「日向の国」の王だから「ひむか」様か
「お楽しみの最中に邪魔して、すまんのう」
卑弥呼様がニヤニヤと笑いつつ、あたし達を見下ろしていた。
「わっ……!!」
と、ふたりして声を上げる。
しまった。これをすっかり忘れてたよ。――
いや、雄治はあたし以上に驚いた筈である。
「卑弥呼……様!?」
おずおずと、卑弥呼様に尋ねた。
「左様、吾は『日の御子』じゃ。余の者共からは『ひむか様』と呼ばれておる」
あっ、と雄治は声を上げる。
「そうか!! 謎が一つ、解けた。『日向の国』の王だから『ひむか』様か。『ひみこ』様じゃねえンや。で、跡継ぎの女王が『豊の国』の『とよ』様か……」
「左様」
卑弥呼様は頷く。
「ちなみに、我が国に『王』などおらぬぞ。王とは我が国の概念ではない。魏朝の者共が勝手に、吾を女王と呼んだに過ぎぬ」
「ん!? どういう意味ですか?」
「例えば隣の大陸においては、国が沢山ある。それを治むる者を『王』と呼ぶ。そして彼らを統べる者を『皇帝』と呼ぶ」
「なるほど。解ります」
「しかし我が国においては、国とは……そなた達の言葉で表すならば……『行政単位』でしかない」
「あっ!!」
「即ち、王ではなく我ら『日の御子』一族か、或いは『ひこ』『ねこ』と呼ぶ長が治める。国を好き勝手に支配する、隣の大陸の王とは根本的に異なるのじゃ」
あたしにはいまいち意味が解らない。しかし雄治は何かを悟ったようで、うんうんと頷いている。
「そして『日の御子』一族の中より、ひとりの『しらす者』を選ぶ。それが我が『ぃやぅまとぅ国』をまとめる『すめらみこと』ぞ」
「……」
「ちなみに『すめらみこと』は皇帝にあらず。皇帝も王も、私利私欲にて下々の者を支配、統治する。しかるに吾ら『すめらみこと』は神の御意志を聞き、それを下々の者に知らしめて世を導く使命を負っておる。そこに私心など、一切あってはならぬ。私利私欲まみれの皇帝などとは別モノじゃ」
「なるほど……」
雄治は色々と納得したようだけど、あたしは勉強不足で何が何やら。――
そんなあたしの心中を、卑弥呼様は全てお見通しらしい。
「そなたももそっと学べ」
とあたしに声をかけつつ、いつものように次第にその姿が薄らいでゆき……程なく消えた。
「スゲえ……」
雄治は大いに興奮し、部屋の隅にあるデスクトップPCに向かうと夢中でキーボードをタイプし始めた。今の卑弥呼様との会話をメモしているらしい。
で、あたしは放置された。
(ちょっとぉ……。あたしはどうなるの!?)
カラダに火を点けておいて、放置って、ヒドくない!?(涙目)
でもまあ、雄治の興奮も解らないではない。暫く彼の様子を見ていたが、ふたりのお楽しみの続行は望めそうにない。
仕方なく、あたしはビショビショの冷たいパ○ツを履き直し、
「遅くなったから、今日はもう帰るね」
と雄治に声をかけて家に戻った。オトナのオンナになる儀式は、ひとまずお預けとなった。