百九話 VS『比野』後編
キシと『比野』の戦いは、空中戦に移行する。
お互いに、空を上に下に、右に左にと飛び回りながら、アサルトライフルを撃つ。
射撃難易度は地上での戦いの比ではないほど難しいため、世界一の腕前を持つと自負しているキシや『比野』でも有効打を早々与えることはできない。
そして、二人が操っている機体は、人型機械だ。延々と飛べるような仕組みにはできていない。
機体を空中に浮かべているバーニアの推力が連続使用で減少すれば、どうしても地上に戻って回復させる必要がでてくる。
先に空中を飛翔していた『比野』が下りて、九戦目の砲撃でボコボコになってしまっている発着場の敷地内を走り逃げる。
キシは上空から逃げる相手に向かって、バズーカを連続して放つ。
直撃すれば大破確実な威力があるロケット弾を、『比野』は後ろ向きに自機を走らせると、スラローム移動をしながら銃撃でロケット弾を撃ち落としにかかる。
迫るロケット弾の数は三つ。
一つを撃ち落とし、もう一つは回避。そして最後の一発は、直撃する軌道でないため、何もせずに見過ごした。
その見逃したロケット弾は、建物の瓦礫の一つに着弾。
爆発して瓦礫を吹っ飛ばし、一瞬時間を置いて、急に大爆発が起こった。その大爆発の爆炎と、爆発の衝撃で吹き飛ばされた瓦礫と砂が、近くにいた『比野』の布魔に襲い掛かる。
『ぐあっ!? 爆発物を隠していたのか!?』
爆発の衝撃で揺れる機体を立て直すと、『比野』の布魔の手足にあった包帯状のティシュー装甲の大半がボロボロになっていた。
ティシュー装甲とは、人型機械の銃弾でも斬撃でも、人間から銃弾や投石であろうと、どんなものでも一発攻撃を受けると類まれな防御性能を発揮し、その直後に崩れ落ちる装甲である。キシが爆発させた、瓦礫に隠していたロケット弾の予備弾倉の爆発によって吹き飛ばれた砂がかかって反応してしまったのだ。
これで『比野』の布魔は、機体の防御性能が著しく低下してしまったことになる。
『俺のコピーながら、なんともイヤな作戦をしてくれるな!』
『比野』はキシの布魔が滞空する限界が近いと感じ、アサルトライフルで落ちてくる機体を狙い撃とうとする。
しかしその前に、キシは弾倉に残っていたロケット弾を全て発射した。
二発飛んで来るロケット弾。一発は『比野』に直撃する軌道で、もう一発はかなり逸れている。
先ほどのこともあり、『比野』は両方とも撃ち落とそうとアサルトライフルを放つ。
だが、撃ち下ろされるロケット弾のスピードは速く、直撃弾しか撃ち落とすことができなかった。
『比野』は逸れたロケット弾が再び大爆発すると考えて、休ませていたバーニアをフル稼働させてまで、少しでも離れようと移動する。
ロケット弾は崩れた建物に直撃し、そして爆発を起こす。ロケット弾一発分だけの爆発を。
『くそっ! 着地時間を稼ぐために、ブラフを仕掛けてきたのか!』
一杯食わされたと『比野』が気付いたときには、すでにキシの布魔は地面に着地してバーニアの推力の回復を図っていた。そして着地地点からほど近い場所――砂の中に隠していたバズーカの予備弾倉を足先で掘り起こす。それを器用に足で蹴り上げながらバズーカの砲身を肩と頭で保持し、浮いている弾倉を右手で掴むとバズーカに装填した。
『ほらほら、どうしたどうした! 俺の元となる人物の腕前は、その程度なのか!』
キシがヤジりながらアサルトライフルとバズーカで責め立てると、『比野』はたまらず上空へと機体を飛翔させ、お返しとばかりに銃弾の雨を降らせてくる。
しかしその直後、キシの布魔が上空へと飛んだ。バーニアの推力が回復したため、三次元戦闘に入るために。
そのことに、『比野』は驚きの声を発する。
『同じ布魔なのに、どうしてそっちの回復はそんなに早いんだ!』
『こっちのバーニアは、中速度帯のものだ。そっちの高速機用のものとの特性の違いは知っているだろ!』
『高速機のバーニアは、大推力を発する代わりに、消耗が激しくて長く使えない上に推力の回復も遅い! 中速度帯のものは、推力はソコソコしか出ないが、消耗は少なくて長時間使えるし、回復も早いってことだろ!』
『三次元戦闘をするなら、どっちのバーニアが優れているか分かるか?』
『それは圧倒的に中速度帯のものだ! なにせ、こっちはもう、地上に戻らないといけないんだからな!』
『比野』の機体が推力を失って、地面に着地する。先ほど全力の回避行動を行ったことで、上空に留まるための推力の回復が不十分になってしまっていたからだ。
ここから再び、キシが『比野』を撃ち下ろす場面が続く。アサルトライフルで射撃して回避行動を制限し、ロケット弾の単発狙撃で撃破を狙う。
『比野』はバーニアを回復できるギリギリの速度で回避行動を取りつつ、ロケット弾の直撃弾だけをアサルトライフルで撃ち落としていく。
では、キシが隠したバズーカの予備弾倉を爆発させようと撃ったロケット弾はどうするのか。
『軌道を先読みして、着弾地点が近ければ撃ち落とす。遠かったら、遠ざかる!』
『比野』は自分自身に言い聞かせるように告げつつ、その通りの行動を行う。
その結果、キシが狙ったロケット弾の連鎖爆発は、ことごとく回避されてしまう。
『チッ。流石に二度も三度も通じないよな』
キシの相手は自分自身ともいえる人物なので、そのことは重々わかっていた。
そして効果のない戦法で、大事な弾薬を浪費する無益さを悟り、作戦を変更する。
まずは、地面に降り立って、使い切ったバズーカの弾を隠し場所から補充し、バーニアの回復に努める。そして、一定距離から近づかないようにしていた『比野』へ、自分から近づくべくバーニアを再噴射させた。
そのとき『比野』の布魔は、アサルトライフルに最後の予備弾倉を入れていた。
『その弾倉が尽きたら、そっちに射撃武器は役に立たなくなるぞ!』
キシが指摘しながら、自機のアサルトライフルを発砲する。
『比野』の方も、これが最後の弾倉だというのに、遠慮なく撃ち返していく。
『弾が切れたら、接近戦を挑ませてもらうからいいさ!』
お互いに言い合った後、両機とも上空へ飛び上がり三次元戦闘に入る。
距離が縮まったことで、お互いにアサルトライフルによる至近弾が増加するが、直撃弾はない。
そして時間が経ち、先に『比野』の布魔が、機体特性によってバーニアの推力を失った。
『チャンス!』
機体性能のお陰で好機を得たキシが、バズーカを向ける。
この距離かつ、推力を失って降下中の相手だ。直撃させることは、キシの腕前を持ってすれば造作もなかった。
しかし勝負を焦らずに、一度横に機体を飛ばしておいた。
その瞬間、『比野』から飛んできたアサルトライフルの弾が、バズーカの砲身があった場所を通過した。
もしも先ほど、好機に目が眩んでバズーカを発射させようとしていたら、砲身の中でロケット弾が爆発して一発逆転となっていただろう。
『チッ。起死回生に残していた一発だったのに』
『比野』の悔しそうな口調が示す通りに、彼の布魔が持つアサルトライフルは、弾倉に弾がないことを知らせるように、薬室が開きっぱなしになっている。
これで相手は攻撃手段を失った。
キシは悠々とした気持ちで、改めてバズーカを向け、操縦桿の発射ボタンを押す。
今まさにバズーカからロケット弾が発射される――その直前、キシの布魔が左肩を下にするように体勢を崩した。それに引きずられる形で、バズーカの照準が狂ってしまい、ロケット弾があらぬ方向へ飛んでいってしまう。
(なにが起きたんだ!?)
キシは言い放ちそうになった口を噤みながら、急いでサブモニターに機体の状態を映し出した。
簡略図で描かれた機体のシルエット。アサルトライフルの射撃で酷使し続ける左腕は、赤と黄色に点滅を繰り返して止まらない。九戦目で榴弾の破片を受けた左半身は、黄色がまだらについている。
そして背中の左側にあるバーニアも、黄色表記になっていた。
(戦う前は色がついてなかったのに、バーニアを酷使しすぎたこで損傷具合が広がったのか……)
原因は分かったものの、折角優勢に立てた場面だったのに、これはかなり致命的だった。
(バーニアの不調で、こちらが行える三次元戦闘の時間が極端に短くなる。となると地上で戦うことがメインになるけど、刀で斬りかかってくる高速機用バーニアを持つ布魔相手だと悪手なんだよな)
キシは一気に情勢が不利になったと悟りながら、機体を地面に着地させる。
すると、この着地の瞬間を待っていたかのように、『比野』がアサルトライフルから刀に装備を変更しながら突っ込んできた。
キシはアサルトライフルで牽制し、近寄ってくる進路の先に置くようにロケット弾を撃ち込む。
爆発した弾によって砂が噴き上がる。
その中を、『比野』は突っ込んできた。腕や足にまだあったティシュー装甲は、砂の衝突で機能を失い、全て剥がれ落ちていく。
『やっぱり突っ込んでくるか!』
『引いたらそっちの距離だから、当たり前だろ!』
キシはアサルトライフルで射撃しつつ、さらにロケット弾を直撃軌道で放つ。
『比野』は機体を前に突っ込ませながら、アサルトライフルの弾を食らいながら、飛来してきたロケット弾に刀を振るって両断した。その断たれたロケット弾は接触弾頭だというのに、不思議なことに爆発しなかった。
『信管が作動しないように斬ったなんて!?』
キシは、自分の元となる人物にそんな手腕があるとは思えなかったが、目で見えるものが現実である。仮にまぐれの成功であろうと、必殺の一撃を交わされてしまったことには違いなかった。
キシは次のロケット弾を放とうとするが、もうすでに『比野』の機体は全周モニターに大写しになるほどの距離。それでも自爆覚悟で撃とうとするものの、先に刀でバズーカを切り捨てられてしまう。
『くうっ。離れろ!』
キシが下がりながらアサルトライフルで反撃すると、『比野』は刀の腹を向けながら顔面に柄を置き刃先が下になるよう構えながら追いすがってくる。
発射された弾丸は顔面狙いだったため、大半が刀の柄や握っている手に当たってしまい、有効打がなかった。
『ちぃええええええい!』
『比野』の布魔から鋭い声が発せられ、同時に声の倍する鋭さで刀が振り抜かれる。
軌道はキシの機体の顔面を斜めに斬り捨てるものだった。
キシは断たれたバズーカを盾にして刃を防ぎつつ、今度は『比野』がいるコックピットを狙うべくアサルトライフルの銃口の位置を変える。
弾丸を放とうと操縦桿のボタンに乗せていた指に力を入れるが、あまりにも距離が近すぎたため、相手に手で銃身を横に払われてしまった。
ここでキシは、再度アサルトライフルの逸れた銃身を戻そうとすると、バズーカの残骸を斬って抜けた刃が翻って襲ってくると判断。そこで、バズーカの残骸とアサルトライフルともども相手に投げつけた。
『比野』は構わず突っ込んで来ようとして、直前で刀を上に掲げた。
その掲げられた刃に、キシの布魔が抜いた刀が到来し、激しい衝突音を響かせる。
そしてそのまま、両機とも鍔迫り合いの格好になった。
何度もあったはずの勝ち筋を逃し続けて、キシは悔しそうが声を外部音声から出す。
『くそぅ。流石は俺の大元。機体の損傷を無視してでも勝ちを取りにいく判断が的確過ぎて、やりにくいったらない』
『そういうそちらは、俺の複製のクセに、機体の損傷を少なくなるような堅実な戦法を選んでいるよな。それじゃあ、俺の持ち味の半分が死んでるぞ』
『相打ちになってでも、相手を下す。それが『キシ』の戦法って言いたいんだろ。知っているよ、そんなことは』
しかし、この世界が現実であると知った今のキシには、そんな真似はできない。
いま『比野』がここで死んでも、彼の記憶は地球にいる本体に転移移植されて無事だろう。
だがキシが死ねば、この世界で暮らしてきた記憶――『知恵の月』の人たちと育んできた体験と経験の全てが無に帰してしまうことになる。
そんなことは、到底受け入れるわけにはいかなかった。
(一番いいのは、このミッションを潜り抜けて生還することだったけど……)
キシは鍔迫り合いを続けながら、サブモニターに映る機体の状況を確認する。
強い負荷がかかっている左腕の表示は、赤と黄色の点滅だが、赤色が表示される間隔が長くなってきている。その他、押し付け合いで力を入れているため、損傷がある左半身にも警告である黄色が広がりつつある。そしてバーニアの左半分は不調で、三次元戦闘は短時間しかできなくなっている。
キシは自機と相手の機体状況を考え、そして自分の腕前と『比野』のものを比べて、『勝てない』と判断を下す。
(勝てないのなら、次善策を使うしかない。いや――もともとは、これが本命だったといえるけど)
キシが覚悟を決めた瞬間、左腕の表示が点滅から赤一色に変わった。自機の左腕が力を失って、握っていた刀の鍔から脱落した。
その瞬間、『比野』が好機と見て、機体全体を使って刀を押し込んでくる。
『くのおおおお!』
キシは叫びながら操縦桿を操作して、顔面に迫りつつあった刃を、どうにか横に逸らすことに成功する。
しかし軌道が逸れた刃は、キシの布魔の左肩に深々と斬り入った。そしてそのまま、コックピットまでを両断しようと、ずぶずぶと入り続けていく。
決着まで時間がないと悟ったキシは、まだ動く左肩から肘までを使って相手に抱き着くと、刀を持つ右手を背後に回して刃先を自機に向ける。
『さて、上手くいくかは、やってみてからのお楽しみ!』
『何を言って――』
『比野』が訝しそうな声を出すが、キシは構わず抱き着いた敵機とも後ろに倒れるように自機を傾げさせながら、操縦桿のあるボタンを押し込んだ。
操縦桿からの命令が伝わったのは、キシの布魔の背中に配置されていた、キシが『知恵の月』の手引書を読みながら作った自作の『電磁波爆弾』二つだった。
命令を受けた二つの爆弾は、それぞれが爆発を決行しようとする。
しかし、手引書があったとはいえ、改造の才能がないキシの仕事だ。片方は爆発せずに煙を上げるだけだった。
それでも、キシの頑張りが通じたかのように、もう一発は正確に作動した。
キシの布魔、そして『比野』の布魔を包み込むように、爆弾からの電磁波が荒れ狂う。両機とも電子回路に負荷がかかってショートし、機能が停止する。
『なんだこの兵器は――』
『比野』からの疑問の声が途中で消え、両機とも停止した。だが動きが止まろうと、キシの布魔が後ろに倒れようとしていた勢いは止まらない。抱き着かれて引きずられている『比野』の布魔も同様にだ。
二機はもつれ合うようにして倒れていき、キシの布魔が後ろに回していた刀の柄が地面に接触。地面に固定された刀の刃先が、接していた自機に入り込み、内部機構を貫いていく。
キシは斬り入ってくる刃の音を聞きつつ、予備電源を使用してコックピットのハッチを開放した。
それから一秒後、キシがいるコックピットの右横から刃が生え、その刃先が覆いかぶさるように倒れてきている『比野』の布魔のコックピットへ斬り入る。
このままいけばコックピットを刺し貫くことができる――と思われたが、刃先がやや横にズレていて、『比野』がいるコックピットの全周モニターの左半分を斬り割きながら通り抜けていった。
『起死回生の一手が失敗に終わった』
そのように見えるが、これの状況こそが、キシの狙いだった。
折り重なるように倒れた二機の布魔。キシが開放したコックピットの前に、『比野』が乗る機体のコックピットが間近にある。
キシは後ろ向きに倒れているコックピットから這い上がると、相手のコックピットまでよじ登った。
刃でできた裂け目から中を見ると、非常灯の中で『負けた』という感情と『現状がわかっていない』という考えがないまぜになった表情をしている『比野』が見えた。
キシは、廃都市で『知恵の月』につかまったときのことを思い出して、思わず苦笑いする。
「おっと、こうしちゃいられない」
キシはコックピットの裂け目のうち、一番広い部分に頭を突っ込むと体を入れ込みながら、中にいる『比野』に声を掛ける
「ボーっとしてないで、中に引っ張り上げてくれ」
「えっ!? えっと、なんだこの状況!?」
わけがわからないと顔に書きながらも、『比野』はキシをコックピットの中に引っ張り入れた。
そうして、全く同じ顔と肉体を持つ二人が、狭いコックピットで対面することとなった。
事情が分からない『比野』は、困惑してキシに詰め寄っていく。
「いったい、これはどういう状況なんだ。ここに無理やり入ってきた君は、本当にNPCなのか!?」
「大ざっぱに言うと、俺たちがゲームだと思っていたこの世界は、現実の世界だ。といっても、異世界ってわけじゃなく、天の川銀河の中の別の惑星らしい。夜になるとそらに天の川が見えることから、これは間違いない」
衝撃的な事実だが、『比野』はあっさり受け入れることができなかったようだ。
「待ってくれ。この世界が現実だとして、じゃあ俺とそっくりかつ腕前も同一な君は、どうやってここに存在しているんだ。それこそ、俺の戦闘データを使ったNPCを作らないと、不可能なことじゃないか?」
「逆に効くが、初めて布魔にのり改造された布魔を鹵獲した、廃都市での攻防戦。そのときのことを、どれだけ覚えている?」
「日の丸の旗を見て、進行方向を変えたあたりだ。それがどうした?」
「その後で、この世界の現地住民に、俺は拘束されたんだよ。だから、この世界にいるんだ」
「……話は分かるが、やっぱり納得できない」
『比野』はまだメタリック・マニューバーズの世界はゲームだと思い込みたい様子だった。
本来なら理解してくれるまで説得することが自然なのだろうが、キシは早々に諦めてしまう。
「理解してくれなくていい。どうせ、嫌でもわかるようになるだろうから」
「それはどういう――」
「ほら。電磁波爆弾の影響が解消されて、布魔が再起動するぞ」
キシが笑顔で告げた直後、『比野』の布魔のコックピットの明るさが戻り、左側が破損している全周モニターも点いた。
その瞬間、座席の裏から激しい放電が始まった。
その電撃は『比野』を、そしてキシの頭を貫き、脳にある情報を読み取っていく。
二人とも電流のショックで自意識を失っているが、電流による体反射による筋収縮によって、肺に入っていた空気が絞り出されて声を上げる。
「「あががあがががあっがががが」」
しばし電流は流れ続け、やがて止まった。
コックピットの中には、電流で焼かれた臭いを放つ、まったく同じ顔と体を持つ死体が二つ。
そしてこれで、この発着場におけるバトルロイヤルイベントの決着が『相打ち』という形でついた。
イベントが終わって役目を果たした可動式の壁は、もう元の高さには戻らず、ずっと低いままに留まっている。
コックピットの破壊による自動帰還プログラムによって、『比野』の布魔は動き出し、その壁を乗り越えて自分が変えるべきカーゴへ向かって移動していく。
こうして発着場に残ったのは、崩れ落ちた建物の残骸と、いままでに倒された多数の人型兵器の躯に、自分の背中に刀を突きさして後ろ向きに倒れている誰も乗っていない布魔だけとなったのだった。