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ひと月かかってもおかしくねえやろ

「いろいろ凄ぇぞ。まず、『南へ水行十日、陸行一月』の謎が解ける」

「よくわかんない……」

「魏志倭人伝には、方角がアバウトに『南』としか書いちょらん。なんでやろか……っちゅう謎がある。水行も陸行も両方とも、南やっちゃろか」

「あ、なるほど」


「じゃろ!? そイから、水行十日に陸行一月っちゅうたら結構な遠距離やろけど、残距離が合わん。帯方郡から女王国まで万二千里ち書いちょるけど、計算すっと伊都国までで既に一万里以上費やしちょる。残りはなんぼや? ……千五百里か」

「……うん」


 あたしはさっき借りてきた本を急いでめくり、行程の記述を確認する。確かに伊都国と邪馬台国間は、放射状に行程が記述されていると仮定して千五百里である。ざっと一一五kmか。――


「そイでな。卑弥呼は遠国統治のために、伊都国に一大率っちゅう役人だか役所だかを置いちょる」

「ははあ……。つまり伊都国邪馬台国間って、地図上の距離はともかくとして、移動しづらくて日数を要する場所だった、ってこと?」

「じゃっどじゃっど~」

 そイが行程に関する最大の謎やった、と雄治は言う。紗耶香のメモは、その全てに説明がつく、というのである。


「そっか……。今の熊本付近が敵国狗奴国なら、それを避けるために対岸の島原とか天草沿岸を岸伝いに行くよね。それなら日程も余計にかかるかも。天気が悪くて舟を出せない日もあるだろうし。あ、荷物の積み下ろしの日数も計算に入れるべきだよね」

「じゃっど。そイから、紗耶香は九州自動車道を通ったこっがあるか?」

 あたしは頷く。


 九州自動車道は福岡、久留米から有明海沿岸を通り、大牟田、熊本、八代を抜け、霧島連峰を横断する。そして人吉、えびのを経て宮崎自動車道に接続し、宮崎市へと至る。

 特に霧島連峰を突っ切る行程は、難路である。トンネルが二〇本以上あり、そのうち二本にいたっては六kmオーバーの長大なもので、建設も難工事だったらしい。さらにえびの市には「加久藤峠」という、目もくらむような山越えのループ橋が存在する。


「卑弥呼の説明通りやったら、ルートは多分、現在の高速道と大体同じやろなあ。あン山道を通るんやったら、ひと月かかってもおかしくねえやろ」

「うん……」


 紗耶香は高速道路のルートを想像した。

 今でこそ、綺麗に整備された道路を車であっさり走り抜けるが、昔は大変な難路だったに違いない。あのルートはまさに、現代土木建築技術の賜物だと言える。


 それでも球磨川流域をはじめ、昼なお暗き鬱蒼とした山道が存在する。魏志倭人伝の時代ならば当然ながら、太陽の位置などろくに確認できず、方角は判然としなかった筈である。そんな山中を魏朝の使者一行は、馬車も牛車もなく徒歩にて、ゆるゆると毎日数キロずつ邪馬台国を目指したのかもしれない。

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