住居の最低要件ち、雨露をしのげること……じゃね!?
敬太郎君も雄治も古代史に強いようだが、どうやらその方向性にちょっと違いがあるっぽい。雄治は、いわゆる超古代文明に興味があるらしい。
アルコールの入った雄治は、意外にも饒舌である。
「中学高校の日本史ン教科書を開くやろ? 縄文弥生のページち、灰色と茶色ン印象やろ? 実はあれがおかしいとよ。なんか間違ぅちょるとよ」
雄治は三杯目に頼んだ焼酎のグラスを傾けつつ、怪気炎を上げる。
「縄文やら弥生時代のページは、石器と土器の写真ばっかしやろ? ちと面白い写真っちゅうたら、青森で出土した遮光器土偶だけや。そイがおかしい」
「へ~~~。なんで?」
「日本の古代史は、そげな灰色と茶色の時代じゃねえとよね」
雄治曰く、太古の日本人は世界に先駆けて磨製石器を作り、また土器を考案し、高度な文明を築いていた可能性があるらしい。
特別な土器を考案して果実酒を製造したり、漆塗りの器や櫛を作ったり、硬い翡翠を加工して綺麗なアクセサリーを作り、着飾っていたり……。服装も木綿に近い素材の織物で、意外にハイレベルなのだとか。
「日本全国の遺跡に、復元された竪穴式住居があるやろ? あれもウソ臭え」
と、雄治は言う。
「どうして?」
「住居の最低要件ち、雨露をしのげること……じゃね!?」
「うん」
「あげなショボい住居で、雨露をしのげるじゃろか。ドカっと夕立ち一発で、中はびしょ濡れになるんじゃないか? 床は低いとに周囲にゃ土手も作っちょらん。大雨が降ったら周囲の水は、全部住居内に流れ込むやろな」
「そっか……」
と、敬太郎君が頷く。
「雨露をしのげん住居なら、原始人の洞穴生活以下やな」
「じゃろ!?」
と、雄治が焼酎のグラスを空けつつ、言う。
「縄文日本は亜熱帯気候やど。スコールが降っちょったやろな。余計、あのようなショボい住居じゃ話ンならん。住居とは言えん」
「そもそもウワモノは全部腐って消失してるからなあ。発掘して判明した床構造だけを見て、学者がウワモノを想像しちょるだけ。実際はもっと、まともな住居やったかもしれんね」
「じゃっどじゃっど~」
雄治は店員を呼び、早くも通算四杯目をオーダーする。いや、さすが薩摩のオトコだね。ペースが早い早い。
「それに縄文~弥生と一万年以上、住居の建築技術がほとんど進歩せんかった……っち思考にも無理があっとじゃねえやろか!? 俺はそのように思うちょる」
「なるほどなあ」
「東北辺りでは五千年ばかし前の、太い柱を使った高層建築らしい遺構も見つかっちょる。かなり広い建物の遺構も見つかっちょる。西日本ではホゾ組み技術を使った建築物も見つかっちょる。それなのに住居は一万年以上、竪穴式のままかよ……と」