神の御意志を、人々に知らしめる人
雄治のカキコに、敬太郎君が、
「やっぱ王朝交替は無かったんやなあ」
とレスを付けていた。
「いろいろ重要なことが判ったな。スゲえよ。今後その辺を調べまくってまとめてくれ。『ひむか様』に『とよ様』ってのは、すっげー参考になった。産休!!」
……だってさ。あ、「産休」はタイプミスなのか、それとも敬太郎君流のハイレベルなジョークなのかはいまいち不明だけど。
あたしは酎ハイ・ピーチを飲みつつ、雄治のカキコに出てくる用語を調べまくった。
色々な事が解った。降臨した神々には二系統存在するらしい。一つはアマテラスの子供で、「天孫」。もう一つはアマテラスを取り巻く神々の子供で、「天神」。天孫と天神を併せて「天津神」と呼び、そのうち天孫系……即ちアマテラス直系で皇位継承権を持つ者が「日御子」らしい。つまりそれが天皇家のルーツね。
一方、元々この日本に土着していた勢力を、「国津神」と呼ぶのだとか。で、天津神系の有力者を「彦」、国津神系の有力者を「根子」と呼んだっぽい。卑弥呼様の説明に基づく雄治の解釈によれば、そういうことになる。
古事記に「しらす」「うしはく」という言葉が登場する。
「しらす」とはつまり、
「神の御意志を、人々に知らしめる人」
の事だとか。神同様私心を持たず、ひたすら世界の平和や繁栄を願いつつ人々を導く役目を負う人。天皇とはまさに、そういう使命を担っている。
(なるほど……。天皇って、支配者でも統治者でもないのか。現代的に言えば、精神的指導者って感じなのか)
――鬼道に事え、能く衆を惑わす。
と魏志倭人伝に書かれている卑弥呼も、つまり「しらす者」だったらしい。
しらす者によって「うしはく者」と任命されたのが、彦や根子なのかもしれない。各地方、即ち「国」の統治者である。国と呼んではいるが、勿論隣国や西洋諸国における「国王」とは概念が異なるっぽい。
そういった諸々を考慮すると、雄治によれば、
「古代日本に『王政』は存在しなかったし、勿論歴代天皇は一般的定義としての『皇帝』ではない。ましてや『王』でもない」
だそうである。
また邪馬台国も、群雄割拠の状態において卑弥呼が盟主に祭り上げられた……のではないことが「あの人」の話から判明した。
「だから邪馬台国は、学者先生方の言う『連合政権』ではない」
という雄治説も、なるほどって感じだよね。確かに立派な統一国家だよ。――
酎ハイ・ピーチを飲み終えたところで、最後に「王朝交替(説)」とやらをちょっと調べてみた。
古代史を仔細に眺めると、崇神天皇や継体天皇、それから天武天皇等、
「何度か系譜の途切れた形跡がある」
らしい。だから万世一系ではないだろう……というのが学者先生方の主張である。かつてはそこに、高名な学者による「騎馬民族征服王朝説」などという、全くの思いつきによるトンデモ説まで存在したのだとか。
(いや、でも各地の『日御子』が交代で継承しているなら、やっぱアマテラスの子孫による万世一系じゃん)
つまり後世、複数の宮家の中から天皇の後継者が選ばれたり、御三家御三卿の中から徳川将軍が選ばれたりするのと同じってわけよ。父子相続でなくとも、アマテラスの血筋は確かに継承される。
さっきの卑弥呼様の話の重要性が、漸く腑に落ちた。なるほど雄治や敬太郎君が興奮する筈だよ。――