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対等外交だよなあ……

 遡ること数時間前。――


 有村雄治はファミレスを出るとバス停で約二〇分時間を潰した後、漸くバスに乗り込んだ。

 二〇分強、バスに揺られ、駅へ到着。

 電車は一時間半に一本である。頭上の時刻表を確認すると、幸い・・三〇分ちょっと待てば次の電車があった。


 雨が、景気良く降っている。


(こげなひンだりぃ生活も、あと一週間の辛抱やっど……)

 この後都城みやこんじょ駅まで、電車で五〇分。さらに駅から自宅まで、徒歩二五分。……

 分厚い教科書数冊と小さなノートPCを入れたバッグを担ぎ、毎日往復しているのである。時間のロスも、体の疲労もバカにならない。


(じゃっどん、もう少しでラクになる)

 宮崎市内での新生活に思いを馳せつつ、雄治はスマートフォンのテザリングをオンにし、ノートPCを起動した。


 魏志倭人伝を検索する。幸い原文、読み下し文、現代語訳の三つが列挙されているサイトを、あっさり見つけた。全てをコピーしテキストエディターに貼り付け、ファイルに保存するとテザリングをオフにした。

 読み下し文に目を通す。たまに意味の分からない箇所は、現代文を拾い読みする。ん!?、と気になる箇所は、原文を確認する。


(どげん読んでン、対等外交じゃっとよなあ……)

 そう読み取らざるを得ない、と雄治は感じるのである。


 彼の国には中華思想がある。

「我が王朝こそが世界の中心。周辺国は未開の野蛮国。我々が文字や文物を授け、導いてやる」

 という尊大な意識を、それこそ現代に至るまでいだいている国である。


 魏志倭人伝も勿論、そういう意識に満ちている。「邪」馬台国や「卑」弥呼の文字が、まさにそれを示している。しかしその一方で、


 ・その風俗は淫ならず。

 ・屋室有り。父母、兄弟は異所に臥息す。

 ・その死には、棺有りて槨無し。土で封じ冢を作る。

 ・始め、死して喪にとどまること十余日。

 ・婦人は貞節で嫉妬しない。

 ・窃盗せず、訴えごとも少ない。

 ・尊卑にはそれぞれ差や序列があり、上の者に臣服して保たれている。

 ・租賦を収め、邸閣有り。

 ・国国は市有りて、有無を交易す。大倭をして之を監せしむ。

 ・宮室、楼観、城柵が厳設され(略)


 といった具合に習俗などを書き並べ、礼節ある文化国である、といったポジティブな見方で語られているのである。

「いやいや、まだまだ我が魏朝には劣る(笑)」

 といったネガティブなニュアンスは、ほとんど見当たらない。せいぜい「裸足だ」とか「冠を被っていない」といった指摘程度である。


 それに加えて、外交に関する記述である。両者を並べると、

「倭国は礼節ある文化国家だし、そこそこ軍事力も経済力もあるっぽいし、金印を贈って友好国扱いしておこう」

 という魏朝の意図が透けて見える、と雄治は感じるのである。


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