大船に乗ったつもりで、任せなさい♪
やっぱそうだよね。推薦者二六人だってさ。智ちゃん、すっごくカワイいもん。どの有名人に似てるか、って聞かれても答えようがないんだけど、いつもにこにこしていて性格も良い。男子なら誰でも好感を抱くようなタイプ。
ん?
「本人の申し出により候補辞退」
って書いてある。どゆこと!?
早速本人に確認……と思い、バッグからスマートフォンを取り出そうとした途端、いきなりお尻をぺろんと撫でられた。
「あひゃっ」
と、思わずヘンな声を上げつつ反射的に振り向くと、智ちゃんと敬太郎君がいた。
「おはよう」
「び、びっくりした~」
バッグからハンドタオルを取り出し、吹き出た冷汗を拭う。今更ながら気付いたんだけど、あたしって結構敏感なのか!?(恥)
「今丁度、このミスコンの掲示を見たんだけどさ。智ちゃん、どうして辞退したの?」
「え~~。だってあたし、そういうのに向いてないもん」
「そうかなあ。一番人気なのに、勿体無いじゃん」
「いいよ。ミスコンとか全然興味ないし~。歴史研究会からは紗耶香ちゃん一人で充分だよ」
「う~ん……」
「というわけで、あたしは紗耶香ちゃんのバックアップに回るからね。メイクとかファッションとか、任せてよ。紗耶香ちゃんってそういうの苦手でしょ!?」
美容や服飾方面の専門学校に行った友達にも、声をかけてくれるらしい。
「紗耶香ちゃんを優勝させるプロジェクト・チームを編成するよ。大船に乗ったつもりで任せなさい♪」
だってさ。智ちゃん、早くもノリノリじゃん。な~んか、二~三日前までは想像すらしなかった状況に発展しそうな気配。――
まあ、その話はひとまず措いといて、あたしは敬太郎君のアドバイスを貰い、図書館で「古事記(現代語訳)」を借りた。それから大教室へと向かい、社会学の講義に出席する。
ウワサによるとこの科目は、とにかく出席さえしておけば単位を貰えるらしい。だからみんな、内職道具を持ち込んでいる。誰も先生の話なんか聞いていない。
「うんにゃ、社会学の講義は面白えぞ」
と言ってるのは、あたしの知る限りだと雄治くらいのものである。
大教室に先生の声が響きわたる中、あたしは古事記前半の神話部分に読み耽った。
「神様の名前とかは、ほとんどすっ飛ばして読んでいいよ。特に神様の説明は、新井白石やら本居宣長の想像を学者先生方が丸々パクってるだけやから、全然根拠がない」
という敬太郎君のアドバイスに従い、とにかく煩わしい箇所はすっ飛ばして読み進める。ひとコマ九〇分の間に、昨晩飲み会の席で話題になった、
――ウガヤフキアエズの御世は五八〇年間続いた。
という下り、つまり神武東征の手前まで一気に読み切った。