天孫の血をひいておる「証(あかし)」のひとつじゃの
「て、天から……」
あたしも雄治も、驚きのあまり声が出なくなる。
いや、確かに記紀神話にもそう書いてあるんだけどね。いまや二一世紀。宇宙(人)考古学ってのも念頭に置かなきゃダメだ、ってことは充分承知してるよ。実際そういう認識だったしね。
でもさ、直接卑弥呼様からそう伝えられると、やっぱ驚くわけよ。そりゃそうでしょ!?
「吾のご先祖様たる伊邪那岐尊と伊弉諾尊は……そなた等の言う『木星』のそばからやって来た。長年かけてこの星の環境を整えた。その後『土星』のそばから、饒速日尊らがこの星に降臨した。つまり国津神じゃな。あ、元の星は違えど、共に同族ぞ」
「!!」
「しかる後に、瓊瓊杵尊が高千穂峰に降臨した。山に降りた故、『山人』と呼ばれた」
「なるほど。やっぱそうですか……」
「ニニギ殿は地上に降り立ち、コノハナサクヤとまぐわうて吾が一族の礎を築いた。次の代、ホオリ殿が『海の民』を糾合し、さらには龍とまぐわい吾が天孫一族の血を強固にした」
卑弥呼様は衣服の片肌をまくり、あたしと雄治に見せる。そこには薄くウロコがあり、背中の真ん中には少し長めの白い産毛が、タテガミのように生えていた。
「あっ!!」
あたしは突然、閃いた。
半分脱ぎかけて脛に絡まっていたジーンズを、脱ぎ捨てる。
「これですか」
あたしは自分の脛を、卑弥呼様に見せた。あたしのほぼ唯一のコンプレックス、まるでウロコのような脛の皮膚。これってもしかして……つまり、そういうこと!?
「そうじゃ」
卑弥呼様は一瞥するなり、頷く。
「それも、そなたが吾ら天孫の血をひいておる『証』のひとつじゃの」
そうだったんだ。現代では魚鱗癬といって、皮膚病の一種だと説明されているけれど、そうじゃなかったんだ。龍の遺伝子が混じってるからなんだ。――
「天孫日御子は、神……即ち宇宙や地球を創りたまうた意識体の、御意志を聴く能力が備わっておる。『すめらみこと』は、其を民衆に知らしむる使命を負う。民衆に知らしめ、導き、神の御意志をこの世に現す。それが『政』の本質じゃ。そなたも天孫の末裔として、心しておけ。いずれそなたも、天孫たる使命を担うやもしれぬ」
あたしは伊勢海老と宮崎牛ステーキと高級マンゴーを無理矢理一気に口の中へ突っ込まれたような状況。怒涛の衝撃的事実に目玉がひっくり返り、言葉を失う。そんなあたしと対照的に、傍らの雄治はそれをさっさと咀嚼した上で、冷静に卑弥呼様へ問いかける。
「卑弥呼様。現代では『進化論』と言って、生物は全て自然に発生し、次第に進化したと習ちょるとです。ヒトも、サルから進化した……と」
「阿呆ぬかせ。猿がヒトに成るかいな(笑) 史にも書いてあろうが。吾のご先祖様方が尽力し、自然環境やあまたの生物を生み出して、この地球この国を創った。そなた達の言葉で……ほら、何とか言うじゃろ?」
「テラフォームですか」
「おう、それじゃ。それが一番手っ取り早かろうが。史にもまさしく、そう書かれておる筈じゃが、気付かなんだか?」
「なるほど……」
いやホント、衝撃的過ぎる。