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War Guilt Information Program

 あたしが「プロレス」という表現を口にすると、有村雄治は吹き出しつつ、

「じゃっどじゃっど~」

 と頷いた。

 つまり、学者達はあたかもガチンコ論争を繰り広げているように演出しつつ、皆、まるで本気を出していないらしい。


「歴史学会的には、『可能性その三』の『大和朝廷は邪馬台国後に誕生した』であって欲しいとよ。何故なら『長く、栄えある皇国の歴史』っちゅうのを否定したい。ちっとでん(少しでも)、我が国の歴史を短くしてぇち思惑があっとよ。そイがいわゆる、学会における古代史観の合意コンセンサスじゃっとよね」


「へぇ~~。どうして?」

 あたしが首を傾げると、有村雄治がみやこんじょ弁丸出しで解説してくれた。


 彼いわく、なんでも戦前戦中に、

「皇国史観」

 というものが流行ったらしい。――


 天皇制を中心とする歴史観のことである。軍人達はそれを根拠に、「大東亜共栄圏」思想を掲げ軍国主義にひた走った……というのである。


 が、我が国は太平洋戦争において、連合国に敗北した。

 その後我が国に乗り込んで来た進駐軍……という名の占領軍GHQは、日本占領政策の一環として、

「|戦争犯罪宣伝プログラム(War Guilt Information Program)」

 という戦略を展開した。


 GHQはそのWGIP戦略に基づき、軍国主義の根拠として機能した皇国史観を、「悪」と定義した。と同時に、その根っこにある「長く、栄えある皇国の歴史そのもの」を否定する戦術を採った。


「これには幾つかのメリットがあっとよ」

 と、有村雄治は言う。


 主なメリットの一つは、GHQは日本国民に対し、

「悪いのは天皇制とインチキ皇国史観だ。そしてそれを担いだ軍部だ。一般の日本国民はそれに騙されただけであり、被害者に過ぎない。何も悪くない」

 と刷り込み、日本国民を味方に付けて人心掌握を図る……というものである。


 二つ目は、

「日本の『長く、栄えある皇国の歴史』を否定して、日本人の『矜持』を奪う。そして日本人の精神的弱体化を図る」

 というものである。


「そうそう。そうやっとよ」

 と、黒木敬太郎が相槌を打つ。


「歴史学者も戦前戦中、皇国史観に随分と苦しめられたとよ。学者がちょっとでも皇国史観に反する研究成果を発表すると、不敬罪を食らったとよね。学者は自由に物が言えず、皇国史観は『目の上のタンコブ』やった。だからGHQと、学者の思惑がそこで一致した」


 学者や教師は敗戦後すぐ、全員が公職追放となった。食い扶持を奪われ路頭に迷った。しかしGHQのWGIP戦略に迎合し、彼らの戦術の片棒を担いで「自国の古代史観を毀損」することにより、教職や研究職に復帰出来た……らしい。

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