うっかり髭剃りを梱包してしもたわ
昨晩は車内にちょっと恥ずかしいフェロモンを漂わせつつも、どうすることも出来ないまま、雄治に都城駅まで送ってもらった。そして特急電車にて帰宅。
雄治のお母さんの言う通り、夜の山道を抜ける電車は確かにちょっと怖かった。完全車社会の宮崎人たる紗耶香にとって、まさに初めての経験。すっかり疲れ切ってしまい、家に帰り着くなりそのまま爆睡してしまった。
で、今日は朝十時前に、あたしん家で智ちゃんと待ち合わせ。
昨晩電話で応援要請したので、智ちゃんはお母さんに車を借り迎えに来てくれた。あたしはそれに間に合うよう急いでシャワーを浴び、メイクを二分〇四秒(未公認新記録)で済ませ、いつも通りTシャツと七分丈ジーンズに着替えた。あ、ちなみに昨晩履いてたジーンズは洗濯機へ直行。いや理由は聞かないでね(赤面)
バッグを掴み玄関を出ると、丁度智ちゃんの車が家の正面に停まった。グッドタイミング。
ん? 助手席に敬太郎君がいるじゃん。
「おはよう。敬太郎君も来てくれたんだ」
「おう。荷物を持ち込むなら、男手があった方がいいやろ。……それに智ちゃんの頼みなら即OKや」
敬太郎がデレデレしながら言う。ほぉ~~、ラブラブだね。
ってか、デレてる時の敬太郎君って、あのお笑いコンビの「髭まみれの人」にそっくりだよ。――
あたしは智ちゃんにお礼を言って、車の後部座席に乗り込む。
昨日の雨は、すっかり止んでいた。雲の切れ間からわずかに青空が見えた。
三人はまず百円ショップに寄り、キッチン用品やバス、トイレ用品等を一通り買い揃えた。次にドラッグストアで、トイレットペーパーやティッシュペーパー、シャンプーを購入。それからホームセンターに行き、フライパンやメタルシェルフを購入し雄治の新居へと向かう。
アパートの前で待つこと二〇分。雄治がお父さんの車に段ボールを満載し、到着した。
「おおっ。敬太郎も来てくれたんか。ありがたい」
雄治は喜び、早速男二人で段ボールとラックを搬入し始めた。あたしと智ちゃんは手分けして、買ってきた日用品をそれぞれの箇所に設置する。いや、そこらに放置しておくと邪魔になるのよね。さっさと所定の位置に片付けてしまう方が良いみたい。あたしは期せずして、引越のノウハウを身に付けちゃったよ。――
「雄治。お前、今日は髭剃っちょらんのか?」
「あははは。うっかり髭剃りを梱包してしもたわ」
ホントだ。顎やら頬に、ちょろっと髭が伸びている。……ってか、髭剃りを梱包しちゃったのはあたしだよね。てへぺろっ。
結局、三人は最後まで、雄治の引越作業に付き合うことなった。
雄治は直ぐにみやこんじょへとんぼ返り。高速を利用して二時間で再び戻ってくるらしい。その間あたし達三人は、近所でランチタイム。その後、雄治が戻って来るまでに、室内にてスチールラック二本を組み立てておく……というスケジュール。
そして全てが片付いた夜、四人で居酒屋にて軽く打ち上げをすることになった。
「いや、二つばかし、サプライズがあったとよ。作業ンお礼を兼ねっせ、金は全部俺が出す」
なんでも親戚から結構な額の引越祝いを貰ったらしい。
雄治は車に飛び乗ると、勇んで出て行った。あたし達も智ちゃんのお母さんの車に乗り込み、近所のファミレスへと向かった。