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百六話 九戦目・地球側

 発着場での特殊NPCが参加するバトルロイヤルイベント。

 その八戦目が終わった。

 世界中にあるメタリック・マニューバーズの店舗にあるモニターにて、その戦いの模様を見ていた客たちが、一様にため息をつく。

 そして、専用の掲示板に書き込みを行う。


『あのNPC強すぎじゃないか?』

『そう思って、たまたま隣で見ていた世界大会出場者に聞いたら、あれぐらい俺でも出来るって豪語してくれたよ。対戦相手が弱すぎるってさ』

『マジか。地獄なんだな、世界大会の戦場って。っていうか、なんでそんな大物が隣に居るんだよ』

『九戦目に出るからだってさ。でも、世界大会用の機体は契約上使えないからって、サブ機体を使うそうだけどね』

『それってプロ契約しているプレイヤーってことか。これはとうとう、あのNPCも年貢の納め時かもな』


 談義が賑わう中、四機の人型機械と戦ったNPC布魔の動きだけを切り抜いた映像が、掲示板にアップされた。


『右手と左手の反応が違うな。どうやら左腕は故障中みたいだ』

『それは七戦目の傷だな。ってことは、損傷は蓄積されるようだな』

『そうなると、第八戦の灰色の機体。あれは惜しかった。もうちょっと手榴弾を隠し投げることが上手だったなら、NPC布魔のバーニアを壊すこともできたのに』

『バーニアが壊れた布魔なんて、空を飛べない小鳥も同じ。つるべ打ちで仕留められるぜ』

『それは全ての人型機械に言えることだろうに』


 少しの間、言い合いの文字が並び、やがて自然に終息する。

 次の話題は、布魔が使っている武器についてだった。


『それぞれの戦いで、あの布魔は、最初色々な武器で遠距離攻撃してきているけど、すごい精度だよな。AI制御なら、プレイヤーの補助プログラムとしてほしいぐらいだよ』

『パワードスーツ操縦式だとしたら諦めろ。あの布魔の挙動は、間違いなく操縦桿式だからな。流用できたとしても、競合が起こるだろうさ』

『補助プログラムの件はどうでもいいけど、あのNPCはどんな武器を使っても隙がなさすぎじゃないか。いくらAIとはいえ、非人間的過ぎるだろ』

『ところがどっこい。そのAIの元となった人と戦ったことがあるプレイヤーによるとだね。初めて扱う武器を渡しても、一回目で高水準の技量を発揮するんだと。二回目三回目ともなれば、もうタツジン級なんだとさ』

『……そいつって、本当に人間か? アンドロイドとか、脳みそを強化した人間とかじゃないのか?』

『この人が、そんな人物に見えるか? つ『画像URL』』


 掲示板に貼られたのは、第一号店に出勤してきたばかりの、制服を着た比野の姿。黒い線が目に引かれているが、口元と顔の輪郭から困った顔をしていることが伝わってくる。


『人間だな、間違いなく。口に開閉用の線がないしな』

『あまりパッとしない印象だよな。日本人は全体的に顔の彫りが薄いから、そう思うのかもしれないけど』

『ちょうどそこに元となった人間がいるなら、いま発着場にいるNPCと本人どっちが強いと思うか聞いてみてくれよ』

『ちょっとまって――』


 見ている人たちが固唾をのんで待っているかのように、掲示板に投稿される文字が止まった。


『――お待たせ。前に戦って勝ったことがあるんだって。でも、そのときのNPCはファウンダー・エクスリッチを使っていたから、機体性能の差が大きかったから参考にならないだろうって。けど、このミッションの十戦目に本人がNPCが使うのと同じ布魔で出るから、そのときにどっちの腕前が上か判別できるだろうってさ』

『おおー、それはいい情報だ』

『十戦目が楽しみだな!』

『って、おい。九戦目でNPCが倒されたら、十戦目はないってこと忘れるなよ』

『そういえば、九戦目に世界大会出場者が出るって、さっき書き込みがあったっけ』

『これは、本人対NPCを見るために、九戦目の参加者が良いところないままに終わることをお祈りしないとな』

『天にまします我らの父よ』

『エロエロエッサイム』

『イア、クトゥグア』

『にゃるしゅたん、にゃるがさぁんな』

『どんな神に祈ろうと構わないが、大波乱が起こるからニャル様だけは止めろよな!』

『ん? お前の後ろ、三つ目の美女がいないか?』

『いやいや、黒い肌だけど欧州系の顔立ちの大男がいるはずだ』

『お前の愛犬、部屋の角から生まれてね?』

『やめろー! マジで怖くなるからやめろー!』


 邪神系の話題で盛り上がり、それがサブカル論に転じ、お気に入りのアニメから、メタリック・マニューバーズの機体を女体化したメカ娘の話題へ。

 そんな風に時が流れていき、やがて九戦目の開始時間となった。


『お、始まるようだな。参加者一覧の中で、見知った人はいるか?』

『んーとー……お、世界大会で欧州代表だったプレイヤーが居ねえか?』

『えっ、本当に? どこどこ?』

『あ、発見した! それだけじゃなく、東アジア圏代表のオーストラリア人もいたぞ!』

『前年度の中央アジアの代表の名前もあるぞ』

『これで、世界大会代表者が三名か。戦場が荒れるな』

『ニャル様の祟りだ。もうダメだ、お終いだァ……』

『まあまあ、勝負は下駄を預けるまで分からないっていうだろ』

『それを言うなら下駄を履くまでだろ。預ける方は、相手の思うがままにされるって感じの意味だぞ』

『この戦場をニャル様が見ているなら、あながち間違いじゃなくねえか?』


 またもや、ああだこうだと邪神についての論議が始まるが、それは戦いが始まるまでだった。


『待った。交戦可能地域に機体が入ったぞ。ここからは、話題を逸らすの禁止だからな』

『わかってるって――って、もう一機撃破されちまったぞ』

『矢だ! 壁の上にいる布魔ヤロウ、弓矢装備だ!』

『うっわー、渋い武器使っちゃってまあ。人型機械用の機械式強弓とはいえ、高速機を曲射で当てるかね』

『でも、実は弓矢って厄介な武器なんだぜ。発砲音もしなければ、発砲光もないから、避けるタイミングが難しいんだよ』

『しかも弓の先は爆発物ってのがデフォルトだからな。当てることさえできれば、グレネードの直撃を食らわせるのと同じことだしな』

『欠点は、連射性のなさと、射程距離がアサルトライフル以上で狙撃銃未満という、圧倒的なまでに扱いにくいことだよな』

『矢の飛ぶ速さが銃弾よりも遅いことも欠点だ。敵機までの到達時間が長いから、偏差予測が上手くなきゃ当てられない』

『あのNPCは楽々と当てているけど?』

『……ヘンタイなんだよ、あのNPCと、その元になった人間は』

『ちゃんと考察するなら、壁に向かおうとしている高速機の動きが直線的過ぎたことが、弓矢を当てられた原因だな。それと布魔の武器が弓矢だと馬鹿にして、一機撃破された後も移動を優先する挙動を続けていることも――ほら、また撃破された』


 矢が突き刺さった胴体が爆発して、高速機の一機が砂の地面に転がった。


『どんな武器を相手が持っていようと、大砲を向けられていると思って回避するほうが生存率が上がるってわけだな』

『これからは弓矢が流行るな』

『一瞬だけ流行って、コアなファンになったヤツ以外は銃に戻るまでがテンプレだな』

『ここでようやく、高速機たちが真面目に回避行動に入ったぞ。おや、布魔が弓矢を放たなくなったな』

『あれだけ確りとした回避行動をされたら、流石のNPCも対応できないって事だろうな』

『それじゃあ、弓矢の活躍はこれで終わりってこと?』

『どうだろう。高速機がもっと壁際に近づいてくれば、当てられるようになるんじゃないか?』

『布魔の行動も気になるところだけど、中速度帯の機体たちが交戦可能地域に入ったぞ! そして大混戦が起こってる!』


 この戦いに参加している世界大会出場経験者の内の二名が、率先して他の機体を狩っていく。

 その二機だけでなく、世界的には無名でも、国の中や地域内では有名なプレイヤーも奮戦して、撃破数を積み上げていっている。


『おいおい。機体数が溶けるスピードが、八戦目と比べても段違いだぞ』

『あっ、もう壁の高さが下がった!』

『一段下がるのに、四分の一の機体の撃破が必要――ってことは、もう二十五機が倒されたってことか』

『遅れて入ってきた三人目の世界大会出場者――オーストラリア人の牛型の頭部を持つ人型機械が強い。大型ハンマーで、接近戦を挑んでやがるぞ!』

『その機体は重装甲機のはずだろ。どうしてこんなに早く交戦可能地域に入れたんだ!?』

『使い捨ての高速移動専用のバーニアを増設してあったみたいだ。空になったタンクと共にパージされて、地面に転がっている』

『バーニア増設するぐらいなら、サンドボードを素直に使えってんだよ』

『どうせ、あの中世鎧っぽい外見を隠すのが嫌だったんだろうよ。牛の角が生えた頭部といい、自己顕示欲が強そうだし』

『あっ、ハンマーが機体にめり込んで抜けなくなって――回転式機関砲ガトリングを取り出した!?』

『横なぎ射撃で一掃しやがったよ。当たり所が良くて動ける機体には、後追いで追撃してやがる』

『また壁の高さが一段階減ったぞ。布魔は相変わらず弓矢装備のままで戦ってるな』

『遠距離戦ではなく、近距離戦で矢を使う気のようだな。ほら、跳びかかってきた高速機が、逆に矢で狙撃されて撃墜されている』


 しかし倒されるのは、布魔が向いている方向の機体のみ。

 その区画外から発着場にたどり着いた高速機は、壁を乗り越えて敷地内へと入り、壁の上に立っている布魔に後ろから近寄ろうと移動を始める。

 そして、敷設されていた地雷を踏んで片足が吹っ飛ぶものが続出した。


『うはー。見事なまでに踏んだな』

『高速機のプレイヤーが無能なんじゃなくて、嫌らしい場所に設置されいるんだぞ。壁のどこから侵入しても、直線的に移動すれば必ず一個踏むように配置されていると見た』

『安全なのは滑走路だけだけど、壁を乗り越えて直接行ける場所は、布魔が押さえているわけか』

『そして地雷を踏んだり、地雷を銃弾とかで爆発撤去したら、壁の上にいる布魔に居場所を悟られて――ほら、弓矢が飛んできた』

『片足が吹っ飛んで動けない機体を、爆薬付きの弓矢で爆撃か。えげつないな』

『建物の陰に背中を預けるように隠れる機体もいるが、それは相手が銃を持っているときの隠れ方だぞ。弓矢の場合は曲射があるから、腕前さえあれば、隠れている相手にも充てられる』


 掲示板に書き込まれた内容の通りに、布魔は上空へと狙いの先を向けたままで矢を放つ。

 機械巻き上げ式の複合弓が溜めていた張力が解き放たれ、矢は音速間際のスピードで上空へと飛び去る。

 しかし重力加速度によって速度が減じられていき、最高到達点に達した後、矢の先端を下向きにして自由落下に入った。

 そうして地面へと向かって落ちていき、建物の壁際に座っていた高速機の股の部分に直撃し、矢の先にある爆薬が接触作動して爆発を引き起こした。


『うっわー、股間に直撃かよ。タマひゅん案件だぞ、これ』

『あの布魔に乗っているの、弓矢使うスーパーヒーローの人じゃね?』

『おいおい。あの機体を動かしているのはNPCだぞ。現実の人間じゃない』

『なら、元となった人物が、実はスーパーヒーローなんだろ?』

『アメコミの弓矢使いが、日本人だったとは知らなかった。ってか、アメコミ自体、フィクションだからな!』


 NPC布魔が発揮した弓矢の腕前に興奮する、掲示板参加者。

 その間にも戦場は動き続けており、ほとんどの高速機を布魔に、中速度帯機体たちは世界大会出場者の三人が倒してしまっていた。

 ここでようやく、遅ればせながらに、重装甲機と砲撃機が交戦可能地域に入ってくる。

 布魔の方は、弓矢の射程圏外なので観察に徹する構えを見せる。

 一方で世界大会出場の三名は、自分から重装甲機と砲撃機を打ち倒そうと発進する。

 ばら撒かれる機関砲の弾と、降ってくる砲弾をかいくぐって、世界大会出場者たちは攻撃を仕掛ける。

 一機、また一機と、重装甲機と砲撃機が倒れていく。

 その光景を見ていた観客たちは、掲示板で諦めに似た内容を書き込む。


『これはもう、あの三人が布魔の挑戦者に決定だろうな』

『流石は世界大会出場者だけあり、他の人たちと三段ぐらいレベルが違ったよな』

『それにしても、重装甲機と砲撃機は可哀そうだよな。このミッションの、ここまでの戦いの中で、活躍した場面がほぼ皆無だぜ』

『これは、今後その二種の機体を使うプレイヤーが減るって事態になりそうだよな』

『ここで、砲撃機に上手い人が隠れていて、世界大会出場者を一掃したら面白いのにな』


 そんな書き込みがあった直後、上空から飛来してきた砲弾が、牛の頭部を持つ機体に直撃し大爆発を引き起こした。

 予想外の光景に、掲示板の文字の書き込みが数秒止まる。

 そして再び動き出す。


『流れ弾にしては、直撃過ぎるだろ! 不運なんて言葉じゃ言い表せないぞ!』

『>砲撃機に上手い人が隠れていて~ って発言したお前、邪神に祈ってたヤツだろ! 本当にニャル様と交信してんじゃねえよ!!』

『俺の所為にするな! っていうか、本当に上手い人が砲撃機に入っていたって可能性があるだろ!』

『さっきの砲撃は誰の弾だ! 見ていたやつはいないか!?』


 てんやわんやの掲示板参加者を尻目に、戦場はまた動きを見せる。

 順調に重装甲機と砲撃機を屠っていた、世界大会出場者の二名が苦戦を始めたのだ。

 見れば、生き残りの重装甲機と砲撃機たちが結託して、二名を打ち倒そうと頑張っている。


『機関砲の制圧射撃に、榴弾による範囲爆撃。上手い。狙いも正確だぞ!』

『この動き。指揮官がいるはずだ!』

『たぶん、この唯一攻撃をしていない砲撃機が指揮官だ!』


 画面を携帯端末で撮影した画像が投稿され、そこにはドーラ列車砲に腕をくっつけて人型機械のサイズまでダウンサイジング化したような、砲撃機が映し出されていた。


『この機体、見たことがある。たしか、欧州大会に出場していたはずだ』

『調べてみたら、あったぞ。前年度、欧州大会三位。砲撃機一筋でプレイし続ける、あと一歩で世界大会を逃したプレイヤーだ!』

『実質、世界大会出場者レベルってことか。なら、この試合展開も頷ける』

『あっ、ちびドーラが砲撃したぞ!』


 空高くへと打ち上がった砲弾が、時間をかけて地上に降りてくる。

 その間にも、ちびドーラと仮称された機体に乗るプレイヤーの指示で、重装甲機と砲撃機たちは世界大会出場者の二人へ攻撃を加え続ける。

 展開される弾雨には薄いところが意図的に仕組まれていて、世界大会出場者たちはその薄い場所を移動するようになっていく。

 そして、弾雨で誘導されてしまった地点に、高高度から振ってきた砲弾が突き刺さり、大爆発を起こす。

 世界大会出場者のうちの片方が、その爆発に巻き込まれて機体が消失した。

 世界大会出場者を追い詰めつつある状況に、ちびドーラのプレイヤーは冷静に指示を続行する。しかし、ここまで従ってきた他のプレイヤーたちは、望外の戦果に我を忘れて、指示が耳に入らなくなってしまっていた。


『うわっちゃー。ここで的確に包囲殲滅できれば、重装甲機と砲撃機の連合が勝ったのに』

『戦果に逸った人の、なんとも脆いことよな』


 世界大会出場者なら相手が組織戦闘でこなければ後れは取らないとばかりに、戦況が巻き返されていく。

 巧みなナイフ捌きで重装甲機を倒し、倒した機体を盾にして銃弾を防ぎつつ接近し、さらに刃で別の機体を屠っていく。砲撃機に対しては、最大推進で接近して、コックピットないしは顔面に銃弾を叩き込んで無力化する。

 統制下にあった戦場が、再び混沌となりつつある。

 そう悟った、ちびドーラのプレイヤーは、非情な決断を行った。


『砲撃した! でも、生き残っている世界大会出場は、重装甲機と激しい攻防中だぞ!』

『仲間だった者ごと、爆殺させる気だ!』


 盛り上がる掲示板に書き込まれた通りに、上空から降ってきた砲弾は、世界大会出場者と重装甲機二機を巻き添えにして爆発した。

 爆発に巻き込まれた三機は、この一撃で戦闘不能。

 生き残っているのは、ちびドーラの他には、重装甲機二機と砲撃機が一機のみ。

 そして、他の三機は砲撃の衝撃映像に驚いているようで、身動きを取ることを忘れている。

 ここで、ちびドーラは機体に備わっている二本の腕を動かす。

 機体の収納部に収めてあった、二門式の機関砲を左右の手に一つずつ持つと、動けていない他の機体たち目掛けて弾を撃ち込んだ。

 狙われた機体たちに大穴が生まれ、戦闘不能になる。

 こうして九戦目の決着は、ちびドーラとNPC布魔の戦いとなった。


『砲撃機なら、布魔の弓矢が届かない位置から攻撃するのが定石だよな』

『脚部が大きくて回避行動を取りにくそうだから、まずは砲撃で発着場内の地雷を撤去するはずだ』


 掲示板に書き込まれた見解の通りに、ちびドーラは長い砲身から砲撃を行う。何度となく行う。

 狙い通りに、低くなった壁に囲まれている発着場へ、砲弾が間断なく撃ち込まれる。


『建物を吹っ飛ばしたり、敷設されてあった地雷に命中して大爆発を起こしたり、滑走路をボコボコにへこませたりと、容赦ないな』

『これはもう発着場じゃなくて、爆撃場だよな』

『布魔は壁の陰に身を潜めているな。榴弾の仕組みからすると、あれじゃ爆発から機体を守るには不十分だ。タコ穴に潜りたいところだな』

『こんな状況でも弓矢を手放していないのは、他の武器や弾薬がないからかもしれないな』


 観客が見守る中、ちびドーラが移動を始める。発着場に近寄りつつ、砲撃を続ける様子だ。


『砲弾の残数があるうちに接近しておいて、弾切れになったと同時に、機関砲を持って突撃する気だな』

『上手いことに、壁際にも砲弾を撃ち込んでやがる。それで倒せるならよし、ダメでも布魔の隠れ場所が限られる!』

『流石は砲撃機で世界大会にあと一歩で出られた実力者だけはあるな。砲撃機の戦い方を心得てやがる』


 これは布魔の負けで勝負は決定だなと、掲示板参加者の誰もが考えた。

 しかしその考えを、上空から飛来してきた一本の矢が変える。


『うおおおお! 布魔からの反撃だ! しかも、ちびドーラの車輪に直撃してやがる!』

『弓矢が爆発して、ちびドーラが擱座した! これでもう動けない!』

『おい、いつ弓矢を放ったんだ!? ってか、有効射程距離だったのか!?』

『ちびドーラが射程圏内に入った瞬間に、弓矢が空から降ってきたんだよ! ってことは、ちびドーラの行動を予測して、あらかじめ放っていたってことだ!』

『うっはっ、笑える! どんな腕してやがんだよ、布魔のNPCは!』

『このハチャメチャな試合展開には、ニャル様もにっこりだろ!』

『邪神ネタはもうイイってば!』


 今日一番に盛り上がる掲示板。

 戦いの方は、ちびドーラがまだまだ諦めない様子だ。


『擱座した状態から、砲弾の弾が尽きるまで撃つ気だぞ! あと、機関砲も乱射している!』

『布魔の方は、壁の防御力が半端ないことを信用して、相手の弾切れを待つ構えだな』

『これは怖いぞ。まぐれの一発が降ってくれば布魔の負け。弾が尽きれば、ちびドーラの負けで決まる戦いだ』


 固唾をのんで見守ること三分――布魔の近くに砲弾が落ちたシーンはあれど、直撃弾はなかった。

 そして、ちびドーラの弾は尽きてしまっていた。

 その瞬間、発着場の壁が元の高さへと戻り始めた。ちびドーラのプレイヤーが、ミッション放棄の操作を行い、布魔の勝ちが決定したからだ。


『決着の部分は、ちょっとだけ銛足りなかったけど、大満足の戦闘内容だったよな』

『手に汗握ったよな。特に、布魔の近くに砲弾が落ちたときなんか、周りの観戦者たちも「うわーー!」って悲鳴を上げてたぜ!』

『それに比べて、鳴り物入りで入ってきた世界大会出場者たちの、情けないこと!』

『おいおい、それは言わない約束ってもんだぜ。むしろ、ちびドーラのパイロットを賞賛するべきだ』

『次の世界大会には出ろよ、ちびドーラ! そして、欲も生き延びやがったな、NPC布魔!』

『だが、最終戦たる十戦目は、今回の比じゃないほど、世界大会出場者たちが出るという噂がある! NPCの命運もここまでだぞ!』

『……お前ら、誰に向かって言ってるんだ?』

『そりゃあもちろん、十戦目に出るプレイヤーに対して、檄文を送ってんだよ』

『もしくは、NPCの元になったっていう人物に対してだな。お前の戦闘データの所為でこんな事態になっているんだから、人間様はAIよりもやれるってところを見せて欲しいってことさ』


 ここからも掲示板は話題で盛り上がり、十戦目はどんな内容で進むのかという議論が始まる。

 そうして時間が経ち、十戦目が開始される時刻となったのだった。

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