夾角が、何とぴったし九〇度やっとよ
雄治の実家に辿り着いた。両親は仕事のため、家には誰もいない。
ふたりは二階に上がった。
雄治は自室のガラス戸を開けると、ベランダに出て、持参した工具類とプリントアウトを広げる。Web上で見つけた、エアコン取り外しの手順書らしい。工具類を器用に扱って、瞬く間に室外機に繋がるパイプを外してしまった。
「スゴいね……」
あたしはただただ、感心するしかない。男子が器用にこういう作業をやってのけるのは、見ていてホントにカッコいいと思っちゃうんだよなあ。……
雄治は室内機を外して床に置き、壁の取付金具を電動ドライバーで取り外す。その間あたしは、階下に下りて雑巾を濡らしてくると、室内機の埃をはらってキレイに拭き上げる。
素人作業の割りには比較的手際よく、解体が終わった。あたしと雄治はそれらを四苦八苦しながら全て外へ運び出し、シルビアのトランクと後部座席に載せた。そして物置から小さな脚立を取り出し、トランクの奥に詰め込んだ。
戸締まりをし、斜め向かいにある自販機で二人分の飲み物を買うと、再びクルマに乗り込む。
「ちっと寄り道すっけど、良いやろか?」
雄治は来た道と異なる方向へ、ハンドルを切る。向かった先は、市街地からちょっと外れたところにある、母智丘だった。勝手知ったる路、といった感じでスイスイとクルマを巧みに走らせ、つづら折りの細い山路を駆け上がる。
山頂付近の、神社のすぐ傍らにある駐車場にクルマを停めた。ふたりは拝殿の前で手を合わせ、それからその裏側に回る。
「こイが、先日飲みながら話した『日本のピラミッド』やっど~」
と、雄治は言う。
なるほど。――
確かに、巨石が半円状に並べられていた。一番大きな岩は、もしかすると百トンクラスではないか?
「山頂にこげんデカい岩が、自然にゴロゴロある確率は低いとよ。山ン中腹より下やったら、話は別やけど。人力で下から担ぎ上げた確率ン方が高い。それも、立て看板の説明を読めば解かっけど、縄文時代には既にあったっぢゃろうち話やぞ。こン周辺で縄文土器やらが沢山出土しちょるらしい」
スゴい。――
あたしはぶらりと巨石を見て回る。
そのすぐ後ろで、雄治はさり気なくスマートフォンを構え、何枚もあたしの写真を撮っていた。いや、あたしと巨石のツーショットを撮っていた。
巨石と木立の間を抜けつつ、ぐるりと半周すると、コースは小高い丘へと続く。
西陽の照りつける明るい丘の頂上に、木製の展望デッキがある。あたしは自然とそこへ足を向けた。雄治はその少し後ろから、あたしの写真を撮りながら付いてくる。
そして展望デッキに登り、ふたり、寄り添うように並んだ。眼下に都城の市街地が一望出来る。
「あっちに神社の拝殿があっせ、そっちが磐座やな。こげん、半円状に並んじょる」
雄治が背後を指差す。
「で、そっちに桜島が見えるやろ? 噴煙が上がっちょる。そイから、あっちン木立に隠れちょるけど、そん先に実は霧島連峰が見える」
「へぇ~~」
「そイで、俺もこン前気付いたっちゃけど、ここかイ霧島と桜島の距離が、一対二。しかも、こン夾角が、何とぴったし九〇度やっとよ」
「え~~~~っ!?」