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十四話 主催者との戦い

 二回戦が終わり、三回戦が始まった。

 第一試合は、キシと主催者の戦いとなった。

 試合数が少なくなったことで整備時間も減るため、キシはハンディ―を起動させる前に、ヤシュリに具合を尋ねることにした。


「操縦で、なにか気をつけたほうがいい点、あったりするかな?」

「二度体当たりしたことで、機体上面に歪みがでておる。今回勝ち、準決、決勝と戦うと考えると、体当たりは控えた方が良いかもしれん」

「伝送系に障害が出るからかな?」

「その通り。ハンディーの上部は、人型機械での掌の手首にあたる。そこには手指の動きを司る配線があり、そこが傷つくと動きが鈍くなる可能性があるな」

「手首の当たりは硬いからと、突進に当たる面に使ったんだけど。失敗だったか。とりあえず、今回は別の方法で戦ってみる。ありがとう」


 キシはヤシュリに手を振って礼を言うと、ハンディーを起動させ、広場中央へと歩き出る。

 その動きに淀みはなく、機体上面のへこみが機体に与える影響は無いようだった。

 対戦相手である、紫ハンディーも出てきた。

 両者が開始線で止まると、係員が機体チェックに入って戦いへの機運が高まりはじめ、観客から歓声が飛んできた。


「やったれー、村長! ぽっと出の奴なんて倒してやれー!」

「『知恵の月』の赤丸ハンディー! お前に賭けているんだから、勝てよー!」

「勝ちなさいよ、キシ! 村長が相手だから、勝てば払い戻しは四倍になっているわー!」


 ティシリアの声援が聞こえてきて、キシはコックピットの中で、がっくりと肩を落とす。

 そんな中、紫ハンディーから声が飛んできた。審判や観客には聞こえない程度に声量を抑えている。


『まさか、君のような大穴ダークホースが現れるとは。敵は『原始の勝鬨』だけだと思っていたんだけどね』


 意味深な言葉にキシは訝しみ、そして気付いた。


『ザウルス系ハンディーと、トーナメントの決勝で当たるように細工したってことか?』

『ふふっ。そうは言わないさ。だけど、こちらは大会主催者だとは、言ってあげよう』


 不正を告白したに等しい言葉に、キシはより分からなくなった。


『それを俺に言って、どうする気なんだ?』

『いいや、なにも。戦う前の雑談だよ、雑談』


 何らかの企みを臭わす言葉に、キシは眉を寄せる。

 そんな会話をしている間に、機体チェックの係員が下がっていく。そして審判が声を上げた。


「試合、始め!」


 キシは、ヤシュリに窘められたこともあり、今回は突進する選択肢を捨てていた。そのため、ゆっくりと相手に近づいていこうとした。

 操縦桿を操り、フットベダルを踏んで、そこで違和感を覚えた。左足の反応が変に鈍いのだ。


「機体の損傷部位が伝送系に干渉しているのか? まあ、その点を加味して操作すればいいだけだな」


 欠点を欠点と思わないキシの性質から、いま起きたばかりの不具合すらも自信の腕前ですぐにアジャストする。

 右足に重心を傾けつつ、左足はすり足にするように、機体を前進させていく。

 傍目から見ても、明らかに不調な様子。観客からは悲鳴が上がった。


「うわー。ここで不具合かよ。まあ、一回戦二回線と体当たりしたからな。調子が悪くなっても仕方がないか」

「キシ―! 信じているから! お願いだから、勝って!!」


 ティシリアの悲痛な声に、キシは『どれだけのお金を賭けたんだ』と呆れつつも、ハンディーの片腕を動かして『心配するな』と伝えた。

 すると、紫ハンディーから声がやってくる。


『ははっ、機体不良とはツイていないね。君がお得意の突進は使えない様子だ。そこで、どうだい。ここで降参してくれれば、それ以上その機体は壊れずに済むけれども』

『悪いね。リーダーが勝てって絶叫しているから、降参はしないよ。というか、足が不調だろうと、あんたには勝てるしな』

『……折角の親切を無駄にしたな。良いだろう、その機体の四肢をもいで、勝ち名乗りを上げるとしよう』


 紫ハンディーは、早々に決着をつけるために、無造作といえる動きでキシのハンディーに近づいてきた。


『四肢をもぐか。いいね。俺もその案に乗らせてもらうよ』


 キシは笑みを浮かべながら、操縦桿とペダルを動かし、ハンディーに中華拳法のような構えを取らせる。

 紫ハンディーの側は、キシの行動をこけおどしと判断し、さらに接近した。

 そこに、キシのハンディーが素早い突きを食らわせた。


『ほわたー!』


 肩の部分を突かれ、紫ハンディーが上体を傾かせる。一歩後退し、体勢を立て直した。


『ぐっ。小癪な抵抗を!』

『それはどうかな。ほわ、ほわたー!』


 キシは挑発するような声と共に、機体をすり足で動かしながらの左右の突きを放つ。

 紫ハンディーは攻撃を食らい、右に左にと揺れながら、一歩二歩と後ろに下がってしまう。


『ちまちまとした攻撃は止めないか。この美しい紫色が剥げでもしたらどうしてくれるんだ』

『機体の傷が気になるのなら、こうしてやるよ』


 キシは突きを変化させ、腕を薙ぐように振るう。金属を擦る甲高い音が響き、紫ハンディーに斜めに太い傷がつき、紫色の塗装が剥げて下塗りが見えてしまった。


『よ、よくも、この美しい機体に傷をつけてくれたな。容赦しない!』


 紫ハンディーが引いた腕を突き出してきた。

 キシはハンディ―の腕で受けようとするが、嫌な予感がして、寸前で横に機体を傾けて避ける。

 その瞬間に『シュカ』という謎の音がなり、際どくも避けきったはずのキシのハンディーに激しい衝撃と揺れが襲った。

 慌ててキシが操縦桿とペダルで機体を立て直すが、紫ハンディーが追撃してくる。


『ほらほらほら。そのくすんだ白と赤丸という趣味の悪いハンディーを、宣言通りにバラバラにしてあげよう!』


 紫ハンディーの連続攻撃を、キシは機体の傾けと足運びで、どうにか避けていく。その最中でも、数発に一発の割合で、あの謎の音と現象が現れ、キシのハンディーが大揺れする。

 普通の操縦者なら、この謎の攻撃に混乱し、俗にいう『わけわからん殺し』が決まってしまうに違いない。

 だが、キシはそうではない。

 世界チャンプになった後、その勇名を狙うプレイヤーに戦闘を挑まれることが多くなった。もちろんそういったプレイヤーは改造機を操り、既存機体にはない秘密兵器や隠し武器によるハメ殺しを狙ってきたものだった。

 そのハメ武器の一つに、紫ハンディーが使っているであろう物が存在していた。


『その謎の攻撃の正体は、小型化した圧縮空気式の杭打機パイルバンカーだな。しかも傍目にはそうとわからないよう、仕込み式をハンディーの腕に組み込んでいるんだろ』

『はっはっは。なにをいちゃもんつけてくれているのかね。武器をつけていないことは、係員が調べて保障してくれているだろうに』

『その言葉。あんたが大会主催者じゃなきゃ、素直に頷いたけどな!』


 キシは避けずに、紫ハンディーが繰り出した腕を横に大きく打ち退かした。

 その瞬間、『シュカ』という音とともに、紫色の腕の先がノック式のペンの頭のように少し飛び出し、キシの機体に衝撃が伝わってきた。


『腕の一番先が関節の内に引っ込み、腕が伸び切った瞬間に激発するのか。いやらしい装備だけど、片腕だけにしかないから左右のバランスに違いがあるな』

『わかったところで、一発決まればハンディーが壊れるほどの衝撃が入る。勝ち目はないぞ!』

『まったく。こんな武器を見逃したのを考えると、係員もあんたとグルだったんだな。少なくとも、俺の機体に細工した一人もだ』

『そこも気付いたか』

『メカニックが問題ないと言った後で、左足の不調だからな。最初に係員を疑ってしかるべきだった』


 キシが苦々しく告げると、紫ハンディーから嘲笑と共に突きがやってきた。


『くははっ。それでどうするかね。ここでこの機体の不正を叫んでみるかね?』

『止めとくよ。主催者権限とグルの係員を使って、うやむやにする気なんだろ。第一、そうわかっているからこそ、俺だって外に漏れないように、小声で喋っているんだからな』

『ほほぅ。口を噤む代わりに、こちらの便宜を引き出そうとでもいうのかね』


 キシは攻撃を寸の距離で避けると、パイルバンカーが激発した衝撃に揺られながら、機体の腕で紫ハンディーが伸ばしている腕を抱え込んだ。パイルバンカーを仕込んでいる、その腕をだ。


『いや。こんな武器ぐらいなら、まともに戦っても勝てるからな。変なことを言って、試合を無効にされちゃ困る』


 キシは腕を抱え掴むと、自信のハンディーを倒れ込ませながら、ぐるっと横回転させた。

 紫ハンディーの稼働限界を超えて引っ張り捻られて、パイルバンカーが入った腕が関節からもぎ取られる。


『おのれ、腕を!』

『俺が試合開始時に言ったよな、その機体の四肢をもぐって。次は脚だ』


 キシはハンディーに捻り取った腕を放り出させ、倒れていた機体を少しだけ立ち上がらせつつ、前へ突出した。目標は、紫ハンディーの右足。

 滑り込むようにして抱え込むと、プロレス技のドラゴンスクリューの要領で膝の部位から破壊した。


『ぐおっ。倒れてたまるか』

『いいや、倒れてもらう!』


 片手片足で耐えた紫ハンディーの横から、キシは自分の機体に負荷がかからない程度の体当たりを食らわせ、ひっくり返させる。

 そして審判がなにか告げる前に、スピニングトゥーホールドの要領で、残っている方の足を捻り取った。

 キシは奪った足を投げ捨て、四肢の中で最後に残った腕をもぎに取り掛かる。

 しかしその前に、降参の声が上がった。


『負けだ! 私の負けだ! だからこれ以上、この美しいハンディーを壊さないでくれ!』


 キシは油断なく紫ハンディーの腕を掴むと、判断を聞くために審判にハンディーのスリットを向けた。

 審判は少し呆然としていたようだが、キシのハンディーが腕挫十字固に移行しようとしているを見て、我に返って審判を下す。


「勝者! 『知恵の月』!」


 その瞬間、ワッと歓声と、イヤァと悲鳴が上がった。初っ端に機体の不調を見せ、その後もパイルバンカーの影響でふらついていたため、キシのハンディーが勝てると観客の誰も思っていなかったからだ。

 それこそ、大枚をキシの勝ちに賭けて突っ込んでいた、ティシリアも例外ではなかった。


「ひぐっ、ひぐっ。アンリズぅ、キシが勝ったよぉー。お金、失わずにすんだよぉー」

「よかったですね。ほら、泣き止んで、顔を拭ってください。酷い表情ですよ」

「だってー、だってー、安心したら、安心したらーー」

「はいはい。これに懲りたら、賭け事なんてやめましょうね」

「もうやらない。心配しすぎて、心臓痛いもの。でも、払い戻しには行かないと」

「では、流れでティシリアが賭けてしまわないように、私も護衛と共に行きますからね」

「うん。かなりの大金になるから、人手が欲しかったところだし、いいわよ」


 泣き顔から持ち直し、ティシリアはアンリズと共に、賭博屋のもとへと向かった。

 一方で、試合を終えたキシはというと、トラックに戻ってすぐハンディーの電源を落として、メカニックの二人を呼び出した。


「左足に細工されたのと、弱いパイルバンカーの余波を何度か食らったから、部品に緩みや疲労が出てないか確かめて欲しいんだ」

「らしくなく苦戦していると思っておったが、そんな事情があったとはな」

「主催者だからって不正していたってこと? むぅ。許せないなー」


 タミルがスパナを手に主催者陣営に乗り込もうと歩き出したので、キシが羽交い絞めにして止めた。


「まあまあ、こっちは正々堂々と勝ったんだし、相手の不正については流しちゃおうよ。それよりも整備だよ。俺も手伝うからさ」

「キシがそう言うなら矛を収めるけどー。でもこうなったら、優勝してよね」

「優勝はする気だけど、どうしてまた念押ししたんだ?」

「そりゃあ、優勝して景品を受け取るときに、不正をなじってオマケを手に入れるためだよ」


 図太い物言いに、キシは苦笑いを浮かべると、タミルの背を押してハンディーの整備に取り掛かるのだった。


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[一言] 8行目の「伝送系に障害が出るからかな?」 電装系ではなく?
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