うん、もうあれこれ心配しない事にする
翌日の昼前、
「ドローンが届いた」
と雄治から電話が入った。充電の後、あたしの家に来る、という。急いでシャワーを浴び着替えると、迎えに来てくれた雄治のクルマで市内大淀川の河川敷に向かった。
ドローンは意外と大きかった。全長一m程もある。
「まだ小さいヤツもあるっちゃけどな。あんまし小せえと羽根の音が五月蝿えとよ」
なるほどね。――
ふたり、交代で飛ばしてみて操縦に慣れた。それから設定を行い、互いのスマートフォンで搭載カメラの映像を受信できるようにした。
映像を確認しつつ飛ばしたり着陸させたりしていると、突然雨が降り始めた。なので慌ててドローンを抱え、車内に避難する。
「今、気付いたんだけどさ……」
「おう。どうした?」
「瓜生野墳丘墓って、あちこち九電の鉄塔が建ってて、上空に送電線だか配電線だかが張り巡らされてたじゃん」
「あっ!!」
「これを飛ばすのって、ちょっと危なくない!?」
ふたりは黙り込む。車内には雨の音が激しく響き、ますます不安を煽られる。
色々とリスクを負いつつ、卑弥呼様の依頼に応じるわけよ。スケジュールが許す限り、思いつく限りの対策を施して極力万全で臨みたいの。しかしこうやって雨が降れば、準備期間がその分削られてしまう。
空が暗くなり、雨足は次第に強くなってきた。暫く待っていたが、すんなり雨が上がるような気配はない。ふたりは諦めて雄治のアパートへ戻った。
「まあ、いろいろ不安はあっけどな……」
雄治はコーヒーを淹れつつ、あたしに語りかける。
「卑弥呼様は俺達に、心配無用やち言うちょった。それを信じちょけば良か……ち俺は思うちょる」
「うん……」
「卑弥呼様は、俺達に何が出来っか、何が出来んか分かっちょる筈やろ? 何を知っちょって何を知らんかも、ちゃんと分かっちょる筈や」
「そうだね」
「つまり、俺達に出来ん事は言わん筈や。しかも、何をしろとも言われちょらん。四人揃っせ日の出前に来い……っち言われただけや」
「……」
「っちゅうことは、おそらく何もせんで良か。今やっちょる俺達の準備すら、意味無えかンしらん。まあ、出来る準備をやっちょくのは悪いこっじゃねえやろけど」
そうだよ。元々そういう方針で、準備を始めたわけじゃん。――
「うん、雄治の言う通りだよ。……よし、もうあれこれ心配しない事にする」
「じゃっどじゃっど~。そイが良か」
「大体あたし、ラッキーガールだし(笑)」
あたしは雄治の太い首に抱き着いた。
しかし外の雨はますます激しくなり、夜には大雨洪水警報が出た。季節外れの豪雨は、そのまま三日間降り続いた。