ、端末返して。えっと――ここよね?」


 ティシリアが端末に表示させた地図には、長い距離で続く黒い線――断層が書き込まれてあった。

 キシは頷くと、さらに説明を続ける。


「俺を始めとして他のプレイヤーも詳しい位置までは分からないんだが。この断層の一角で、新人プレイヤーが最初にやる戦闘訓練チュートリアルを行う場所があると言われているんだ。ここ以外に、あのときに見た景色に似た場所はないってな」


 キシの情報を受けて、ティシリアはあることを思い出し、地図を操作する。


「この断層の近くに、謎の巨大運搬機があるの。どこに行くわけでもなくて、ずっとそこにいて、近寄ってくる物体に遠くからでも砲撃してくるの」


 説明しながら提示した地図には、一目で危険地帯だとわかるように、大きなドクロマークが書かれていた。


「長らくとどまり続けている理由が謎だったけど、キシが言ったように作られたばかりの操縦手と運搬機が断層から出てくるとして、その出入り口をこの運搬機が守っているんじゃないかしら?」


 ティシリアの予想は正しいように、キシには思えた。

 それはビルギとアンリズも同じようだったが、情報官である二人は慎重だった。


「まずはその近辺で聞き込みする必要がありますね」

「その運搬機の砲撃が、どれぐらいの距離まで届くのかも調べないといけません」

「情報が必要なのはその通りだけど、とりあえずの目標は決まったわね!」


 ティシリアは気勢を上げると、思い思いに休んでいた他の面々を急がせて、断層の近くに留まっているという超大型運搬機へ向かってトラックの舵を取らせたのだった。


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