大陸は広大じゃが、大半はスカスカじゃ
「では、不弥国ってどこですか?」
「よく分からぬが、それもおそらくその辺じゃ。肥の国の一部ぞ。『支惟』や『烏』の集落も、その周辺にある」
「そうですか……」
「我らと魏の連中では、『国』の意味合いが異なるようじゃの。我らが集落と呼んでおる規模も、彼の国の役人共からすれば『国』らしい。だから集落も尽く『国』と見做して報告しておるようじゃ」
ほう。――
つまり伊都国こと「肥の津」も、不弥国も支惟国も烏国も、実は「肥の国」の一部に過ぎないのか。
そう想像した途端、卑弥呼様は、
「そうじゃ」
と頷いた。やはりあたしと卑弥呼様の思念は、テレパシックに繋がっているようである。
「大陸は広大じゃが、大半はスカスカじゃ。盗賊が跋扈し、人は全く住めぬ。かろうじて城壁に囲まれた狭い『都市』に、田畑を耕しつつ住む。ゆえに人口はたかが知れておるようじゃのう。それらの『都市』が指折り数える程度、点在するに過ぎぬが、あ奴らはそれを『国』と称しておる」
「なるほど……」
あたしは、過去に映画か何かで視た、古代中国の城郭都市を思い出した。
中国と言えば、あたし達は人口十数億の巨大国家を想像してしまう。しかし古代の大陸王朝は盗賊がはびこり治安が悪く、数キロないし十数キロの城壁で囲まれたエリアのみが、人々の居住区域として成り立っているらしい。
つまり大陸王朝の実態は、国土面積こそ広大だが、人口も国力もそれほど大したレベルではなかったのかもしれない。その実勢は、面ではなく点の寄せ集めに過ぎないのである。
(だから王朝交代が、あっという間に進行しちゃうのか……。何十年もかかりそうに感じるけど、そんなことなかったっぽいよね。せいぜい数年とか……)
あたしがそんな思いをめぐらすと、たちまち卑弥呼様は、
「そうじゃ」
と応える。
「我が国は治安が良く、吾の世になりて後は戦さもほとんどない。どこにでも田畑を切り拓き、多くの民が住む。せいぜい野生の獣どもが田畑を荒らさぬよう、濠で囲む程度じゃ。それらの規模は一千戸から数千戸に過ぎず、我らは『集落』と見做しておるが、魏の役人共からすればそれでも目を剥く規模らしい。ことごとく、『国』と呼びおった」
「なるほど」
「ちなみに吾が『ぃやぅまとぅ』本家は大きいぞ。十万戸近い規模じゃ。それから隣の『とぅま国』も五万戸を超えておる。魏なぞ恐るるに足らぬ」
「あ。その『とぅま国』って、どこですか?」
あたしはすかさず、ノートPCの画面を卑弥呼様に向ける。
「この辺りじゃの……」
と卑弥呼様は鹿児島付近を指差しつつ……その姿は次第に薄くなり、数秒で消滅した。