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百七話 最終戦

 十戦目開始時刻となったとき、キシは布魔のコックピットに座っていた。

 その目の下にはクマができており、全身から疲労感がタダ漏れになっている。


「九戦目の最後の砲撃機。なんもかんも吹き飛ばしてくれやがって。寝床は崩れた建物で埋まっているわ、シャッター建物に隠してあった武器も吹っ飛ばすわで、寝る暇がなかったぞまったく」


 キシはぶつくさ言いながら、爆撃を逃れたアサルトライフルの弾を入れた予備弾倉を機体にセットし、後ろ腰の収納部には自分の手で作らざるを得なくなった電磁波爆弾を二個収めた。疲労の回復と腹を膨らませるために、燃え残っていた缶詰とレトルトパウチを全て食べる。炎で焦げた部分があり、それが美味しかったことが、キシの顔に微笑みを作らせた。

 そこに、空から飛行機がやってきて、ボコボコになっている滑走路に着陸。穴に車輪を取られて、横転した。

 幸いなことに、あの飛行機の動力はリアクターが生み出す電力だ。地球の飛行機のように翼に燃料が積まれているわけではないので、転がって翼が折れようと爆発炎上することはない。


「今回の武器は、なにかなー」


 キシは食事で幾分マシになった顔色で呟くと、横転した飛行機の格納庫を開けた。

 収められていたのは、バズーカタイプの多弾倉タイプのロケット砲と、それ専用の一つに五発ロケットが入っている弾倉が十個だった。

 キシは、布魔がいま装備しているアサルトライフル、刀、電磁波爆弾を思い返し、そしてバズーカを持たせてみて、接近戦以外では人型機械を屠ることができないと判断した。


「そうなると、壁が高さを減らすまで、壁の上に立つ必要はないから、戦闘が有利に運べるように工夫するとしよう」


 キシは布魔にバズーカを右手に持たせ、ロケットの弾倉を一つ右腰の収納部に吊るす。そして残り九個の弾倉を、崩れた建物の各所と地面に倒れている人型機械の残骸の陰に配置していく。

 その作業の中で、生き残っている地雷がないかを探していくが、キシが覚えている限りの敷設場所は吹き飛んでいて、残っていそうもなかった。

 ロケットの弾倉を配置し終わった後、キシは豪胆にも崩れた建物に布魔を座らせて、仮眠をとるべく目を閉じる。

 キシだって、壁の向こうからやってくる戦闘音が気になるし、どんな相手がやってくるかも心配だった。

 しかし、昨日の九戦の最後――砲撃機が雨あられと砲弾を降らせてきた際、布魔の近くに榴弾が落ちて爆発した。その際にまき散らされた破片によって、左半身に損傷を負い、背中のバーニアにも損害が入っていた。そのため、布魔の推進力は健全時の八割ほどとなっている。

 そのため、この推進力では、戦闘開始直後の壁の高さまで飛び上がるのは無理なため、気になろうと見ることができないのだ。

 だからこそ、見れないものを見ようとして気をやきもきさせたり、機体を酷使するのではなく、キシは疲労を少しでも回復させようと仮眠をとることにしたのだ。

 そうして目をつぶること五分ほど。

 地揺れが起き、発着場周辺にある壁の高さが一段階下がった。

 キシは揺れを感じて起き、布魔の操縦桿を握り直す。


「九戦目よりも、壁の高さが下がる時間が早い。世界大会出場者レベルのプレイヤーが、より多く参加しているようだな」


 キシは壁の上に飛び乗って戦況を見ようかと考えたが、すぐに取りやめた。

 万全の調子ではない布魔で不用意に姿を晒せば、狙撃の的になってしまう。そして世界大会出場者レベルの狙撃手がいた場合、良い的過ぎて致命的ですらある。

 だからこそキシは、建物のがれきの前に立ったまま、壁を乗り越えてくるであろう高速機たちを待つことにした。

 それから三分後、壁を乗り越えた一機目が現れた。


『一番乗りだぜ!』


 風防のような薄い装甲を持つ、軽量化のために手足の長さを切り詰めた、ずんぐりとした形の機体。蝶の羽にも見える機体を超える大型のバーニアを含めて見ると、機械仕掛けの要請に見えないこともない姿をしていた。

 その機体は手にある軽機関銃を打ちながら、布魔に突っ込んでくる。

 しかし、布魔がいる場所は崩れた建物――つまりは発着場の敷地の中心部。壁からはやや距離がある場所であり、軽機関銃の射程の外だった。

 キシは冷静に間合いを図ると、布魔の左手にあるアサルトライフルを発射する。

 左腕の不調を考慮に入れた射撃は、狙い通りに妖精型の機体に命中し、その活動を停止させた。

 その戦果を確認するのも束の間に、次の機体が壁の上に現れる。

 キシが咄嗟にバズーカの先を向けるが、そのナイフのようにシャープな見た目の白い高速機は、妖精型の機体が倒されているのを感覚器で確認し、片手を布魔へ向かって上げると壁の向こうへ戻っていった。

 その行動は、取り逃がした獲物を布魔が倒したことに感謝しているようだった。

 そしてキシは、あの機体の行動の意味を、こう受け取った。


「有力なプレイヤーがその他のプレイヤーたちを倒しきるまで、俺の出番はこれ以降ないってことだろうな」


 キシは疲労感を追い出すように息を吐きだすと、目をつぶって仮眠に戻った。

 それからすぐに壁の高さがまた一段階下がったが、キシは目を開けさえもしない。

 そうして壁の高さが下がり切るまで、ずっとコックピットの座席で寝息を立てて続けたのだった。



 壁の高さが下がりきり、壁の向こうからの戦闘音が小さくなってから、キシは目を開けた。

 顔にあった疲労感はすっかり抜けて、目の下の薄くなったクマが名残を残すのみだ。

 キシはコックピットの中で背伸びしながら、周囲を確認する。


「んう~、はぁ~。さてさて、今回は何機相手にしなきゃいけないのかな。できれば、初っ端に俺が指名した『比野』が出てきてくれると助かる――いや、彼が出てくるのは最後の方がいいかな?」


 キシは首を傾げつつ、操縦桿を握り直して、布魔に周囲の警戒をさせる。


(いまある戦闘音は三か所――順当に勝ち残れば、三機が俺の相手ってことになるか?)


 キシは少し戦況が気になって、人型機械の半分ほどの高さでしかなくなっている壁に向かって、半腰体勢で布魔を進ませた。

 壁の裏に隠れながら戦闘音がする方向を確認すると、二機が激しく戦っているところだった。

 そしてキシは、その二機に見覚えがあった。


「昨年度の世界大会ロシア代表の『ヴァルルカ』と機体の『白熊ベリィミドヴッド』に、一昨年度の中国代表の『コチョン』が操る『シィロン』か。」


 白熊はザウルス系の機体をシロクマの姿に改造した機体で、その爪と牙の破壊力と、謎の技術で弾丸と刃を弾く毛皮を持つ猛者だ。この毛皮を解析してできた一般向け装備が、布魔に使われていたティシュー装甲ではないかとささやかれている存在でもある。

 一方のシィロンは、金色の龍を装甲の装飾に入れている人型機械で、戦闘方法は銃と盾を使うという、機体の派手さとは裏腹に堅実な試合運びをしている。入れ替わりが激しい中国大会の事情から、昨年の予選は一回戦負けになってしまい、終わった人という評価をつけられてしまっていた。

 両者の戦いは一進一退が続いていたが、ふとした隙を見逃さなかった白熊がシィロンの脚を爪で抉って機動力を削ぎ、そこから一気に勝負を決めた。

 勝ち残った白熊が、このまま発着場に入ってくるかと思いきや、なぜかその場で待機している。

 キシが不思議に思っていると、他の戦場からの音が止んでいて、そして白熊がいる場所へと近づいてくるバーニアの音がしていた。

 観察を続けていると、二機の人型機械が、それぞれ別方向から現れて、白熊から一定距離で停止する。

 一機は、キシが妖精型の機体を倒したときに見た、白いナイフのようにシャープな造形の高速機。硬質な見た目と尖った外観から、白水晶で人形を作ったような印象を受ける機体だ。

 もう一機は、キシが良く知っている機体――布魔。頭部の鉢金の部分に日の丸印がペイントされていることから、キシが人型機械の親玉に要望を出して参加させた『比野』であることは間違いない。

 その三機が、示し合わせたように一堂に会し、そして全機が一斉に攻撃を始める。

 三つ巴戦だ。

 布魔と白い高速機が白熊を襲い、その途中で布魔と白い機体が互いに銃を向け合う。攻撃されていた白熊は、白い機体の方が劣勢とみて加勢していくが、ふとした瞬間に布魔に爪を振るう。白い機体と白熊に襲われる布魔は、上空に逃れて三次元戦闘に入って二機ともに銃弾を浴びせた。

 布魔が少し遠くまで移動したところで、白い機体と白熊が互いに攻撃を始めた。白熊の爪が唸り牙が繰り出される。白い機体はダーツ銃と透明な刃の剣を振るって攻撃する。しかし、一撃食らえば不利となる白い機体の方が不利と見てわかった。

 そのためか、『比野』が乗る布魔は横合いから白熊を銃で攻撃する。白熊は、蜂に襲われた熊のように、やってくる銃弾を煩わしそうに身震いして防御する。その間に、白い機体の剣の切っ先が、白熊の目にあたる感覚器の片方を破壊する。


『グウウウウウオオオオオオオオ!』


 自動設定されていたのか、それともパイロットが操作したのか、白熊から悲鳴に似た声が上がる。

 それが単なる警笛の類だと知る、白い機体に乗るプレイヤーと布魔の『比野』は、躊躇いなく次の攻撃に入る。

 白い機体は剣を振って白熊を仕留めようとし、そして布魔はそんな白い機体の胴体を狙って銃撃した。

 白い機体は高速機で、装甲は薄い。不意打ちで食らったアサルトライフルの弾は、機体フレームとコックピットまで達し、戦闘不能に陥らせる。

 透明な剣を防御しようと頭を抱えていた白熊は、突如攻撃がなくなったことに瞬間的には対応できなかった。

 その数瞬の隙を、『比野』は横合いから突いた。抜いた刀を白熊の横腹に突き入れたのだ。

 この光景を見ていたキシは知っていた。地球にいたときに読んだ『世界大会出場者徹底解剖』という記事によると、布魔が刀を差したその部分に、白熊のコックピットがあるはずだった。

 キシが知っていることは、元となる『比野』も知っていることで、狙ってコックピットを破壊したのだと理解できた。

 こうして、短いながらも濃密な内容の三つ巴戦は終わりを告げ、『比野』が漁夫の利を得て勝者となった。

 『比野』が乗る布魔はアサルトライフルの弾倉を交換しながら、キシが隠れている場所に顔を向けてくる。


『さて、再戦と行こうじゃないか。今回はお互いの機体のスペックに差はさほどない。これでどちらの腕が上か、ハッキリするよね』


 隠れて見ていることに気付かれたと感じ、キシは布魔を壁の裏側から立ち上がらせた。


『悪いけど、今回は勝たせてもらうよ。俺なりの方法でね』

『それは楽しみだ。俺の戦闘データを使ったNPCがどこまでやれるか、見させてもらうとするよ』


 キシの布魔がバズーカを向け、『比野』の布魔がアサルトライフルを向ける。

 こうして、最終戦の最終決戦は始まったのだった。

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