紗耶香は雄治とごゆっくり~♪
四人は二台の車に分乗し、雄治が来週から住む予定のアパートへと向かった。
彼のアパートは、JR南宮崎駅のそばだった。あたしや智ちゃん、敬太郎君の家からも比較的近い。ただし大学からはそこそこ遠い。
「何でこんな場所に部屋を借りたの?」
とあたしが尋ねると、雄治は、
「これは結構賢い選択やっど」
と大威張りで答える。
「大学近辺は田舎過ぎて、バイトの口が無いとよ。市内中心部まで出てこんとバイトが出来ん。だから通学にもバイトにも都合の良か所を探しっせ、ここに決めた」
というのである。なるほどね。――
建物は築十年という話だが、比較的綺麗だった。内装も築年数を感じさせない。洋間七畳に、広いロフト付き。バストイレ別。それで家賃は月三万円だという。
周辺相場からすれば随分割安らしい。いや、勿論それには理由がある。日当たりがあまりよろしくない。加えて、今時珍しい話だがエアコンが無い。
しかしまあ、雄治に言わせればそれも問題ないそうである。
「どうせ日中は部屋におらんから、日当たりなんかどげんでんよか。エアコンも実家のヤツを外して持って来っかい、心配いらん」
なるほど。それなら雄治の言うように、賢い選択なのかもしれない。
「いいなあ」
三人はそれぞれ、あちこちを眺めつつ羨ましそうに声を上げる。雄治も満足げである。
いや、ゆっくり眺めている暇はない。雨の中、雄治の父親の車から段ボール箱を引っ張り出し、室内に運び込む。
「よっしゃ。それじゃオレ達はそろそろ図書館に戻るわ。紗耶香は雄治とごゆっくり~♪」
「そうね。おふたりのお時間を長々とお邪魔するような野暮はしませんよ~。おほほほ♪」
と、敬太郎君と智ちゃんはニヤニヤしながらそそくさと去ってしまった。ちょっとぉ、あたしはどうなるの!?(汗)
慌てるあたしをよそに、雄治は腕組みしつつ考え込んでいたが、
「紗耶香、マジで引越作業を手伝ってくれんか!? 紗耶香が手伝ってくれるんやったら、俺は明日の晩からこっちに住めるわ……。出来ればさっさと一発で片付けたい」
と言う。
なるほどそうですか。まあ、そうでしょうね。――
あたしもどうせ、今日明日は用事もないし、まあ、いいか……ということで、成り行き上雄治の引っ越しを手伝うことになった。
すぐさまふたりは雄治のお父さんのセダンに乗り込み、都城へと向かう。空港へと向かうバイパスの途中から右に折れると、山道を抜けるルートを西へと走り出した。