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十二話 キシの戦い方(ハンディーでの初戦編)

 大会の試合は進み、とうとうキシが出場する番になった。


「それじゃあ行って――なんだ?」


 キシがハンディーの電源を入れようとする寸前、どこかから怒鳴り声がやってきた。


「ティシリア! あなたって人は、なにを考えているんですか!」

「アンリズの心配性! 大丈夫たら、絶対に大丈夫なの!」

「なにがですか! 知恵の月の活動費になる露店での売り上げの全てを、キシの勝ちに全賭けするだなんて!」

「だから、平気なんだってば! キシは絶対に勝つんだから、これで活動費が賭け倍率どおり六倍になるの!」

「勝負事は常に流動的です! キシがどれだけ運転が上手であろうが、初戦の相手は優勝候補の一人なんですよ!」


 ギャーギャー騒いているのは、どうやらティシリアとアンリズだ。

 キシは唖然として、ハンディーの近くにいたヤシュリに視線を飛ばす。しかし返ってきたのは、肩をすくめて『さっさと広場へ行け』という身振りだった。


「いいのかなぁ……。とりあえず秘策はあるから、喧嘩していないで見ててよ!」


 キシは戸惑いながらも二人へそれだけ告げると、ハンディーの電源を入れると立たせ、スタスタと広場中央へと進み出た。

 一方の対戦相手――起こっていたアンリズの言葉では優勝候補の一角――も、他に比べたら比較的滑らかな動きで前に出てきた。

 開始戦に両者がつくと、大会運営側の係員が機体のチェックに入る。ハンディーに武器が装着されていないか、隠し武器を持っていないかを調べていく。やがて問題なしと判断が下され、審判役に身振りで進行するように伝えた。


「『荒野の咆哮』と『知恵の月』の対戦を始める。両者準備はいいかね」


 キシがハンディーに手を振らせて了承を告げると、対戦相手も同じような行動をとった。


「それでは、試合始め!」


 審判の声と共に、わっと観客から歓声が上がった。

 『荒野の咆哮』側のハンディーが勢いよく駆けだそうとし、二歩進んだところで停止した。


『お前。その姿は、なんのつもりだ?』


 訝しげな声は、もちろんキシが操るハンディーに向けられたもの。同じように、見ている観客からも不思議そうな声が上がる。


「なんで動こうとしてないんだ?」

「膝を軽く曲げて、両手を下に垂らしている格好のまま、止まっているよな?」

「おーい、審判! そのハンディー、電池切れじゃねーのかー?」


 ヤジに反応して、審判が係員に調査を命じようとすると、キシのハンディーが動いた。

 だらりと垂らした両手の先を、くいくいと動かす、手招きでの挑発だ。

 これでキシのハンディーが動けることは見れたので、審判は試合続行の判断を下す。そして対戦相手もまた、挑発されたことで戦闘意欲を高ぶらせた。


『戦う気がないのなら、この一撃で倒れてしまえー!』


 ドスドスと足音を立てて、相手のハンディーが突っ込んでくる。

 一歩ごとに両者の距離が縮まっていくにも関わらず、キシの機体は動かない。

 観客の中には、キシが戦意喪失したに違いないと、せせら笑う声が出てくる。

 そんな中、一人の女性――ティシリアの声が高らかに広場に響いた。


「キシー! 勝つって約束したのに、負けたら許さないんだからー!」


 その声にキシの機体は反応し、まるで『はいはい、黙って見てな』と言いたげに、気だるげな身振りを片手で行っている。

 それが更なる挑発になり、対戦相手の戦意により強い炎がついた。


『一撃で沈めてやるよー!』


 腕を大きく振り上げ、走る勢いのままに叩きつける気だ。

 そんな様子を、キシはハンディ―の前面スリットから冷静に眺めていた。


『はっけー……』


 呟きながら集中を高め、最高のタイミングで機体を動かすことだけを考えていく。


『これでも食ら――』

『……よい!!』


 相手のハンディーが腕を振り下ろそうとした直前に、キシは自身のハンディを急発進させた。それこそ、スペックが許す限りの突発を利用した、相撲のぶちかましだった。

 相手は反応できず、腕を振り上げた格好のまま体当たりを食らい、後ろへ大きく飛ばされる。体当たりを食らった部位は、大きくべっこりとへこんでしまってもいる。

 一方でキシの機体はというと、へこんでいる部分は頭頂部の片隅――人型機械で言うところの手首のあたり――機体で一番硬い部分だけだった。

 対戦相手はそのまま仰向けに倒れ、そのまま動かない。


「ダウン! 1、2、3――」


 審判がカウントを開始。五からは、観客もコールに参加する。


「「「――6、7、8、9、10!!」」」


 試合終了となり、一撃で決めたキシに盛大な拍手と歓声が浴びせらる。


「一発とは恐れ入ったぜ! チクショウ、賭けが外れちまったな!」

「あんな威力の体当たり、いままで見たことないな!」

「そのハンディーに乗っている兄ちゃん! 次はもうちょっと長く戦って、楽しませてくれよ!」


 観客へハンディーに手を振らせながら、キシはトラックへ戻っていく。対戦相手はというと、向こう側のスタッフが機体から引きずり出し、気絶していた彼の頬を叩いて起こそうとしていた。

 キシは帰還し終えると、ハンディーの電源を落とし、機体の外へ。真っ先に声をかけたのは、喜色満面の笑みで賭け札を握る手を掲げるティシリアでもなく、苦々しい顔を向けてくるアンリズでもなく、メカニックのヤシュリとタミルだった。


「一気に最大出力を出したので、足に不調が出てないか、チェックお願いしてもいいですか?」

「任せとけ。タミル、やるぞ」

「ほいさー! でも臭いからすると、部品が焼き切れたりはしてなさそうだから安心だよねー」


 メカニック二人に後を任せて、キシはハンディ―から飛び降りる。そこでようやく、興奮気味のティシリアに感想を求めた。


「約束した通り、勝ってやったぞ」

「すごい! すごいわ! これで活動資金が六倍よ、六倍!!」

「はいはい。早く換金しにいけ。大金受け取るんだから、戦闘部隊に護衛してもらった方がいいぞ」

「もちろんそうするわ! さあ、ついてきなさい!」


 意気揚々と歩きだすティシリアの後を、露店の店番から逃れた戦闘部隊の二人が追って行った。

 キシは喜んでくれたことに対して満足感から息を吐くと、悔しそうな顔つきのアンリズへ向き直る。


「それで、そっちの感想は?」

「勝利おめでとう。でも、あまりティシリアを頭に乗らさせないで。これ以上、行き当たりばったりがひどくなったら手に負えない」

「じゃあ、負けた方が良かったと?」

「そうは言わない。ただ、勝つにしても苦戦してみせて、ティシリアが負けそうだって青い顔をした後で勝ってほしいってこと」

「無茶な注文を言わないでくれ。そもそも、ハンディーの予備とスペアパーツがないから、手早く倒すようにするって段取りだったろ」

「チッ。使えない」

「うわっと。随分と明け透けになってきた」


 キシが驚いていると、トラックの荷台から出てきたビルギが近寄ってきた。


「勝利おめでとう、キシ。ちなみに、アンリズがずけずけ物を言っているようだけど。それって、君に心を許し始めている証拠だから、気にしなくていいよ」

「ビルギ! なに根拠のないことを言っているの!」

「いやいや。仲間内じゃ有名だよ、アンリズの素直になれない性格は」

「なるほど、『ツンデレタイプ』だったのか。そう考えてみれば、その通りだな」

「なにか不名誉なことを言われた気がする!」


 アンリズが喚いていると、賭けの払い戻しを受け取ってきたティシリアが、ほくほく顔で護衛を連れて帰ってきた。


「見てみてよ、みんな! 『知恵の月』史上、初の大金だわ! こうなったら次のキシの試合にも、全額突っ込まないといけないわね!」

「止めてください! せめて元金は残しておいて、賭けで儲かった分だけ使ってください!」


 ティシリアの妄言にアンリズが噛みつき、他の面々はついつい失笑してしまうのだった。



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