吾は『日の御子』じゃ
そのおばさんは長い黒髪に、赤や黄の謎メイクをしていた。いや、よくよく見るとメイクではなく、入れ墨らしい。
わずかにクリーム色がかった白地の着物。しかし和服ではなく、ちょっと奇妙なデザインである。首にはゴテゴテと真珠や翡翠らしき石の連なったネックレスをしている。
「だ、誰?」
沖縄だとか東南アジアの人っぽい、濃い系の顔立ち。入れ墨謎メイクが邪魔だが、若い頃は結構な美形だったんだろう……という感じ。おばさんというより初老に近いか。
「吾か。吾は『日の御子』じゃ」
よくよく見ると、輪郭がなんとなく薄ぼんやりしている。もしかして、霊体みたいなものだろうか。でも、いわゆる幽霊とは違うっぽい。
そんなあやふやな存在の癖に、奇妙な迫力というか貫禄を醸出している。何かスゴい。
日の御子、と言われても何のことか分からなかったが、そんなおばさんの風貌と相まってピンときた。卑弥呼ではないか!?
「もしかして卑弥呼……様ですか?」
「ああ、魏の王朝ではそう呼ばれておるようじゃな」
「ということは邪馬台国の女王様の……」
「『やまたい』ではない。『ぃやぅまとぅ』じゃ」
ほう。――
邪馬台国の読み方にはいろいろと論争がある、という話をちらりと聞いたことがあるけれど、なるほど「やまたい」ではなかったんだ。
って言うか、まさかの「やまと」!?
「そなた、今何をしておった!? ○んずりか?」
イヤ~~~~っ、ヤバい。バレてる……(滝汗)
紗耶香は耳まで真っ赤になった。
「し、仕方ないでしょ。ちょっとムラムラしちゃって」
「そなた、その歳で生娘か。オトコはおらんのか」
「そうだよ。今はあたし位の歳だと、結構処女が多いよ。あ、そういえば卑弥呼様だって、生涯独身だったと聞いてるけど……」
「はははは。確かに吾は巫女ゆえ独身じゃが、若い頃は側近のイケメン共を食いまくっておったぞ」
なんで卑弥呼がイケメンなんて言葉を知ってるのか、と思ったが、よくよく彼女を見ると口をほとんど開いていない。テレパシックに、あたしの脳内に言葉が響いている感じ。双方の思念が、うまく勝手に脳内変換されるのかもしれない。
「オトコは良いぞよ~。そなたもオトコに抱かれればよいではないか。○んずりなんぞ、不毛じゃぞ」
「いやいや。今はいろいろ難しい事情があるの。あたしぐらいの歳の女の子は、そうそう気軽にそんなコト出来ないんだってば」