ちょっとした探検のレベルじゃん(汗)
三日三晩の土砂降り。しかし当日の夜明け前、突然雨が止んだ。
事前打ち合わせの通り、明け方五時、雄治があたしの家へ迎えに来てくれた。雄治のクルマに乗り込み、ふたりして生目一号墳へと向かった。
五時一〇分、現地駐車場に到着。ちなみに日の出は六時二〇分頃の見込みである。
事前に検討していた位置にクルマを停める。つまり一号墳後円部の近くである。
ふたりはクルマを下り、なるべく音を立てないようドアを閉める。それから一号墳に近付く。ふたり共、迷彩柄の出で立ちである。
「いやぁ、こりゃ厄介やなあ~」
いわば雑木林のような様相である。中は雑草が茂り放題で、しかも背が高い。それらが三日間の大雨で、びしょ濡れなのね。
「これに入って行くって、ちょっと勇気が要るよね……」
改めて一号墳の前に立ち、怯む。なにしろあたし達は現代っ子だもん。びしょ濡れになって雑草をかき分け、古墳の上に登るのは想像以上にキツいだろう。データから判断するに、一七mの墳丘に登りつつ五〇m以上進むと、漸く後円部中心に到達する。それってもう、ちょっとした探検のレベルじゃん(汗)
一号墳を何度も見ている筈なのに、今更ながらその困難さを意識させられる。
「鎌は準備して来たけれど、こりゃエンジン付きの草刈り機が要るレベルやぞ」
しばらく呆然と立ち竦む。
そもそも智ちゃん情報によると、前方後円墳の埋葬部分って分かりづらいらしい。墳墓を人体に例えて言うと、頭頂部に該当する位置から入る場合と首根っこに該当する位置から入る場合があるらしいのよ。この生目一号墳はどちらなのか、それも判らない。
早めに来たので時間はある。つまり日の出前に、卑弥呼様の墓がこの生目一号墳なのか、それとも瓜生野墳丘墓の方なのかを判断するつもりだった。が、いざこうして来てみると、何も出来ずに立ち竦むのみである。どうしたものか。……
って言うか、やっぱここもドローンを飛ばすのは難しそうだし。折角買ったのにムダになっちゃったかも。
取り敢えず、今出来ることだけでも……とあたしは準備してきたシールを取り出し、クルマの後部に貼る。念の為、偽装ナンバーシールも貼った。いや、あたしの勘に過ぎないんだけど、貼っとかなきゃいけない気がするんだよね。
時刻は五時半を過ぎた。
他に出来ることはなさそうである。卑弥呼様の言葉を信じ、日の出と共に何かが起きて全てが判明する、全てがうまく解決する……と思うしかない。
「こげんして待機するだけやったら、こン服装は失敗やったな。完全に不審人物や」
「そうだね。車の影にでも隠れていようか」
ふたりは駐車場入口側から見えにくいクルマの影に、しゃがんだ。
連日の雨のせいもあって、思った以上に肌寒い。緊張もあり、あたしはその……次第にもよおしてきた(恥)
しばらくガマンしていたが、全てが終わり帰宅するまで耐えられそうにない。意を決し、
「ちょっとトイレに行ってくる」
と雄治に声をかけ、立ち上がる。
車内のバッグからティッシュを取り出し、駐車場入口付近にあるトイレへと歩き出したその時、あたしは東北方角の空の異様な光に気付いた。