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たったそイだけか?

 漸く下り電車が到着した。


 即座に車両内を確認し、二人掛け席の片側が空いているのを見つけ、急いで座った。普段は遠慮して立ったまま乗車するが、今はとにかく魏志倭人伝を読みたい。――

 座席に腰掛けると改めてノートPCを開き、読み下し文に目を通す。


 雄治が面白いと思ったのは、邪馬台国と魏朝のファーストコンタクトについてである。

 邪馬台国は半島の帯方郡に、

「男生口せいこう四人、女生口六人、班布二ひつじょうを奉り、以って到る」

 というのである。

(たったそイだけか?)

 雄治は首を傾げた。


 生口とはどうやら奴隷に類する身分の者らしい。おそらく、当時倭国の支配下にあった朝鮮半島南部あたりの罪人か捕虜を、男女数名ずつ引率し、

「どうぞ」

 と差し出したのだろう。

 それに加えて、布である。二ひつじょうを調べてみると、五〇cm幅で二三m、だそうである。


 数十ヶ国を束ねる連合国家女王による、大国への献上品(贈答品!?)が、ホントにたったそれだけなのか?

なんか事情があったっじゃろな……)

 雄治はそう推測せざるを得ない。


 邪馬台国によるそのショボい献上品に対する、魏朝のお返しが凄い。魏朝は、

「遠路はるばる、大いにご苦労であった」

 と大層喜び、女王卑弥呼に対し「親魏倭王」の金印紫綬と、

「絳地交龍錦五匹、絳地縐粟罽十張、蒨絳五十匹、紺青五十匹」

 を贈ったらしい。いやそれだけでなく、使者難升米と都市牛利にまで、

「紺地句文錦三匹、白絹五十匹、金八兩、五尺刀二口、銅鏡百枚、真珠鉛丹各五十斤」

 といった豪勢な褒美を与えた……らしい。


(いや、あちらの外交は、元々そげなもんじゃろけどな……)

 大陸の王朝は国境線が広く、常に安全保障上の脅威に悩まされている。内心は周辺諸国が怖くて仕方がない。そこで身内の間では彼らを「未開の野蛮国」とけなしつつも、表面的には「懐ろの深い大国のあるじ」として振る舞いつつ、自分達が受け取った以上の贈り物を「下付かふ」するのである。


 こういった外交戦術、外交手法を、

冊封さくほう

 と呼ぶ。


 大陸の王朝は周辺国に対し、あくまで形式上、

「オレが皇帝だからあるじで、オマエが臣下。オマエを○○国の太守に任命し、証明の印綬を授ける」

 とエラそうに振る舞う。少なくとも自らの歴史書には、そう記録する。

 周辺国の王達は、自身が臣下の扱いを受けていることを知ってか知らずか、王朝より丁寧にもてなされ大量の贈答品を受け取る。


 こうして歴代大陸王朝が、大国の体面と国家安全保障を確保する外交メソッドが、

「冊封」

 である。

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