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トンカラリン

 トンカラリン。――

 ナビは無いけれどWebマップツールを駆使し、あたし達はほとんど迷うことなくそのミステリアスな遺跡を見つけることが出来た。


 熊本市よりざっと一五km北の、和水町にある遺跡である。まさに卑弥呼様の言う、狗奴国エリアに該当する。いつ、誰が、何のために築いたモノなのか、全く判っていない。地下に、数百mにわたり石組みの隧道が作られている。


 中世以降に作られた「排水路」説は、最近の研究によってほぼ否定された。

 その一方、わずか一km弱の位置には有名な江田船山古墳があり、また二km先の前原長溝遺跡からは最近、これまた謎の、弥生中期の変形頭蓋骨が三つ発見されている。なのでそれらとの関連が取り沙汰されている。つまりトンカラリンは、弥生~古墳時代の遺跡だという可能性があるというのである。祭祀施設説が根強い。


 たださあ、意味不明なモノは何でもかんでも宗教絡みって発想は、あたし的にはどうかと思うんだけどね。――

 なかなか精巧な石組みの、隧道トンネル。中世の築造ならまだしも、古代の物であれば大変な構造物だと言わざるを得ない。重機もなしに五〇〇m近いトンネルを掘り、千年以上も壊れない強固な石組みを施すなんて、スゴい技術力じゃん。テクニシャンだよテクニシャン。


「中に入れるらしいぞ」

 と雄治は言う。しかし、なにしろ蒸し暑いし、蚊が沢山飛び回ってる。それに変なムシとかも居そうじゃん。

「入るの? あたしはちょっと……ごカンベン願いたいわ~」

 汗だく泥だらけのぐちょぐちょになりそう。――


「さすがに、ちと辛いな。着替えとか準備せんとムリか……」

 言い出しっぺの雄治も及び腰である。

 ふたりして「どうぞどうぞ♪」とベタなネタを披露し合った挙げ句、断念。入り口と出口を仔細に観察するに留めた。フィールドワークは真夏を避けるべきらしい。


「エジプト考古学で有名な、早稲田の吉村(作治)先生なんかは、こン石組みはエジプトでも見られる『布石積み』やち主張しちょる。まあエジプト文明は全然関係ないやろうけど」

「へぇ~~」

「そイから、古代朝鮮との関連を主張する学者もおるけど、客観的に見て眉唾やな」


 トンカラリンは古代朝鮮語由来だとか、石組みが古代朝鮮式だとか主張しているらしいが、その現物がどちらも現存していないため、

 ――何を根拠に言うちょるのか、さっぱり意味が解らん。

 と雄治は言う。


 あたし達は車に乗り、有名な江田船山古墳や、変形頭蓋骨が出土した前原長溝遺跡にも行ってみた。それから隣の旧・菊水町や、もう少し足を延ばし菊池市の幾つかの遺跡を、ちょこちょこと回ってみた。


 それらをひと目見て気付くのは、石室等の石組みがスゴいこと。天井岩なんかはかなり綺麗にカットされている。その辺がトンカラリンっぽいね。それから派手に装飾が施されているの。な~んか、宮崎の生目や西都原、及びその周辺の遺跡とは、文化的に異質な感じ。何かが根本的に違う。

「どれもこれも卑弥呼邪馬台国時代より後やけどな……」

 と雄治は言うが、あたしは時代の差云々うんぬん以前に、古代の宮崎とここでは文化のルーツ自体が異なるように感じるんだけど。――


「宮崎にもわずかやけど、装飾古墳とかがあるぞ。ただし古墳時代の最後らへんのモンらしい……」

「なるほどね。……ってことは、『本家ぃやぅまとぅ』は卑弥呼様の時代より後になって、狗奴国に侵入されちゃったんじゃない? だから大和朝廷は、何度も熊襲征伐をやったのかも」


そうかもしれないじゃらせんどかい。そイで、熊襲は狗奴国ルーツ……と」

 雄治の推測も、あたしと概ね同じらしい。

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