一人じゃこげんスムーズには行かんとよ
雄治の実家は、都城市街地のほぼど真ん中だった。
雄治にそのまま三〇歳プラスしたようなお父さんと、対照的に線の細いお母さんに挨拶し、あたしは二階の雄治の部屋へ入る。
部屋の中は、物が床一面に散乱していた。
埃も凄い。都城は桜島の火山灰が飛来するため、通常の埃だけでなくざらざらとした火山灰がかなり混じっている。
「こりゃぁ、マスクが要るよね……」
思わず呟くと、
「それもそうだな」
と雄治は階下に戻り、直ぐにマスクを二つ持って来た。それぞれマスクを手に取り装着すると、早速作業に取り掛かる。
「引越作業ち、結構頭を使うとよね」
雄治は言う。
何も考えずにどんどん梱包してしまうと、引越当日まで生活用品が不足し困るらしい。うっかり毎日使うような物を梱包してしまい、後から気付いて慌てて段ボールを開梱する……なんてヘマも時折やらかすのだとか。
それから狭い新居に大量の物を持ち込むため、持ち込む順序や開梱の順番を考えておかないと大変らしい。
なるほど。あたしは引越しをしたことがないから気付かなかったけど、結構大変なんだ。――
「幸い紗耶香が手伝ってくれたから、その辺の段取りがラクになったわ。明日の着替えと財布だけ避けっせ、あとは全部梱包してよか」
あたしは次々と段ボールを組み立ててガムテープで止める。雄治はオーディオをバラして雑巾で埃を拭い、段ボールに詰める。次にデスクトップPCをバラし、同じように埃を拭って段ボールに詰め込む。
それから、あたしは床に散乱している小物類をかき集め、ある程度より分けてレジ袋に入れてから段ボールに突っ込んでいく。そして箱をガムテープで止めると、ペンで梱包品をメモする。
その間雄治はスチールのラックを二本、解体する。手助けが必要な時はあたしがすかさず手を貸し、ビニール製のロープでそれらを括る。
夢中になって一時間作業すると、ざっと半分程が段ボール箱に収まった。それらを階下に移動させ、車に積めるだけ詰め込んだ。
床の埃(と火山灰)が二倍に増えている。あたしは雄治の母親から手箒と掃除機を拝借し、一旦ざっと床を掃除する。
「一気に片付くわ。ありがてえ。一人じゃこげんスムーズには行かんとよ。色々段取り考えながら梱包しよったし……」
雄治の母が、お茶とお菓子を運んで来てくれたので、一息つく。
「ところでさあ。えっちな本とか一冊も見かけなかったんだけど、どこにあるの? もしかして既に、新居に持ち込み済み?」
「アホ。そげなもん、持っちょらんわ」
そっか。つまらん。……
あっ。さては、その類のモノは全部PCの中だな。にひひひひ。