少女
少女はしばらく泣いていた。リリアさんは少女の背中をポンポンと叩きながら寄り添っている。
俺はそれを黙って見ている。
しばらく歩いていると、少女は泣き止んだ。
そして、
自分のことを話してくれた。
父は昔に戦死して、しばらくは母と2人での生活だったらしい。だが、何年かすると母が1人の男を連れてきた。新しいパパとだよと母は言い、男は家に住み始めた。
初めは複雑な気持ちだったが、しばらく経って慣れてきた。それというのも、その男は面倒みがよく、優しい男だったそうだ。
だがある日、男は急に家から消えた。高価な物品と貯金を全て持って。その際、たまたまその場にいた母が止めに入ったのだが、ナイフで複数箇所を刺され、重傷を負ったらしい。その後、母は何とか一命を取りとめたそうだが、いくつもの後遺症を負い、まともに仕事をすることが出来なくなってしまった。
その日から、少女と母親は貧しい生活を送り続け、次第に借金も増えていった。
今回森に入り込んだのは、母の知り合いの男達に、
街で高く売れる薬草が森にあるから、それを採ってきてくれればいくらかお金を出してやれる。
と言われやってきたらしい。だが、その薬草は真っ赤な嘘で、ずっと探しても見つからず、危うく魔物に殺されそうになっていた所をたまたま通りがかったリリアさんが助けてくれた。と。
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男達は何故少女を森に入らせたかったのだろうか。少女とは仲が良かった訳でもないだろうしな…
そうすると家にやってきた男とグルだと考えるのが妥当だろう。
なら…少女を森に一人で入り込ませた理由は何だ…
魔物に襲わせて殺すためか…?
いや、あの森は結構冒険者くるらしいし、確率は低いだろう。行かせるならもっと別の場所だろう。今回は俺たち以外とは会わなかったらしいが。それに得もないしな。
……もしかしたら…
「お嬢さん。もしかしたら、お嬢さんの母親が身の危険に晒されているかもしれない。確証はないが、お嬢さんの家まで案内してくれないか?」
「…?それってどういう…」
「説明は走りながらしよう。事は一刻を争うかもしれない。」
「うん。」
少女は小さく頷いて、案内してくれた。
俺は少女をおぶりながら走った。
「それで、何が危ないって言うの?」
「男達は、お嬢さんを騙したかったんじゃなくて、母親と離れさせたかったんじゃないかな。」
「何故そんなことをする必要が?」
「理由は正確にはわからないが、お嬢さんを奴隷にしたいとかじゃないかな。」
「母親は家に来た男の顔を知っているわけだし、娘が連れ去られたとなったら真っ先に疑われるのはその男だろう。そして、その男は1人じゃなく、グループだったんだ。」
「グループって…」
「男達は、お嬢さんを奴隷商に売る際に、お嬢さんの母親から疑われるのを避けたかったんだ。」
「あ、そうだ、そう言えばお嬢さんの名前を聞いていなかったね。名前はなんて言うんだい?」
「それ、今聞く?」
…聞き忘れてたんだから仕方ないんだ…
「レニア」
「レニアちゃんって言うのか。今更だけどよろしくね。」
「俺、カナタ。よろしくね」
「よろしくね。レニアちゃん。」
しばらく走ると、特に襲撃があるわけでもなく、レニアちゃんの家に着いた。