じゃったら「弥馬獲支」は「みまぉわっき」か
「そなたは……」
と、卑弥呼様はあたしに視線を転じ、
「『ぃやぅまとぅ』の歴史は、既に謎じゃと申しておったな」
と尋ねてきた。
「そうなんです。古事記にも日本書紀にも、卑弥呼様の名前が書かれていないんです。跡を継いだ臺与様も、それから卑弥呼様の弟さんの名前も載ってないし……」
「いやいや、左様なことはない。吾の名は勿論、周囲の者共の名も史に記されておるぞ」
「え~~っ!?」
あたしと雄治が声を上げる。
「そ~ら見たことか。そなた達はもっとしっかり史を読め」
そう言うなり、卑弥呼様の姿が次第に薄らぎ始め……消えた。
出現時間、きっかり五分。残されたふたりは呆然とする。
「そうか」
しばらく後、雄治が我に返り、口を開いた。
「卑弥呼様の名も、記紀に載っちょるんか……。どれやろか」
立ち上がり、デスクトップPCの前に座る。
「あっ。あたし、解ったかもしれない」
びっちょんこパ○ツ一丁のまま(恥)立ち上がり、雄治の傍らからモニターを覗き込む。
「昔の二倍年暦を今日の暦に換算すると、卑弥呼様と同年代は崇神天皇と垂仁天皇なんでしょ!?」
「じゃっど~」
あたしは雄治の横から手を伸ばし、キーボードを叩いてWeb辞書サイトで崇神天皇のページを開く。
崇神天皇。――
第一〇代。諡号はミマキイリヒコサチノミコト、らしい。もしくはミマキイリヒコニエノミコト。
「ほら。この名前、魏志倭人伝で見覚えがあるんだけど」
「う~ん。そげん言われれば……そげな気も」
ブラウザの別タブで、魏志倭人伝を開く。しばらくふたりして原文を目で追っているうちに、「弥馬獲支」の名を見つけた。邪馬台国の高官と記されている。
「ほらほらほら。これじゃない!?」
「う~ん……」
「この前『獲加多支鹵大王』の読みを調べてる時にさ、『獲』は『ぉわっ』と発音したのではないか……って書かれてたのを見たの」
「ほう。じゃったら『弥馬獲支』は『みまぉわっき』か」
「どうだろう……。卑弥呼様の喋り方、気付いた!? あたし、前から気になってたんだけど」
「何か、もわもわ~って感じやったなあ。口元に力が入っちょらん、っちゅ~か……」
「でしょ!? それから濁点のインパクトも弱くて、半濁点(注:パピプペポ)っぽい発音だったよね。昔の日本人がみんな、あんな発音だったとしたらさ、『みまき』は『みもぁき』って感じで発音だったんじゃない!?」
「なるほど。そイを魏朝の連中は『みまぉわっき』ち聞き取って、『弥馬獲支』ち筆記したか……」
「そうそうそう」
「なるほどなあ」