最早、座して眺めておるわけにはいかぬ
うわっ、と二人が声を上げた。
「貴女が……卑弥呼様ですか」
初めて見る卑弥呼様に、敬太郎君と智ちゃんが驚く。
「そうじゃ。四人共、ようやってくれたのう」
「あとは、ここから無事脱出しなきゃいけないんですが……」
「心配無用じゃ。皆、何事もなく家に帰れるぞ。それより隼人の男よ、まずそなたの足元の左側を掘れ。……あっ、左様な道具なぞ使うんじゃない!! 壊れてしまうじゃろうが。慎重に手で探れ」
と、卑弥呼様は雄治に指示する。雄治はゴソゴソと足元の泥を探り、直ぐに何かを掘り当てた。
「どうじゃ? ちゃんと四枚あるじゃろ!? 魏の皇帝より貰うた物じゃぞ」
ちょちょっと泥を落としてみると、それは直径十数センチの銅鏡だった。
「礼として、そなた達にやる。それから回収したへのこは、後で捨ててくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
「さあ、ふたりも早う上がって来よ。ほれ、そなた達は綱を持っておろうが」
「あっ。なるほど」
雄治はリュックからロープを取り出す。それを見てあたしもロープを取り出し、敬太郎君達の方に投げて渡す。
「そうじゃそうじゃ。それをその辺の木に括り付ければ、綱を伝って上ってこれるじゃろ。……おうおう、阿呆が。左様な結び方では駄目じゃ」
四苦八苦しつつ、あたしと雄治は何とか無事、上に登ることが出来た。
空からの光は、いつの間にか卑弥呼様を射していた。卑弥呼様は実に神々しく光り輝いていた。
「すめらみことが力を失いて久しく、この中つ国は大いに乱れてしもうた」
改めて、卑弥呼様はあたし達に語りかける。
「古より吾れ達天孫日御子は、この中つ国に神の御意志を伝え、世を導いた。穏やかなる中つ国を実現しておった」
「……」
「天孫日御子は中つ国を巡り、それを果たしておったが、次第にそれもかなわぬようになった。そのうちこの豊葦原瑞穂国さえも、乱れに乱れた。今は正に、その最たる状況じゃの。最早、座して眺めておるわけにはいかぬ」
「なるほど」
雄治と敬太郎君が頷く。
うん、古史古伝にそういう話が書かれているらしいね。あれって本当だったんだ。――
「吾が国には本来、神の御意志に沿うた深い思想が在る。されど欲得まみれの異国の思想に感化され、神の御意志を蔑ろにしてしもうた」
「解ります」