丁度UFOが着陸し易そうな地形だしさ
山道を北へ七〇km走る。
向かった先は、「押戸石の丘」である。阿蘇外輪山の北側に位置する。
これまた既に、予習済み。丘陵に数トンから数十トンクラスの岩が沢山並べられている。そこに、何とシュメール文字が刻まれているのである。
よく岩を眺めると、確かにそれっぽい文字らしきモノが刻まれていた。ペトログラフの国際学会によれば、シュメール文字に間違いないらしい。
「不思議やなあ……」
と雄治が呟く。
「シュメール人っちゅうのは、学校でも習ったけど、突然中東の地に現れっせスッゲー高度な文明を築いた。で、突然跡形もなくいなくなった。どうやら世界中に散ったらしく、世界各地にこげなペトログラフが残っちょる。こイもそン一つや」
うん。それも先日の下調べ中に、雄治から聞いた。
「日本の天孫降臨話は、実はシュメール人渡来による文明伝播ン記録かもしれんな……」
雄治は言う。
風が、心地良い。――
あたしはあらためて周囲を見渡す。
シュメール人の末裔が、はるばる極東日本にやって来た。そこはまあ、理解出来る。しかし何故、わざわざこんな丘に登り、巨石を並べて何らかの記録を残したのか。その動機が、見えない。
素直に考えれば、例えば海からやって来た彼らの上陸地点に、
「よし、ここに記念碑を建てよう」
……みたいな事を考えた可能性はあるよね。しかしここは九州の内陸部。それも阿蘇山の傍らの小高い丘陵。上陸地点ではあり得ない。
じゃあ、ここは渡来したシュメール人が本拠地とした場所だったのか。それなら巨石を並べて記録を刻んだ理由として納得がいく。いやしかし、それも不自然だよね。あたしがシュメール人なら、世界的大火山たる阿蘇山の傍らを本拠地に選ぶなんて、そんなマヌケなことはしないよ。
うん、解った。やっぱシュメール人のルーツは宇宙人だ。彼らはUFOに乗ってダイレクトにこの地へ降り立ち、
「取り敢えず、ここに記念碑を建てとこ~っと」
と考えたんだよ。そうそう、そうに違いない(笑) 丁度UFOが着陸し易そうな地形だしさ。……
いやまあ、素直に考えれば、単なる阿蘇山の観測地だったのかもしれないけどね。雄治の実家そばの、母智丘みたいに。あそこだって、桜島や霧島の観測地っぽいじゃん。
「いずれンせよ、この辺に何らかの異文化が存在したっちゅう可能性がある。ここは、そン痕跡の一つやな」
雄治はしみじみと言う。
「ここ、掘ったら何か出てくるかもね。都市の遺跡とか……。あ、シュメール人のUFOが出てきたりして(笑)」
そんなバカ話に打ち興じつつ、この地の雰囲気を充分に感じた後、あたし達はクルマに戻った。
百km以上、山道を走り、陽が落ちる前に佐賀県鳥栖市に到着。そこで安いビジネスホテルに宿泊した。抜かりなくダブルルームを予約済。
あ、勿論費用を少しでも浮かせるためだからね。ほら、やっぱダブルの部屋が一番安いから。イヤイヤ、それ以上の理由は特にナイよ。ヘンな勘違いしないでよね(汗)
ただし、まあこれはナイショなんだけど、その晩あたしは雄治と無事結ばれ、めでたくオトナのオンナになった。――