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だから苦手なのに 3
不意に手首を掴まれ、ビクリと体がこわばる。
昼休みも終わりごろ、教室と階段から少し離れた準備室の前。
掴んだ手の主は、桐谷だった。
朝上、霧乃くん。
はい。先生…
冷静を装って答える。
掴んだ手は簡単に即座に離されて、本当にただの、(当たり前だけど)ただの教師と生徒の姿に他ならない。
私、今、どんな、顔してる?
先生?なんでしょうか。
聞き返す。
…少しゆっくり話せないか?
そう言って、桐谷は後で準備室に来るよう言って足早に去っていった。
手首が熱い。自分で掴まれたところを、きゅっと握る。あの日の記憶がデジャブする。
職権濫用…
ポツリと呟くけど、昼休みの喧騒にすぐに声はかき消されていた。