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百三話 VSガンマン・ザ・グローリィ、深緑色機

 キシは発着場の滑走路で待っていると、真っ赤な色の人型機械が一番にやってきた。

 東アメリカ代表経験者グリンプがで操る、ガンマン・ザ・グローリィである。


『ようよう! お待たせしちゃったかな?』


 右手を、銃を持ったまま、頭部の高さで振りながら近寄ってくる。

 キシは左手を振り返してから、その手で掛かってくるようにと手招きした。


『くふふっ。挨拶はいいからかかって来いって? 好戦的で嬉しいねえ!』


 高速機らしく背部バーニアを最大噴射しながら、ガンマン・ザ・グローリィが距離を詰めてくる。

 向こうが使う拳銃よりも、キシの布魔が持つアサルトライフルの方が射程距離と有効射程距離が長い。

 間合いに踏み込んできた瞬間に、キシはアサルトライフルを三点射で発砲した。

 しかし、ガンマン・ザ・グローリィは高跳びの背面跳びのような跳び方で、銃弾を回避してみせる。


『そっちの狙いは正確だって知っているんだ。顔面とコックピットを標的からずらすような挙動をとれば、避けられるって寸法だよねえ!』


 グリンプは外部音声でキシの失態をなじるように言いながら、拳銃の間合いに布魔を捕らえる。


『バン! バン! バン!!』


 音声で発射音を言いながらの射撃。その声と発射のタイミングがずれていることに、いやらしさが感じられる。

 キシは布魔に後ろへスラローム移動させつつ、アサルトライフルで反撃する。そこで、ひとつの気づきを得た。


「左腕の挙動が鈍くて、狙いがずれたか。やっぱり、素人修理じゃ動かすようにするだけが限界だったな」


 前日までの布魔の動きとの違いを知って、キシはすぐに感覚を合わせる。この適応力の早さこそが、キシを世界大会二部門で優勝に導いた点だ。

 キシはアサルトライフルで射撃を続けながら、弾倉交換のタイミングで、銃を左手だけに持たせる。右手と左手の挙動が違うため、片手撃ちをした方が当てやすいと判断したのだ。

 その試みは当たり、拳銃を放ってくる赤い機体の胸元に、着弾の火花が一つ散った。


『ぐうっ、当ててきただと!? このNPCは噂通りに、世界大会出場者レベルの腕前か!!』


 口調に嬉しさを滲ませながら、ガンマン・ザ・グローリィは拳銃を交換しながら追いすがってくる。

 後ろ向きにスラロームで走る布魔と、直線的な動きで直進と回避を繰り返すガンマン・ザ・グローリィ。両者の距離は時間とともに縮まっていく。

 完全に拳銃の有効射程距離に入ってしまっていることに、キシは嫌そうな顔になる。


「この距離は向こうの得意な戦場だ。こちらの回避挙動に慣れてきたら、直撃を与えてきそうだな」


 キシはあまり長々と付き合っていると、自分の不利になると悟り、ここで一気に勝負を決めに行く。

 まずは、布魔の背部につけていた手りゅう弾を三つ、ガンマン・ザ・グローリィとの間に転がした。

 手榴弾は滑走路に落ちると即発し、爆炎と爆風、そして破片を周囲にまき散らす。

 これに、ガンマン・ザ・グローリィのコックピットのグリンプが焦る。


『高速機の装甲の薄さを狙ってきたわけだねえ!』


 ガンマン・ザ・グローリィは急制動をかけ、爆炎の効果範囲には入らなかった。しかし飛んできた破片までは避けきれず、機体装甲に多数の火花が散る。壊されたら戦闘不能となる頭部とコックピット部分は、腕で隠して防いでいる。

 しかし、停止したままでは、いい的だ。

 ガンマン・ザ・グローリィはバーニアを再噴射させて、あえて爆炎が収まり煙だけとなった手榴弾の爆発痕に突っ込む。

 黒い煙を突き抜け、その先にいるはずの布魔に拳銃の照準を合わせようとする。

 だが視界の先に、その機影は見当たらなかった。


『んな!? どこにいった!?』


 驚きつつも、ガンマン・ザ・グローリィを立ち止まらせずに回避行動を取らせていたのは、流石は東アメリカ代表だったこともある者の操作技術である。

 しかし、グリンプの予想外のことが起こる。ガンマン・ザ・グローリィが突き抜けてきた黒煙の中から弾丸が飛んできて、機体のバーニアを撃ち抜いたのだ。


『爆発の中に隠れていたのかねえ!?』


 バーニアの停止で挙動がふらつくガンマン・ザ・グローリィが振り向くと、晴れつつある煙の中から、布魔の姿が現れた。

 その機体に損傷がないことを見て、グリンプは謀られたことに気付く。


『手榴弾の破片が、このガンマンの装甲で防げたことを不思議に思うべきだったか。あの手榴弾は弱装したもので、爆発は煙幕代わりだったのだね?』


 グリンプの質問に、キシは付き合わない。唯一の武器である拳銃を使わせなくするため、アサルトライフルでガンマン・ザ・グローリィの両肩を撃ち抜く。続いて移動力を失わせるために両膝も。

 その後で、キシは滑走路に膝をついて座ることになったガンマン・ザ・グローリィに近づくと、頭部に銃口を向けた。

 完全に決着がついている構図に、グリンプはガンマン・ザ・グローリィの上がらない方をすくませる。


『してやられたけど、世界大会出場者になるには、まだまだ腕前が足りないってことだねえ』


 その考えが正しいと教えるように、キシは布魔にアサルトライフルを撃たせる。

 ガンマン・ザ・グローリィの頭部が破壊され、これでグリンプはこのミッションから蹴り出された。

 キシは布魔にアサルトライフルの弾倉を交換させながら、呟く。


「あと三機――いや、今回を含めて二、三回戦場を戦い抜かなきゃいけないんだ。手早く、怪我なく、倒していかないとね」


 自分がやられるとは考えていないような、キシの口調。

 その独り言を聞きとがめたかのように、次の人型機械が滑走路に現れた。

 分厚い盾と大型チェーンソーを装備する、深緑色の機体だ。



 深緑の機体は、問答無用とばかりに襲い掛かってきた。

 分厚い盾を前面に構え、大型チェーンソーが唸り声を上げて回転を始める。

 キシはアサルトライフルを射撃するが、すぐに腰の収納部に収めてしまう。弾丸が盾に弾かれて、役に立たないと分かったからだ。

 そこで、銃の代わりに布魔の背中にある刀を抜き放つ。代えたばかりの新品の刃が、空からの陽光を照り返す。

 キシが接近戦を挑もうとしている姿を見て、深緑色の機体のプレイヤーは挙動を、突っ込んでいくのではなく、間合いを図ってじっくりと攻める方向へ変えた。

 切り替えの早さに、キシは舌打ちする。


「チッ。あのまま突っ込んできたら、盾を切り捨てて役立たずにしてから、アサルトライフルで遠距離戦に終始する気だったんだけどな」


 そうそう考え通りにはいかないかと息を吐き、そして肺一杯に空気を吸い込む。キシは膨らませた体に意思を漲らせて、深緑色の機体へ刀を構えて突っ込む。

 両者の距離はみるみるうちに縮まっていき、刃を交えられる間合いに入る。

 しかし両機とも、手の武器を振るわない。

 キシは相手のチェーンソーを厄介と感じ、先に振らせてから避けて反撃する気だった。一方で深緑色の機体のプレイヤーも、布魔に先に攻撃させて、盾が破損するかわりに回転する刃で必殺の一撃を与えようと考えていたのだ。

 お互いに同じカウンター狙いのまま、両者の距離はさらに縮まり、人型機械が腕を伸ばせば触れられる距離になった。

 ここまでくると、一瞬の判断が勝敗を分ける状況になる。

 そうなると、勝負に分があるのは、深緑色の機体の方だった。

 頑強な盾で布魔の攻撃を一度だけ完璧に防ぐことが可能で、防いでから反撃すれば相手を撃破できることが確約されている。

 一方で布魔はというと、先に動くのなら相手の防御力を抜ける一撃を放たなければならず、後に動くにしても相手のチェーンソー攻撃を確実に防ぐ方法が必要だ。しかし布魔の刀は、深緑色の機体の盾と機体装甲を同時に貫くほどの力はなく、チェーンソーを刃で受け止めるには身幅が細すぎた。

 そんな状況で、深緑色の機体が先に行動を決定する。盾を堅持する構えとなり、攻撃を受けてから反撃する戦法を選んだ。

 直後、キシも戦い方を選ぶ。自分から攻撃すると。


「さあ、博打だぞ」


 キシは呟きながら布魔に刀を大上段に構えさせると、思いっきり上から下へと振り下ろさせる。

 盾ごと頭部を破壊しようとしているような振り抜き方に、深緑色の機体は盾を上に構え直して正面から刃を受けた。

 金属が重力加速度と遠心力を乗せた刃で斬り割かれる音が鳴り、それを覆い隠さんばかりにチェーンソーが唸りを上げる。

 布魔の刀は盾に食い込んで止まった。

 深緑色の機体は頭部の感覚器からの映像が盾に覆い隠されている状況で、受け止めた刀の柄の先に布魔がいると信じ、最大回転させているチェーンソーを振り回す。

 チェーンソーが何かを斬り割く音がして、すぐに振り切れた。

 その瞬間、深緑色の機体に乗るプレイヤーの顔に浮かんだのは歓喜――ではなく、困惑だった。

 『チェーンソーが奏でた物体を斬り割く音が短すぎる』からだ。

 音の短さは棒状のものを断っただけのようで、決して人型機械の胴体や手足のような幅がある物体を切った音ではなかった。

 その考えが正しいという証拠のように、深緑色の機体の前の地面に落ちたのは、両断された刀の柄。降られたチェーンソーの根本に当たり、断たれたものだった。

 柄を握っていたはずの布魔の腕はない。握ったままなら、振られたチェーンソーに巻き込まれて切り落とされていて当然のはずなのにもかかわらず。

 その理由は、太陽が教えてくれた。

 深緑色の機体に覆いかぶさるように、黒い影が差し込んだのだ。

 その影の原因は、刀で斬りかかった直後に上空へ跳んだ布魔だった。大上段からの斬り下ろしで、深緑色の機体に頭部を盾で守らせ、その盾で生まれた死角を移動していたのだ。

 

「賭けは、俺の勝ち。反撃じゃなくて、状況判断を優先していたら、こちらを泥沼の戦いに引きずり込めたのにね」


 キシは布魔に腰にあるアサルトライフルを握らせると、深緑色の機体の後頭部を射撃させた。

 首の付け根に入った弾がフレームを断ち、頭部が深緑色の機体から取れて地面に落ちる。

 布魔は地面に手をつきながら、背中のバーニアを噴射させて制動しつつ着地。立ち上がり、アサルトライフルの弾倉を交換した。

 その後で、刀を回収して刃の調子を確認してから、深緑色の機体が持つ盾を奪い取る。


「残りの二機を相手にするとき、この盾は使えそうだからな」


 キシは布魔の右腕に所持させ、取り回しを確認。機動力が削がれるが、防御力は一気に上がった。

 新たな装備に満足していると、次の挑戦者が現れる。

 基本的な武装で固めた、灰色の機体だ。

 キシは布魔に盾を構えさせて警戒する。

 だが灰色の機体は、攻撃をしないでくれというような、空の手を前に差し出すポーズを取った。続けて、外部音声を発する。女性の声だ。


『あ、あの! あなたは、二年前の世界大会で、既存機体レディメイド部門、軽改良機ライトカスタム部門の二冠を達成して、殲滅戦バトルロイヤルでフルカスタム機や自作機を次々に撃ち倒して二十位に入った、あの『キシ』さんですか!?』


 その声はどこか、街中で有名人に出くわした、ミーハーなファンのような声色だった。

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