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十五話 準決勝

 主催者の紫ハンディーが使った、小型パイルバンカーの被害は思ったよりも深刻だった。


「元々が余剰パーツで組んだようなハンディーだからか、衝撃の近くにあった腕も、吹っ飛ばされることを堪えた脚も、だいぶくたびれておる」


 チェックを終えたヤシュリは、ため息交じりに後ろ頭を掻いている。

 その報告に、ティシリアが声を上げた。


「なら補修パーツを買えばいいわ! 幸いなことに、この村はハンディーが特産で、そしてこの大会中が書き入れ時よ。高値を吹っ掛けられるだろうけど、少し探せば見つかるはずよ! 資金なら、賭けに勝って入手した、このお金があるし!」


 名案と言いたげな口調だったが、ヤシュリだけでなくキシも首を横に振る。


「機体状況の確認に時間をとったので、次の準決勝は三試合後。その後は、一試合あけて決勝。パーツを買おうと、取り換えている時間はない」

「それに、俺がさっき倒したのはこの村の村長だ。試合に不正を持ち込むぐらいだから、こっちの陣営にものを売らないよう働きかけているだろうしね」

「じゃあどうするの! 優勝できなきゃ、人型機械は手に入らないのよ!?」


 ティシリアの主張はもっともなので、キシはヤシュリに相談する。


「機体の状況は、あと二戦耐えられないほどで?」

「荷物の運搬機として考えるなら、まだまだ寿命は先なのだが、戦いとなると各部への負担が増すので予想がつかんな。準決勝はまともに動くだろうが、決勝――順当にいけば相手があの強力なトゲトゲハンディーだ。攻撃を受けた際に不具合が現れて、腕や足の一つや二つが動かんようになるかもしれん」

「準決勝を短時間で終えれば、その分だけ決勝を長く戦えるようになるのでは?」

「それはその通りだが、キシは機体の扱いが厳しいから保証はできん」

「それじゃあ、腕と足、どっちが消耗が少ないか教えてくれません?」

「そりゃあ、腕だな。足はかなり酷使されておる」


 ヤシュリの判断を受けて、キシは次の戦い方を考えつつ、対戦相手の情報をもらうためアンリズに話を向ける。


「次の相手も、優勝候補の一人かな?」

「ところが、下馬評では冷やかし勢だった者が相手ですね。戦い方は、キシ並みにハチャメチャですよ」


 携帯端末を差し出してきたので、キシが覗き込むと、荒い解像度の動画が流れる。キシの機体が画面外にはけた後、二機のハンディーが進み出ていた。どうやら、次の対戦相手を決定する戦いを、アンリズが撮っていてくれたようだ。


「キシの相手になるのは、こちらの緑と黄色の縞々の機体です。見ていてください」


 画面内では、試合開始の合図とともに二機のハンディーが走り出したところだった。

 アンリズの忠告通りに、緑と黄色の縞々の機体に注目していると、やおら大ジャンプを披露していた。そしてそのまま、走り寄ってきた相手にフライングボディープレスを仕掛けていた。そして両者がもつれて地面に倒れ合うと、縞模様ハンディーが先に立ち上がり、相手の腕を引っ張って起き上がらせると、腕を持ったまま自ら倒れての投げ技をうつ。相手は腕を引っ張り取られないように機体を操った結果、面白いように空中へ機体が飛んだ。


「これは、ルチャの動き!?」

「ルチャ? なんですかそれ?」

「あ、いや、ノリで言いたかっただけだから、気にしないで」


 キシは誤魔化し笑いで流したが、見れば見るほどにルチャリブレの選手のような動きで、縞模様ハンディーが軽快に相手を翻弄している。

 やがて、対戦相手が振り回され続けてグロッキーになったようで、気持ちが悪そうな声色でギブアップ宣言をしていた。


「これはまた、厄介な相手がもう一人現れたね」

「キシでも、この変幻自在な動きをする相手に勝つことは難しいと?」

「いやいや、勝てはするよ。でも、この動きに合わせて機体を動かしたりしたら、決勝戦がまともに戦えないってだけ」


 キシは口と目を閉じて考えを纏めると、ヤシュリに注文をつけた。


「ハンディーの足だけでも、全力を一回だしても壊れないように、重点的に整備してもらえませんか?」

「他を無視するのなら、そして一回だけでいいのなら、保たせることは可能だわな。そっちに注力する分、他のところに負担をかけると、修復不可能なことになりかねんぞ?」

「いえ。今回の対戦の肝は足腰になる予定なので、それ以外は試合が終わった後に整備してもらえればなと」

「考えは分からんが、要望は聞いてやる。だが全力を出したいとの言葉から、試合後に足の調整を入れないといけない気がしてならんのだが……」


 ヤシュリはキシの思惑通りになるか疑問に思いつつも、タミルを呼びつけた。


「バラしている時間がないため、タミルのその細くて小さい体躯に働いてもらわんといかんぞ」

「まっかせてー。この細い腕で、組み上げたままの状態でも、奥のネジを回して見せるからさー」


 ヤシュリに頼まれたことに、タミルは満面の笑みでハンディーの脚部に取り付いた。


「承知しておるだろうが、こちらの指示に従うのだぞ」

「わかっているってー。この手足は、お爺ちゃんの工具替わりだってことはね」

「それならよし。まずは外装のカバーを外し、中央の左側にある空間から手を入れ、中心にあるシリンダーの四番目の調整するぞ」

「ほいさー。ふんふ~~ん♪」


 ヤシュリは気をもんでいるような顔で、タミルは楽しくて仕方がないという調子で、ハンディーの脚部整備に取り掛かった。

 キシはアンリズにもう一度端末を見せてもらい、対戦相手の軽快な動きを脳内でシミュレートし、どう戦うかの作戦を立てていく。

 それぞれが行動を起こす中、ティシリアは大金が入った袋を手にした状態で、つまらなさそうな顔をしていた。


「『知恵の月』のリーダーは私なのに、キシの発言で勝手に物事が進んじゃっているしー」


 ムスッとしたまま、とりあえずお金をトラックの荷台にある金庫の中に入れに、護衛部隊の二人と共に歩きだしたのだった。




 ついに準決勝。そして第一試合。

 キシの出番となり、ヤシュリとタミルの整備が間に合った。


「これがワシらにできる調整の限界だ。無茶は厳禁だが、荒っぽい運動をさせても壊れないことは保証する」

「オイルで腕をドロドロにしながら頑張ったんだから、ちゃんと勝ってね」


 ヤシュリとタミルの激励を受けながら、キシはハンディ―を起動させる。

 広場中央へと進もうとして、ムスっとした顔のままのティシリアに気付いた。


『賭けを禁止されて、不貞腐れているのか?』

「違いますー。そんなんじゃありませんーだッ」


 子供のようなダダのこね方に、キシは苦笑いする。


『その様子を見るに、知らないうちに俺がなにかしちゃったようだね。試合が終わったら、ちゃんと謝るから』

「むぅー! キシのそういうところ、ズルいって思うわ! もういいわよ。私の勝手な逆恨みだっていう自覚はあるんだもん!」


 不貞腐れ具合が増加したティシリアは、さっさと行けと身振りする。

 キシは困惑しながら、広場中央へ。対戦相手も出てきた。しかも歌いつつ踊りながら。


『準決勝進出しーの快進撃、派手に戦った俺よりも目立つお前に勝って、より注目集めてやるぜー!』


 あまりの調子よい歌と軽妙な動きによる踊り方に、キシは相手の機体の上に『ウェーイ』と擬音が出ている錯覚を覚えた。

 そして心の中で、こういう頭がハッピーそうなキャラの相手は苦手だと、ため息をつく。

 キシが相手にしないままに、相手はお構いなしに機体を軽快に動かしながら、お互い開始線に到着した。

 両者の機体に係員が走り寄り、各部のチェックを行っていく。それが終わった瞬間に、キシは先の試合のことをおもいだし、機体を少しだけ動かして各部に異常がないかを確かめて、問題はないと判断した。

 不正に動きを阻害する工作をされなかったことに、キシは安堵しながら、対戦相手に集中する。


「準決勝、第一試合、始め!」


 審判の声と共に、キシは機体を後ろ走りさせて、対戦相手と距離を取る。

 一方で、緑と黄色の縞模様のハンディーの運転手は、キシが逃げるとは思っていなくて虚を突かれ、一秒ほど機体の動きがとまっていた。


『逃げ回って、勝てると思わないことだぞーえぃ!』


 変な言い回しを使いながら、縞模様ハンディーが軽妙な動きで猛然と走り出した。一歩ごとに速度が増すその姿に、観客から歓声が飛ぶ。


「すげえ速さだ! これは空中に飛ぶのが楽しみだ!」

「今までで一番の高さを期待しているぜ!」

『まっかせてくれたまーよぉー!』


 縞模様ハンディーが、自身が出せる最高速度に達したとき、跳びかかる範囲内にキシの機体が入った。


『食ラエエエエ! 飛翔体当タリイイイイイイ!』


 声を裏返らせながら、縞模様ハンディーは地面を踏み切って空中へと跳んだ。脚部の力を改良してあるのか、キシのハンディーを飛び越しそうなほど、かなりの高さが出ている。

 最高到達点に至った機体は、両手両足を広げてボディープレスの体勢に移行し、重力に引かれて落ち始めた。それこそキシのハンディーに目掛けて一直線に。あまりに見事な飛び掛かりは、キシが後ろ走りから停止し、前後左右に避けるのは無理なほどだった。この点だけは、キシの予想以上の飛び掛かり方だった。

 キシはハンディ―を急停止させると膝を限界まで曲げさせ、まるで相手が飛び越えるのを待つように屈む。

 そこに、縞模様ハンディーから嘲笑がきた。


『自爆狙いとは、笑止ナリイイイイイ!』


 相手が機体の腕と足を少し動かすと、縞模様ハンディーが落ちる軌道が変化し、キシのハンディーに直撃するコースになる。

 キシの目論見が失敗したんだと観客が思ったが、キシが狙っていたのは相手が頭上を飛び越えることではなかった。


『ぶちかましは、地対空にも使える技って見せてやるよ!』


 キシは自分のハンディ―の膝を最大出力で伸ばさせ、落ちてきた縞模様ハンディーに頭から突っ込んだ。

 そして激突した瞬間、重力落下して得た位置エネルギーとキシのハンディーが発揮した脚力の威力が、両者の機体に襲い掛かっる。

 地面に足を付けて踏ん張っているキシの側は、調整に調整を重ねた脚部から破断の音と断線による火花が見え、ヤシュリとタミルが今後の整備を考えて顔を覆った。

 一方空中に居て堪える地点がない縞模様ハンディーは、空中を上へと弾かれ、自分が飛んだ以上の地点まで飛び上がることになった。そして後方へ半回転しながら落ち始め、重々しい音とともに地面に落下し、コックピット部がひしゃげて観客席からの声が止まった。

 だがすぐに、縞模様ハンディーの腕がゆっくりと上がり始め、観客に歓声が戻る。

 キシは動き始めた相手を見据えていると、縞模様ハンディーの腕がキシのハンディーを指し示した。


『いい、戦いだった。満足だ――ガクッ……』


 震える声でパイロットが告げると、力尽きたように縞模様ハンディーの腕が地面に落ちた。そしてそのまま動かなくなる。

 係員が慌てて救助に向かい、機体からパイロットを引っ張り出し、生存を確認した。緑色の逆立った髪型の彼の気絶顔は、やり切った男が浮かべる満足そうな笑みだった。


「勝者! 『知恵の月』!」


 審判の宣言に、観客の声がさらに大きくなった。


「一瞬で決着がついちまったが、面白い試合だった!」

「縞模様のヤツも、最高到達点を更新できてよかったなー!」


 キシはハンディ―の腕を観客に向けて振りながら、コックピットの中でため息をついていた。脚部に無理をさせ過ぎて、どう操っても動きがぎこちなくなってしまうのだ。


「相手の飛び掛かりが上手すぎて、当たり所の調整に失敗した。そのせいで想定以上の負荷で足を壊しちゃったから、ヤシュリとタミルに怒られるなぁ……」


 独り言を呟きながら、陰鬱とした気分でトラックまで戻っていったのだった。

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