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百八話 VS『比野』前編

 キシは『比野』と対峙しながら、彼が乗る布魔を観察する。

 自分が乗る機体とは違って、腕と足にティシュー装甲を巻きつけてある。背部のバーニアも高速機のもの。損傷はなし。

 続けて武装を見ていく。手にはM-16に形が似たアサルトライフルを持ち、背中から顔の横にかけて刀の柄が伸びている。腰回りにあるアサルトライフルの予備弾倉マガジンの数を確認し――キシはおやっと疑問に思った。

 明らかに数が少なく、キシが見る限りでは三つしかなかった。

 その理由をキシが考えようとしていると、なにに注目しているのか悟られてしまったらしく、『比野』の方から答えがやってきた。


『十戦目のミッション参加者の多くが、ニセモノよりも本物と戦いたいからって、俺を挙って狙ってきたんだよ。他の世界大会出場者たちも、同じような理由で襲われたんだよ』


 だから、キシが壁の内側に籠っている間も、人型機械が発着場に侵入してこなかったのだ。

 そして世界大会出場者たちが手分けして邪魔な参加者を全滅させた後で、次は誰がキシと戦うかの代表者決定戦を行ったわけだ。

 それでも残ったのが『比野』というあたり、キシにとって自分の元だとはいえ、強すぎるだろうと感じずにはいられなかった。

 キシが警戒を続ける中、『比野』が乗る布魔が前に一歩足を踏み出す。


『これで、ここにいるのは俺たちだけ。そしてお互いの機体も布魔を改造したものだ。この勝敗で、どっちの腕前が上か完全決着といこうじゃないか』


 さらに『比野』が一歩近づいてきたところで、両者の距離はアサルトライフルの有効射程距離となった。

 すかさずキシが射撃する。

 アサルトライフルから三連続で放たれた弾丸は空中を飛び、『比野』の布魔の顔の横を通り過ぎていく。

 キシが外したのではない、『比野』が少し機体を傾けて避けたのだ。

 キシが再度狙いをつけようとするが、『比野』が近寄りながら射撃する方が早かった。


『狙いが正確だな。流石は俺の戦闘データを使っただけはある!』

『賞賛してくれて、ありがとうな!』


 お互いに機体を前へ後ろに移動させ、右に左にと振りながら、相手に向かって射撃していく。

 現時点で相手のいる場所を狙うのではなく、弾丸が到達する秒数分先の未来を予想しながらの射撃。並みのプレイヤーなら、一秒も持たずに直撃弾を食らってしまうほど、その狙いは正確無比である。

 しかし、メタリック・マニューバーズのトッププレイヤーともなれば、その予想を覆す動きをして避けることが可能だ。

 加えて、キシとその元となる『比野』は、機体性能に寄らない腕前だけなら世界一になった猛者だ。こうしたプレイヤースキルは熟達している。

 そのため、お互いに有効打を与えられないまま、アサルトライフルの弾が一弾倉分尽きた。


『あははっ。当たらないな! 流石は俺のデータ。倒し甲斐がある!』

『褒められても、嬉しくないっての』


 お互いに弾倉を交換した後、再び射撃する。

 今度は先ほどの攻防で得た相手の回避行動のパターンを組み込み、より射撃精度を上げての攻撃だ。

 そのため、お互いの機体の近くに銃弾が飛来する。それこそ、機体表面に弾丸が掠るほどの至近弾である。

 このままいけば、お互いの機体に弾が命中するはずで、それはほぼ同時に起こるはずだった。

 そんな未来を予想して、キシが動く。

 アサルトライフルの発射を三点射にしていたのだが、急に全射フルオートに設定を変えたのだ。

 射撃精度が落ちる悪手に感じるが、しかしキシには狙いがあった。

 『比野』の布魔になく、キシの布魔にはある武装――バズーカを使う気なのだ。


『食らえッ!』


 フルオート射撃で『比野』の行動半径を狭めたところで、バズーカからロケット弾を発射する。

 しかしロケット弾は弾丸よりも空中を飛ぶスピードが遅く『比野』ほどの腕前となれば、空中にあるロケット弾を撃ち落とすことも可能である。

 その妙技を見せようというかのように、『比野』の布魔はアサルトライフルの銃口をロケット弾へ向け――そして狙いをキシの布魔に向けなおした。

 どうして、撃たなかったのか。

 それは、ロケット弾が飛ぶ軌道が『比野』に直撃しないため、撃ち落とす必要がないからだ。

 そして『比野』がそう行動を決めるであろうことを、キシは読んでいた。

 空中を飛ぶロケット弾の尻目掛けて、キシはアサルトライフルにある弾倉内の最後の弾を撃った。

 二機の布魔の間で、弾丸で穿たれたロケット弾が爆発する。

 眩いオレンジの光と、黒い煙が上がった。

 そのせいで、両者は相手の機体が見えなくなる。

 ここで、両者の行動に差が生まれた。

 『比野』は安全をとって、爆発から離れるように後ろへ下がる。

 キシは逆に、爆発に迫るように機体を動かし、そして煙に包まれる直前で上空へと機体をバーニアで跳躍させた。

 煙の帯を引いて飛び上がったキシの布魔を見て、『比野』からは歓喜の声が発せられる。


『そっちも、三次元戦闘ができるんだな!?』


 その声に答えるように、キシは空中で飛ぶ方向を変えながら、バズーカを発射する。

 斜めに撃ち下ろされたロケット弾は、推進力に重力加速度が加わり、水平で撃つよりも早く相手に突き進む。

 『比野』はアサルトライフルで撃ち落とそうとするが、すぐに取り止めて、回避行動を取る。

 地面にロケット弾が着弾して爆発。もうその瞬間には、キシが次を放っていた。

 『比野』はバズーカが火を噴いた瞬間に回避行動に入ったが、その逃げる先を読まれていて、ロケット弾が直撃コースに入っていると悟る。


『三次元戦闘が誰もができるようになったら、バズーカやRPGの価値が変わるな!』


 『比野』は嬉しさの中に苦しさを滲ませて言いながら、自分の布魔を空中へと飛び上がらせる。空中に浮かぶ足の下を、ロケット弾が通過し、地面に当たって爆発が起こった。

 そして飛び上がった『比野』と入れ替わる形で、キシの布魔が地面に着地。すぐさま、アサルトライフルとバズーカの弾倉を交換する作業に入る。

 しかし、その作業を易々とさせるほど『比野』は甘くない。


『俺が初めてだったように、お前も三次元戦闘で狙われる経験はしたことないだろう!』


 頭上を飛び回る『比野』の布魔が、キシへ向かって射撃を始める。

 キシは動きが悪い左腕の所為で弾倉交換にもたつきながら、上空から降ってくるアサルトライフルの弾をスラローム移動で避け続けた。そして弾倉交換が終わった瞬間、反撃のためにアサルトライフルの銃口を『比野』へ向ける。

 しかし、上空で三次元戦闘を仕掛ける敵機を狙うのは、キシであってもとても難しかった。

 右に左に動くこともそうだが、その移動の中に自由落下分の下降や、逆にバーニアの噴射を多くして上昇が含まれるうえ、弾丸の到達時間を加味した偏差射撃をしなければいけない。まるで、空をひらひら飛ぶ蝶を撃ち落とそうとするような所業だ。

 いくらキシが腕前に自信があるといっても、これを当てるには少々無茶が過ぎた。

 逆に、空にいる『比野』は上空から、地面を逃げ回るキシを狙えばいい。戦闘ヘリが戦車の天敵である事実を考えれば、空からの射撃は、その逆に比べて圧倒的に楽に間違いない。

 しかし、それは空対地上での戦闘の話である。

 キシは空にいる『比野』にアサルトライフルの狙いを向けたまま、自身の布魔も空へと飛び上がらせた。

 こうして、メタリック・マニューバーズのゲームとしても、現実の砂と岩石の大地の上としても、恐らく初めてとなる人型機械がお互いに三次元戦闘を行う戦いが始まったのだった。

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