そこが邪馬台国であるっちゅう、必然性が感じられるかどうか
展示施設の外には、縄文期の復元住居が沢山建ち並んでいる。
中を覗き込んでみた。ちょっと大雨が降ったら、途端に水浸しになりそう。……
「竪穴住居があんなにショボかった筈がねえ。住居として成り立たん」
という雄治の主張には、一理あると思う。学者先生方は、そこに何の疑問も抱かないのだろうか。
ふたりはしばし、この上野原縄文遺跡の素晴らしい雰囲気を味わった後、クルマに戻った。
「さすがにちと疲れた。ちょい仮眠をとらせっくり」
雄治は二分程、工業団地内をクルマで走り、一番外れにある展望施設に駐車した。
ふたりは車外に出る。他には誰もいないっぽい。
眼下には錦江湾が広がり、その先には丁度噴煙を上げ始めた桜島が見える。逆側に目を転じると、霧島連峰を一望出来る。
雄治は芝生の上に、ゴロリと寝転がった。すぐに軽いいびきをかき、熟睡のご様子。
あたしはそのすぐ傍らに腰を下ろすと、そっと彼の頬を撫で、さらに彼の唇に触れた。頼りになる男の無防備な姿って、何かイイね。可愛い。
しばらく雄治の手にあたしの手を絡め、さらに左足太ももを撫でた。そして真ん中の、ちょっとふっくらしている一番可愛い所(笑)をつんつんして遊んでいるうちに、雄治がいきなり目を覚ました。あたしは慌てて手を引っ込める。
時間にしてざっと一五分位か。
「良う寝た。帰るか……」
傍らの自販機で飲み物を買い、それからクルマを走らせた。国道に出ると峠道を力強く駆け上りつつ、宮崎を目指す。陽はまだ高いが、峠道は既に薄暗くなりかけていた。
「紗耶香も邪馬台国ン行程問題を調べよっせ、色々な説を見てきたやろ?」
「うん」
「どれもカンペキとは言えん。なるほどち納得させらるっ視点もある。じゃっどん、一つ二つは必ず弱点がある。……つまりどれもこれも、決め手に欠ける」
「うんうん」
「俺が思うに、諸説の問題点は、二つある。一つは考古学的裏付けがあるか……っちゅう点。もう一つは、歴史観やな」
「ほぉ~~」
「どれだけ理論的には筋が通っちょっても、遺跡やら何やら、考古学的な裏付けが無かったら説得力ゼロやろ!?」
「うん。解かる」
「大した遺跡も古墳も無えとに、『そこが邪馬台国や』っちゅうて主張しても、全然説得力が無えわな」
「そうだね」
「あと、そこが邪馬台国であるっちゅう、必然性が感じられるかどうか……やな。俺の考えでは、そイが歴史観や」
オーディオからは、ミスコン用イメージ動画でBGMとして使うつもりの、チャイコフスキーの交響曲第五番が微かに流れている。
帝王と呼ばれた名指揮者の、流麗かつ力強い演奏。ボリュームを絞っているのに、帝王のタクトの凄まじさがひしひしと伝わる。音楽に引き込まれつつ、雄治の話にも引き込まれる。車内はさながら異空間のような状況にあるのを、あたしはふと意識する。
「太古に一大日向勢力があっせ、そン一部が東征して大和朝廷を築いた。そりゃもう、一筋縄ではいかんから、残った日向勢力が言わば『本家』として畿内大和朝廷をバックアップし続けた。そげな構図が、西都原の博物館を見ちょっせ推測出来る」
「うん……」
あたしは脳裏に、西都原考古博物館の膨大な展示物を思い浮かべた。そこには大陸や瀬戸内海沿岸由来の、豊富な遺物が確かにあった。